固定ケージヘの批判

Criticism of Fusion Cages


椎間固定ケージは嵐のように脊椎手術市場に旋風を巻き起こした。世界中で80,O00個以上のケージが使用されている。米国だけでも,外科医は毎月5,000個以上のケージを挿入している
(McAfee,1999.を参照)。

その人気にもかかわらず、固定ケージは普遍的に認められているわけではない。整形外科医で研究者であるイギリスのNottingham大学のRobert C. Mulholland博士は,オランダのマーストリヒトにおける1999年McKenzie国際カンファランスで、固定ケージに関して彼が感じている限界について説明した。

Mulholland博士は,「我々は、固定ケージの結果に失望しました。この器具が驚嘆すべき結果を生み出すことを示す研究が数多くあります。しかしそれらは、我々が膝または股関節置換術で得ている結果にはほど遠いものです」と述べた。

Mulholland博士は、固定ケージで非常に高い骨癒合率が得られることを認めた。疼痛緩和に関する結果はそれほど印象的ではなかったと述べた。患者は、疼痛および活動障害の中程度の変化しかもたらさない大手術には満足できないであろうと、考えている。

運動もしくは負荷の異常?

Mulholland博士は、脊椎外科医は長年にわたり脊椎の運動異常に取り組むこと、すなわち痛みを生じる動きをなくすことに過度にこだわり、脊椎に対する正常な負荷パターンを取り戻すことにあまり取り組んでこなかったと示唆した。彼は、負荷異常の方が、運動異常よりも重要な疼痛発生源であると考えている。

Mulholland博士は、「もし、それが疼痛を解決するのであれば、あらゆる椎間板置換は、終板および脊椎に対する正常な負荷パターンを生み出さなければなりません」と述べた。彼らは、多くの
固定ケージ挿入の結果、脊椎の海綿骨部分に過度の負荷が集中し、この限局性の過度の負荷が、症状を持続的に発生させている可能性があると述べている。

同会議に出席していたVert Mooney博士は、Mulholland博士と意見が異なる。「Mulholland博士は終板における非対称的ストレスに対して固定ケージが無効であったことを非難しています。この見解を正当化する根拠はありません。我々は、何度も局所麻酔下で鏡視下脊椎手術を実施しており,しばしば手術器機を終板に挿入します。私の経験では、それで痛みが生じたことは決してありません」と、Mooney博士は主張する。

さらに、「終板に非対称的なストレスカが加わるならば、結局、それらに対して何らかの骨の反応が起き、それに伴い終板における骨硬化がみられるはずです。私は、最高で8年経過したRayケージを便用した患者について再検討しています。このうち骨硬化がみられた患者はいません。実際のところ[固定ケージを使用した患者で]X線上で骨硬化を確認したことはありません」とつけ加えた。

決定的な答えはいまだなし

厳密な科学的研究のみが固定ケージ法の臨床的影響について検討できるであろう。残念なことに、一般的にこれまでの研究には精度の高い研究方法が備わっていない。より良い研究が発表
されるまでは、固定ケージを支持する側と指示しない側の両者の主張を割引して聞かなければならない。

固定ケージに関するFDAの聴聞会で報告された研究では疼痛緩和が報告されたが疼痛の完全消失は報告されなかった。例えば、BAK治験用医療用具の適用免除試験における、患者の手術
前の疼痛スコアの平均値は、6ポイントスケールで5ポイントであった(0は疼痛なし、6は活動障害性の疼痛)。平均疼痛スコアは、12ヵ月後の経過観察で3.1(軽度の疹痛)であり、24ヵ月の経過観察で2.9であった(McAfee,1999.を参照)。他の研究でも同様の結果が報告された。精度の高い結果評価項目を用いて第3者による経過観察を行う比較試験によって、これらの結果が再現されるかどうかはまだわからない。

Paul McAfee博士は、Journal of Bone and Joint Surgery (Am)の最近の総説の中で、椎間固定ケージはX線上では癒合率が高く、椎間板から生じる疼痛、椎弓切除術後症候群および変性した椎間板の脱出の治療に途方もなく大きな衝撃を与えたと論評した。

しかしながらMcAfee博士は,この器具がもたらす臨床的な影響についてはまだ十分に解明されていないことをほのめかした。「これらの癒合率の上昇が術後5年間の機能的結果の改善と一致することが望まれるところで、そのような研究を現在実施中です」と、McAfee博士は述べた。

参考文献:

McAfee P.Interbody fusion cages in reconstructive operations on the spine, Journal of Bone and Joint Surgery [Am],1999;81A(6):859-79

The BackLetter,1999;14(10):112.

 



痛みがない姿勢に患者を固定することは可能か?

Is It Possible to Fuse a Patient in a Pain-Free Posture

オランダのマーストリヒトにおける最近のMcKenzie国際カン
ファランスで,イギリスの外科医Robert Mulholland博士による脊椎固定術についてのプレゼンテーションの際に,理学療法士のRobin McKenzie氏がユニークな質問をした。

McKenzie氏は,背骨障害を持つほとんどの患者は痔痛を引き起こす解剖学的姿勢があるが,姿勢によっては全く痛みがないことを言及した。彼はMulholland博士に、外科医はこのような痛みのある姿勢と痛みのない姿勢を特定すること,そして患者を痛みがない解剖学的姿勢に固定することを考えたことがあったかを尋ねた。

Mulholland博士は,脊椎外科医は何年もの間,体外固定装具の使用,正常な脊椎の配置および脊柱前彎を保持する脊椎インストルメントの使用,脊椎の正常な耐荷能力を保持する各種の手法によって試みてきたと述べた。もちろんこれらの目標に到達するための最善方法については激しい議論がある。

しかしながらMulholland博士は,患者が症状のない解剖学的姿勢を回復するという意味では外科医による治療は必ずしもいつも成功であったわけではないと述べた。「おそらく患者の中には永久に痛みのある姿勢に固定されてしまった人がいるのではないかと思います」。

加茂整形外科医院