手術候補患者の心理学的苦痛を評価することの重要性

The Importance of Assessimng Psychological Distress in Surgery Candidates


北米脊椎学会(NASS)の年次総会で,手術候補患者の心理状態が,脊椎手術の治療成績に大きく影響することを示す3つの研究が発表された。手術患者を選択するうえで,場合によっては,心理学的因子のほうが解剖学的考察よりも重要かもしれない。

心理学的苦痛から術後結果が予測される

ニューヨーク州SyracuseのPaula M.Trief博士らは,手術候補患者122例に脊椎手術の1-3週間前に一連の心理学的問診票に記入させた。そして手術の6ヵ月後と1年後に,被験者の疼痛,機能的能力,労働能力を評価した(Trief et al.,1999)。

「手術前に,抑うつ,全般的不安,身体的不安が少なかった被験者のほうが,1年後の疼痛改善率が高くなりました」と,Trief博士らは述べた。

同じく1年後の機能についても,手術前に身体的不安や抑うつが少なく,疼痛の持続期間が短かった患者のほうが改善率が高かった。被験者が手術の1年後に仕事をしている確率が最も高か
ったのは,手術前に漠然とした身体的不安や抑うっが少なく,被雇用者で就労障害の補償を受けていない場合であった。

患者の評価にはさまざまな心理学的問診票,すなわち改訂版の身体的知覚問診票[MSPQ]、Spielberger不安項目形質調査票,Zung抑うつスケール,Cook-Medley敵意スケール,ダラス疼痛問診票,および苦痛・リスク評価方法[DRAM]が用いられたが,このうちの1つが際立っていた。

DRAM (ZungおよびMSPQのスコアを組み合わせたもの)で異常な結果を示すことが、治療結果の予測因子としては最も優れていた。Trief博士は,この検査が簡単かつ迅速で患者にやさしいことを指摘した。この検査は手術結果が良くないリスクのある患者,さらには手術前に心理療法が必要と思われる患者まで同定することができる。

「この研究で,感情的な苦痛(不安および抑うつ)が慢性腰痛患者の治療結果にとって重要な意味を持つことが再確認され,手術結果についても同様であることが示されました」と,Trief博士らは述べた。

この研究の考察では重要な問題が提起された。患者に高レベルの感情的な苦痛が認められた場合,手術前にこの苦痛を緩和すればより良い臨床結果につながるのだろうか?直感的にはそ
う思われるが,科学的な研究で明快な答えは得られていない。手術前の心理療法が術後結果に益となるかどうかは,まだ十分に研究されていないと,Trief博士は述べている。

新しい評価スコアカードで手術結果を予測

テキサス州PlanoのAndrew R.Block博士らは,椎弓切除術または脊椎固定術を受ける予定の204例の患者を対象に,新しい術前心理学的スクリーニングスコアカード(PPS)の有用性をテストし
た。PPSでは,MMPI,対処ストラテジー(Copin&strategy)問診票,ならびに補償,訴訟,仕事と家族の安定性,薬物濫用,その他の因子に関する選択肢によって構成されている質問方式による聞き取り調査のデータに基づいて,治療成績スコアを算出する(Block et al.,1999)。

PPSでは,手術候補患者を次に示す治療成績カテゴリーに分類する。すなわち,(1)不良:患者の治療結果が不良となる,心理学的および医学的リスクファクターがいずれも高いレベルにある場合。(2)中程度:患者の医学的リスクファクターもしくは心理学的リスクファクターのいずれかが高いレベルにある場合。(3)良好:患者の医学的リスクファクターおよび心理学的リスクファクターのいずれも高いレベルにない場合(医学的リスクファクターには,肥満,過去の手術歴および脊椎以外の医学的疾患が含まれる)。

Block博士らは,Oswestry活動障害問診票,ビジュアルアナログ疼痛スケールおよび薬物療法便用状況を組み合わせて術後結果を評価した。平均すると,手術から8.6ヵ月後の時点で経過観
察を実施した(最低でも6ヵ月間の経過観察を行った)。

「PPSを用いて82%の患者で術後結果を正しく予測できました。結果が良くない患者と同様に,結果が良好/中程度の患者の予測にも成功しました」と,Block博士らは述べた。

高レベルの医学的および心理学的リスクファクターを有する患者は,回復の見込みがあまりないことがPPSから示された。「術後結果が悪いと予測された患者で,脊椎手術で中程度もしくは良好な結果が得られた患者はわずか17%でした」と,Block博士らは述べた。

「心理・杜会的リスクのレベルが高い患者は,とりわけ多数の医学的リスクファクターの存在下では,予定された(elective)脊椎手術で十分な効果が得られない確率が高いようです」と,博士らは結論した。


疼痛図で脊権固定術が適さない患者を同定

NASSの昨年の年次総会において,Karolinska InstituteのHans Moeller博士は,成人の峡部脊椎すべり症の治療について,固定術と理学療法を比較した最初の無作為研究を発表した。Moeller博士と共同研究者のR.Hedlund博士は,111例の患者について理学療法か,またはペディクル・インストルメンテーション併用もしくは非併用の脊椎後側方固定術に無作為に割り付けた(Moeller and Hedlund1999; Schoene et al.,1998)。

全体的に見て,この研究は外科的治療を受けた患者のほうが成績が優れていた。しかしながら,術後結果はさまざまであった。研究者らは不十分な結果に関連する因子の詳しい検討を行った。

最初の一連の評価の一部として,すべての被験者に疼痛図を描かせた。研究チームは,Udenらの基準にしたがって,疼痛図を「器質的」カテゴリーと「非器質的」カテゴリーに分類した。「非器質的」カテゴリーを示す場合は心理的苦痛があるというおおよその目安となる。

心理学的因子が治療結果に大きな影響を及ぼすことを示唆する結果が得られた。「手術群においては,1年後の経過観察時に明確な改善(疼痛および機能的活動障害が50%以上低下)が,“器
質的疼痛”群の47%に認められたのに対し,“非器質的疼痛”群では11%でした」と,Moeller博士とHedlund博士は述べた。この差は2年後の経過観察時にも同様で,“器質的疼痛”群の48%で明確な改善が得られていたのに対し,“非器質的疼痛”群では16%であった。

「“器質的”な疼痛図を描いて外科的治療を受けた患者は,“非器質的”疼痛図を描いた患者に比べて改善の見込みが3-4倍も大きいのです」と,研究者らは述べた。

疼痛図を使用することで手術患者の選択が改善されると,これらの研究者らは述べている。しかしながら,同様の患者集団において,疼痛図の有用性とその他の精神測定指標との相関関係を示すことができれば興味深いであろう。

参考文献:

Block A et al., The use of presurgical psychological screening to predict the outcome of spine surgery, presented at the annual meeting, North American Spine Society, Chicago, 1999; as yet unpublished. 

Moeller H and Hedlund R, Pain drawing in adult spondylolisthesis predicts the treatment outcome of fusion, presented at the annual meeting. North American Spine Society, Chicago, 1999; as yet unpublished. 

Schoene M et al.. Randomized trial favors fusion surgery over physical therapy for adult spondylolisthesis, Backletter, 1998, 13(12): 133- 142. 

Trief P et al., A Prospective study of psychological predictors of lumbar surgery outcome, presented at the annual meeting, North American Spine Society, Chicago, 1999; as yet unpublished. 


The BackLetter 2000・ 15 1 ・ 6 7. 


(加茂)

痛みを器質的、非器質的に分けることがナンセンスです。痛みそのものは非器質的なことです。

結局、手術という儀式に適した患者の選別をするということでしょうか?

加茂整形外科医院