椎間板の老化に関するボルボ賞受賞研究ー変性は若い時から始まる

Volvo Award-Winning Study on the Aging of The Disc-Degeneration Begins Early in Life


ボルボ賞を受賞したスイスの研究は、椎間板変性と椎間板疾患の医学的な予防および治療の方法に甚大な影響を与える可能性がある。その研究でNorbert Boos博士らは、腰椎の椎間板の顕微鏡的な加齢性変化を初めて包括的に分類した(Boos et al.,2002を参照)。同じく、椎間板変性の発生源についても意外な知見が得られた。

腰椎の椎間板の全体的な外観には非常に大きな個人差があるので、それから椎問間板の年齢を推定するのは困難である。一見すると、20歳の人の椎間板は80歳の人の椎間板に非常に似ているようにみえる。しかし顕微鏡レベルでの変化はどうだろうか。この最新研究が行われるまで、加齢による組織学的変化の包括的分類システムは存在しなかった。

Boos博士は、「われわれは、変性と年齢の間に有意な時間的および空間的相関があることを見出しました。われわれは、それらの加齢性変化を分類する実用的で信頼できるシステムを考案しました。これはより複雑な生化学的、生体力学的および生物学的な分析を行うための枠組みとし
て役立つでしょう」と述べた。

この新しい研究では、従来の研究で示唆された重要な臨床観察知見が得られた。椎間板変性は通常、まだ若いころから始まる。多くの人は、腰椎の椎間板は中年になって破壊されるまでは元のままで傷ついていないだろうと想像する。しかし事実はそうではない。中年までには非常に
明白になる椎間板変性は、思春期から始まった長期的な連続する変性性変化が頂点に達した
もののように思われる。

血液供給と組織破壊

Boos博士は、「10代前半に椎間板への血液供給量が減少することによって、組織破壊が始まると思われます。まだ若いころの血液供給量の減少と構造的変化の広がりは、椎間板の組織工学および修復にとって重要な課題です」と述べた。

Boos博士は、この徹底的な研究を行う間に自分の椎間板もかなり老化したと述べた。博士らは、椎間板と終板に関わる11の組織学的変数を分析するため、死亡時の年齢が様々な54名の剖検被験者の腰椎の運動セグメントを調査した。他の5つの変数に関して23の術後検体を分析した。

博士らは、20,000を超える変数の半定量的分析に基づいた分類システムを作成した。その後、このシステムの実用性および信頼性を検証し、基準を満たすことが明らかになった。

他の研究では、10代初めに椎間板が本質的に変化することが観察されており、これらの変化を変性の前兆と名付けた研究もあった。Boos博士らは、まだ若いころの構造的破壊に関する証拠を見出したことにより、その知見を一歩前進させた。

「われわれは、10代前半での血液供給量の減少に伴い、細胞増殖、炎症、顆粒性変化およびムコイド変性によって証明された、重大な組織破壌があるという実質的証拠を得ることができました」とBoos博士は述べた。

椎間板変性の治療法

「治療の可能性に関して言えば、人生の後半になって椎間板変性の過程を逆戻りさせることはできそうにありません。なぜなら椎間板への血液供給が不足しているからです」と、最近Boos博士は説明した。このことは、現在非常に多くの研究のテーマになっている、中年期における椎間板工学および修復の試みにとっては良くない知らせかもしれない。

「したがって、われわれは、各々炎症および疼痛を引き起こす特異的因子を標的にすることによって、痛みのある椎間板変性を無症侯性の変性に変えることに狙いを絞った治療方法を支持します」と博士は述べた。In vivoの知見および研究室における知見を通して、博士は現在、思春期に始まる椎間板変性の研究に焦点を合わせた科学的研究を行うべきだと考えている。

国際腰椎研究学会の出席者の1人が、この興味深い研究を解釈する際に注意すべき点があるとの意見を述べた。これらの知見は、青年の椎間板が多少なりとも病理学的異常を有すると、または一般的な修復が必要であると、示唆している訳ではない。たとえば、青年期の腰痛は椎間板変性が原因であるという証拠はない。

この研究は、椎間板変性が長期にわたる流動的な過程であり、中年の人々に認められる明白な肉眼的変化は数十年に及ぶ加齢と変化によってもたらされたものだという、説得力のある証拠を提供する。同じく、椎間板変性の決定要因の疫学調査においては非常に広い範囲での要因を視野に入れる必要があることも示唆している。

椎間板変性は長期にわたる流動的な過程である


参考文献:

Boos N et al., Classification of agerelated changes in lumbar intervertebral discs, presented at the annual meeting of the International Society for the Study of the Lumbar Spine, Cleveland, 
2002; Spine, 2002, in press. 


The BackLetter : 17(9): 99, 2002. 

加茂整形外科医院