慢性頸部痛の治療:治療法は何通りもあるのだろうか?

The Treatment of Chronic Neck Pain: Many Ways to Skin a Cat?


最新研究により、慢性頸部痛は適切な治療を受ければ予後が良好であることが明らかになった。

しかしながら、何が最適な治療法なのかは依然として明らかではない。この無作為研究では、理学療法、頸部筋肉の集中トレーニング、脊椎マニピュレーションのそれぞれで同じような結果が得られた。

「これら3つの治療法は、疼痛の愁訴、活動不能度、および薬剤使用に関して、同程度の改善作用を示しました」と、デンマークのコペンハーゲンの研究者Alan Jordan博士らは結論づけている(Jordan et al.,1998を参照)。しかし、この結果には、無理がある。慢性頸部痛の自然経過はわかっていないし、しかも、この研究ではプラセボ対照群を設けていなかった。したがって、もっと低コ
ストの治療や、あるいは全く治療をしない場合よりも、これらの治療の方が優れているとの保証はできない。

「この研究が示しているのは、治療法は1っではないということです」と語るのは、シアトルのPuget Sound Sports and Spine Physiciansの理学療法士であるStanley A. Herring 医師である。

「つまり、運動療法、理学療法、およびカイロプラクティックは、どれも慢性頸部痛を改善できることを示しているのです。問題は、その療法が(自然経過を)観察するだけの場合よりも効果的なのかという点です」。患者の改善については「慎重に解釈しなければならない」と、付随論説の中でClaus Manniche博士が示唆している(Manniche,1998を参照)。

患者119例についての無作為研究

Jordan博士らは、119例の患者を3つの治療法のうちの1つに無作為に割り付けた(表)。すべての被験者で、衰弱性ではない慢性頸部痛が3ヵ月以上持続していた。重症のむち打ちの既往歴のある患者や、頸椎手術を受けたことのある患者、および関与因子となりうる各種疾患のある患者は除外した。

治療は6週間にわたって行われた。すべての患者に、各療法に加えて、「頸部についての講義(1.5時間)」、人間工学的アドバイスと自宅運動療法の指導を行った。

治験責任医師らは、4ヵ月目と12ヵ月目に郵送による問診票を用いて評価を行った。また、筋力、関節可動域、および持久力について、登録時(割り付けの前)と研究終了時にも盲検下での臨床評価を実施した。

疼痛、活動障害度および薬剤使用に関して約50%の改善が得られた。6週間にわたる治療の終了後かなりの時間が経過した4ヵ月目および12ヵ月目のいずれの追跡調査時においても、効果は持続していた。

シンプルで的確な研究

対照群はなかったが、Manniche博士は、比較的シンプルで的確な研究デザインであったと、著者らを賞賛している。

Manniche博士は「本研究の患者の選択は、疼痛の位置および持続期間などのシンプルな診断分類システムに基づいて決定されており、治療および評価手段(結果評価を含めて)は、ハイテク器具を使用しない方法で実施されています。脱落例は少なく、明快な結論が得られています」
と述べている。

本当にすべてが同程度か?

対照群が存在しない場合、患者の長期間持続している改善を説明できる要素はいくらでも考えられる。非特異的なプラセボ効果もその1つである。「おそらく、痛みに悩まされている患者にとっては、それが体系化された治療法であればどんなものでも、良くなったと感じるのかもしれません」とHerring医師は述べている。

Manniche博士は、現在の評価基準では、無作為群間の小さな差を検出することも、特殊な療法で効果が得られるサブグループを同定することもできないだろうと指摘している。この最新の研究では、各治療群間の結果に有意差がみられたのは、たった1点に関してのみであった。集中
的トレーニングを受けた患者で筋力は他の群の患者と同程度であったにもかかわらず、持久力の程度は有意に高かった。

