椎間板起因の腰痛に対する椎間固定術の不確実性

Uncertainty Over Fusion for Discogenic Back Pain


椎間板起因の腰痛の治療において、椎間固定術は予測可能な治療結果をもたらすだろうか。最近サンフランシスコで開催された米国整形外科学会年次総会で、ScottBoden医師は「それはまだ無理でしょう」と指摘した。

脊椎医学のこの領域は、まだ不確実な部分が多い。様々な研究ではじき出された成功率が、至る所で発表されている。しかし、研究方法の上で限界があるため、母集団が異なっているための比較不可能な結果でその解釈をするのは難しい。

「このような研究によって、我々には様々な限界があることがはっきりしてきました。すなわち、臨床診断の的確さ、手術以外の方法で治療した場合の長期自然経過の把握、および最適な外科治療法の選択などに対する限界です。さらに、X線像などの非侵襲的検査による癒合の評価能
カの限界により、このような不確実性はさらに複雑なものになります。それに加えて、社会心理学的因子が患者の治療結果に有意に影響を及ぼす可能性があるので、それらも考慮に入れなければなりません」とBoden医師は述べた。

「早い話が、我々が何を治療しているのか、どのように治療したらよいのか、いつ治療効果が表れたのかについて、確信がないのです。患者がタバコを吸ったり、労災補償を受けていれば、さらにわからなくなります」とBoden医師は付け加えた。

Boden医師がこの様なコメントを述べたのは、最近行われた固定術に関する二つの研究を再検討した後のことであった。その一つは、Stephen Kuslich医師らの、BAK固定用ケージを使った、椎体固定術に関する大規模なプロスペクティブ研究で、癒合率も臨床上の成功率も高かった。
(Kuslichetal.,1997参照)この研究は、以前にもBackLetterで取り上げている。(BackLetter,1996参照)

Boden医師はこの見事な研究の発表者に賛辞を送った。「この器具は、ある種の椎間板起因の慢性腰痛の治療において安全かつ有効であるという結論が出されており、研究データもおおむねその結論を裏付けています」。

しかし、この種の研究における治療結果は、疾患に特異的で、かつ患者本位の評価項目を用いて実証される必要がある、とBoden医師は指摘した。また、骨癒合を判定するためのX線検査の方法や、本研究に用いられた椎間板起因の腰痛の定義が、相当あいまいである点について疑問を示した。

さらに、理論的には患者が高齢になり脊椎に骨減少が表れた時の、金属製永久インプラントの長期的な成績について懸念を示した。

2番目の研究は、David J. Cicerchia医師らが行ったレトロスペクティブな研究である。「椎間板造影で確認された」非神経根性の腰痛のために、一椎間の腰椎椎体前方固定術(ALIF)を受けた患者100例について調査したところ、長期的な治療結果はあまり良好ではないことが分かった。(Cicerchia et al.,1997参照)

Cicerchia医師らは「Oswestry Disability Indexに基づくと、当初の成功率は57%でしたが、平均6年
後の経過観察では47%にまで低下しており、これはプラセボ効果より低い数字でした」と歯切れが悪かった。「最近では新しいテクニックやインプラントが開発され、再びALIFに関心が集まっています。それらの長期的な効果の評価では、懐疑的にならざるを得ません」とも述べた。

Boden医師は、Cicerchiaらの長期にわたる経過観察、明確な研究採用基準、そして妥当性が証明され、疾患に特異的な治療結果評価項目の使用について称賛した。しかしながらこの研究では、労災補償の有無、訴訟状況、喫煙などの病態を複雑にさせる重要な関与因子について調べ
ることはできなかった。どうやら、手術を行った元の医療機関が、それらのデータを彼らに公開しなかったようである。


参考文献:

・BachLetter, 1996; 11(7): 73(日本語版1997; N0.8: p.4) 
・ Cicerchia DJ et al., Long-Term Outcomes of Anterior Lumber Interbody Fusion for Nonradicular Back Pain. 米国整形外科学会年次総会'(1997年、San Francrsco) にて発表。
・ Kuslich S et al., The BAK Method of Interbody Fusion: Two year Follow-up. 同総会にて発表。


The BackLetter 1997・ 12(4) : 46.

加茂整形外科医院