脊椎の再手術が成功する確率は?

手術に賭けてみる価値があるのはどんな場合か?

What Is the Probability of Success of Revision Spine Surgery? When Is It Worth the Gamble?


患者は再手術の否定的な面をめったに想像しないものである。しかしながら、いつでもかなりの確率で2回目の手術で疼痛や活動の不自由度が実際にひどくなってしまうことがある。

最近、New York Cityで開催された国際腰椎研究学会(ISSLS)の教育講座において、再手術に関する討論の中で、AlfL.Nachemson医師は、「スウェーデンでの我々の研究成果では、2回目の手術で患者の症状が改善する可能性は40%、悪化する可能性は50%です」と述べた。

再手術に関する統計データは複雑で紛らわしく、国によって異なっている。一般的な傾向として、再手術の成功率はあまり芳しくない。「再手術の結果は、一般に初回手術に比べて良好ではなく、手術の成功率が回を重ねるたびに低くなることについては疑う余地がありません」と、オーストラリアの外科医Robert Fraser医師は述べている。

Fraser医師は、ISSLSの教育講座で再手術に関する学術論文の最新レビューを発表した(現在、論文未発表)。Fraser医師は「今回の文献調査から、再手術は患者の症状の原因が明確で、再手術が有効となる十分な見込みがある場合にのみ実施すべきであるという結論に至りました」と述べた。

Fraser医師は、再度の脊椎手術の予後が良好でない原因として考えられるいくつかの因子を明らかにしている。それらを以下に示す。

*心理学的障害のある患者の場合:心理学的障害のある患者における再手術の結果は、」般的に思わしくないといくつかの研究が示唆している。

*補償請求がらみの患者の場合:補償請求に関与している患者は、そうでない患者に比べて、再手術の予後が良くないことがいくつかの研究で指摘されている。たとえば、J.Greenwood医師らは、補償を受けていない患者では81%に手術後満足な結果が得られたのに対し、補償を受けている患者で満足な結果が得られたのはわずか43%に過ぎなかったと報告している(Journal of Neurosurgery 1952;9:15-20.を参照)。

*線維症の手術(硬膜外瘢痕、クモ膜炎など)の場合:線維症の改善のみを目的とした再手術が成功したという報告はない。線維症の手術は、最も良い成績を報告している論文でさえ、『満足な』結果が得られたのは38%に過ぎなかった(Fandino J, et al.,Acta Neurochirurgica1993;122(1-2):102-104.を参照)。

*初回の椎間板手術後(discectomy)に、疼痛緩和が全くみられなかったか、一時的でしかなかった患者の場合:初回手術後に疼痛緩和が全くみられなかったか、あるいは一時的なものに過ぎなかった場合は、2回目の手術が成功する見込みは低くなる。

*偽関節修復の場合:Fraser医師によれば、偽関節の修復は一般的に再手術を行うものであるが、概して結果は芳しくない。ただし、脊椎後側方固定術後の偽関節修復のための前方椎体固定術は例外と考えてよいだろう。Fraser医師の論説によると、再手術の予後が良いのは以下のような場合である。

*初回の椎間板手術後、長期にわたり疼痛緩和がみられた場合:初回手術後、少なくとも6〜12ヵ月間にわたり症状が軽減された場合、2回目の手術の予後はさらに期待できる。Fraser医師は、「おそらく初回手術で長期にわたり症状が軽減されたということは、手術が比較的上手くいったことを示しており、再発した場合は新たな障害が発生したのものと同様に考えられます」と述べている。同様に、異なる椎間の椎間板ヘルニアの再手術の予後も良好である。

*椎間板手術/除圧術が失敗した後の固定術の場合:いくつかの研究では、最初の固定術が失敗した後の固定術の成功率は50%しかないと報告されている。しかしながら、Fraser医師によれば、椎間板手術あるいは除圧術失敗後の固定術の成功率はもっと高いと報告されている(Bernard TN Jr.,Spine,1993;18(15):2196-2200.を参照)。

*脊柱管狭窄症の除圧術の場合:再度の除圧術の成功率が高いことを示した研究が2つあ(Laus M et al.,Chirurgia Degli di Movimento,1994;79(1):119-126.と、Johsson B and Stromqist B, Journal of Bone and Joint Surgery,1993;75B:894-897.を参照)。

しかし、度重なる手術となると成功率は急に低くなる。Fraser医師は、「Waddell医師の研究は、特に再手術を信頼している者の酔いを冷ますに違いありません」とみている。Waddell医師は、再手術を受けた労災補償患者を対象とした研究で、手術の成功率が2回目では約45%、3回目では25%、4回目では15%であることを明らかにした(Journal Bone and Joint Surgery,1979;61A:201-205.を参照)。

しかしながら、どれ位の成功率であれば再度の脊椎手術が認められるのであろうか? Nachemson医師は、2回目の手術後に症状が悪化する見込みが50%であると聞かされれば、一般的にはスウェーデンの患者は再手術を拒むだろうと述べた。

一方、米国の外科医は(他の国の医師もそうだろうが)、成功の見込みがわずかでも患者が手術を選ぶことはよくあると述べた。Fraser医師は、「確率が途方もないほど低くても進んで手術を選ぶ患者がたくさんいます」と語った。「彼らに言うのです。私だったらそんな確率の低い賭けはしませんよ、と」。それでも患者が手術を選ぶことがあるのだ。

「再手術の成功率の許容範囲を正確に定めることは非常に難問です」とFraser医師は言う。「脊椎専門医が答えなけれはならない最も重要な質問です」。さらに、患者が極めて成功率の低い手術を進んで受けようとする場合、医師は何回まで手術を行うべきなのだろうか?いずれの問いにも簡単には答えが見つからない。

しかしながら、患者が詳しい説明を受けた上で選択をすべきであるという点には、誰もが同意している。「医師が、それぞれの国の文献に示された平均的な成績に基づく情報を、たとえ完全なものではなくても、患者に提供することが重要だと、思います」とNachemson医師は語った。

TheBackLetter,11(8):90.1996.

加茂整形外科医院