本研究で行われた集中的な筋肉トレーニングプログラムの利点について疑問を抱いている研究者もいる。「彼らの筋カトレーニングプログラムが信用がおけるものであるならば、なぜ被験者の筋力は増大しないのでしょうか?」とVert Mooney医師は言う。彼は、抵抗を正確に記録できる装置を用いた抵抗プログラムであれば、漸進的に筋力が増大していくはずだと述べている。Jordan博士らは、彼らの集中的な筋肉トレーニングプログラムは特別にデザインしたもので、筋力よりも持久力を増大させることを目的としていると述べている。理由はどうあれ、3つのプログラムの中で、他より勝っていると証明されたものはなかった。「現在のところ、理想的な治療法は確立さ
れていません」とJordan博士らは結論している。

「是非、答えていただきたい質問がたくさんあるのです」とHerring医師は言う。慢性頸部痛の治療においては、筋力や可動性(motion)が有している価値は何なのか。能動的治療と受動的治療のどちらが重要なのか。患者本人は3つの治療法から、簡便性、費用、個人的な好みに基づ
いてどれかを選ばなくてはならないのか。

対照群を考えるとしたら?

Manniche博士は、この種の臨床研究では、倫理的あるいは実際的に、(真の)対照群を設けるのはほぼ不可能であると指摘している。患者は、無治療対照群またはプラセボ治療群への割り付けを当然嫌うであろう。

「この時代に、患者に何も治療をしないというのは不可能だと思います。痛みをもつ人々は何らかの治療を求めています。患者が『ハズレくじ治療群』に割り付けられた場合、そのこと自体が一層悪い結果を生むのではないかと心配です」とGroup Health Cooperative of Puget Soundの
Daniel Cherkin博士は言う。

しかし彼は、これ以外の現在研究中の治療法の有効性および対費用効果を解明するための比較研究を設定できると考えている。この比較研究には、彼は信頼が置けて治療費が安い対照療法を含めるだろうと言う。

彼は「本研究では、3種類の治療がかなり集中的に行われました。結論として言えるのは、これらの効果が同程度であったということです。しかし、このどれかを、治療費の安い非集中的な治療法と比較したらどうなっていたかは分かりません」と述べている。

例えば、1000ドルの治療が良好な治療成績を示しても、それが200ドルの治療と変わりがなければ、様々な問題をはらむことになるだろう。それは、ヘルスケア政策の立案者にとって貴重な情報となるであろう。

今後、もっと他の研究方法や対照治療を用いた研究が実施されなければ、慢性頸部痛治療の相対的な有効性や対費用効果についての重要問題に決着がつかないだろう。しかし、その間であっても、今回研究対象となった症状がある患者は良い治療法を選べるようだ。3種類の治療法はどれも、患者を回復させることができるのだから。


参考文献:

Jordan A et al, Intensive training, physiotherapy, or manipulation for patients with chronic neck pain, Spine, 1998; 23(3): 31 1-9.

 Manniche C, Point of View. Spine, 1998; 23(3): 320. 


The Back Letter 1998・ 13(4) : 40, 41.

慢性頚部痛の3つの治療法には臨床的な差がない

治療

時間*、頻度

頸部の筋肉組織の集中的なトレーニング:15〜6分間のエクササイズバイクによるウォームアップとクールダウン。ストレッチング10分間。頸部および肩の集中的なアイソメトリックおよび抵抗筋カトレーニング40〜50分;「頸部についての講義」、人間工学的アドバイス、自宅運動療法の指導 1回につき60〜75分、週2回
理学療法:ホットパック20分、マッサージ、超音波、徒手牽引、徒手による受動的モビリゼーション、筋の緊張のための固有受容神経筋促通法;「頸部についての講義」、人間工学的アドバイス、自宅運動療法の指導 1回につき30分、週2回
カイロプラクティックマニピュレーション:頸椎の高速、低振幅のマニピュレーション、徒手牽引、圧痛筋および「トリガーポイント」の徒手治療;「頸部についての講義」、人間工学的アドバイス、自宅運動療法の指導 1回にっき15〜20分、週2回

*すべての治療は、6週間継続して行った


(加茂)

慢性頚部痛も慢性腰痛も同じことです。疼痛は社会・心理学的症候群ととらえるべきです。この論文にはその点がありません。どんな治療でも大差がないのですね。人間工学的アドバイスの必要性に疑問です。

「根拠のない独自の考えを述べて患者に不安をあたえる医師」が最も悪い存在です。

加茂整形外科医院