大規模無作為試験において脊椎固定術には積極的リハビリテーションを上回る利点なし

No Advantage for Spinal Fusion Over Aggressive Rehabilitation in Large Randomized Trial


英国で実施された大規模無作為対照比較試験によると、脊椎固定術は、慢性腰痛の軽減および患者の機能回復に関して、積極的リハビリテーションプログラムと変わりなかった。

Jeremy Fairbalik博士らは、脊椎固定術の適応となる349例の患者を、即時手術、または行動原理に基づく3週間の集中的リハビリテーションプログラムに無作為に割当てた。

両群とも改善したが、2種類の治療手順によるアウトカムにおいて臨床的および統計学的に有意な差は認められなかった。

“固定術の適応となる慢性腰痛患者に対して、即時手術がリハビリテーションよりも有用であるという明らかなエビデンスは得られなかった。集中的リハビリテーションは、少なくとも2年間の経過観察期間においては、費用がかからず非侵襲的な代替方法となりうる”とPairbank博士は言う。その間保存療法を行った場合と比較して、固定術には約2倍の費用がかかった(Fairbank et al.,2004を参照)。

英国の外科医は、ポルトガルのポルトで開催されたSpine Week 2004で本試験を2度発表した。まず、“最優秀論文”賞を受賞した国際腰椎研究学会の年次総会で発表した。同じく、欧州脊椎学会が主催したシンポジウムでも発表し議論が行われた。本稿で紹介する情報には、両学会での発表内容が含まれる。

保存療法に対する新たな支持

本試験は、同様の結論に達したノルウェーの小規模無作為対照比較試験の直後に行われた(Brox et al.,2003を参照)。両試験の結果は、脊椎専門医が、脊椎固定術が漫性腰痛の最終的な解決手段になる能力を過大評価し、認知行動療法のオリエンテーションを取り入れた運動療法プログラムの潜在的な価値を過小評価していた可能性があることを示唆する。

Fairbank博士は、新規試験によって博士自身の外科治療が変化したと述べ、“治療の初期の段階でリハビリテーションを使用することが増えた”と述べた。

この試験によって、外科医は、リハビリテーションプログラムを選択することは全く合理的な治療手順であり、好ましいアウトカムが得られる可能性を低下させはしないと、患者に説明して安心させることができる。“保存療法としてリハビリテーションを行うのは良い方法だと患者に説明することができる”と、Fairbank博士は述べた。

スウェーデンの研究者Alf L.Nachemson博士も同じ意見である。“行動心理学に基づく3〜4週間の運動療法プログラムは、腰痛のために手術を検討している患者にとってすばらしい選択肢だ”とNachemson博士は言う。外科およびその他の分野における複数の無作為対照比較研究において、このようなプログラムの有効性が指摘されている。

問題は、認知行動療法を取り入れた運動療法プログラムが、脊椎治療の世界において極めて稀であるという点だと、Nachemson博士は述べ、より多くの臨床医が、William Fordyce博士らに
よって開拓されたタイプの運動および認知行動療法のプログラムを理解し、この保存療法の選択肢を利用できる患者が増えることを願っている。多くの点で、これは、慢性腰痛患者のリハビ
リテーションにおける“最新技術”である。

英国で行われた新規の試験は、専門医にはそのようなプログラムを提供する責任があることを示唆する。外科的治療の適応評価のために専門医を紹介された患者のほとんどは、ある種の保存療法(多くの場合、活動制限と理学療法からなる基本的コース)が無効に終わっていた。こうした“効果のない保存療法”を経験したため、一部の専門医は、手術の前にさらに保存療法を
行おうとはしない。

Fairbank博士らは試験の抄録の中で、固定術を検討している患者のための保存療法には、認知行動療法を取り入れた運動療法プログラムを含めるべきだと強調した。

“無効に終わった保存療法には、担当外科医によって適切に構成された集中的なリハビリテーションを含めるべきである”。と、Fairbank博士らは言う。

349例の患者を対象にした試験

Fairbank博士らは、12ヵ月以上持続する活動不能性の慢性腰痛を有した手術の適応となる349例の患者(18〜55歳)に対する治療手順を比較する、実際的な試験を実施した。

“これらは、外科医が手術で改善がみられるだろうと考えた患者であったが、外科医も患者もアウトカムを確信してはいなかった”と、Fairbank博士は述べた。

被験者は、3種類の診断カテゴリーに分類された。被験者の約11%が脊椎すべり症に関連した疼痛、約8%が椎弓切除術後の持続する疼痛を有しており、約81%は単なる“慢性腰痛”を有していた。

研究者は、患者を2種類の治療手順のうちの1つに無作為に割当てた:(1)外科医が適切だと考えた外科手術;および(2)3週間にわたる週5日の運動療法プログラム、脊椎安定化訓練、および認知行動療法の原理を取り入れた教育。治療群は、人口統計学的特性およびその他の特性に関して、比較し得る群であるように思われた。

手術群の84.7%が固定術を受けた

手術に割当てられた患者の84.7%が、様々な様式の脊椎固定術を受けた(手術群の58.5%が1椎間の固定術、残りは複数椎間の固定術を受けた)。予定された少数の患者(15.2%)はGraf安定化手術を受けた。

研究者は、無作為化時、および6,12,24ヵ月後に患者を評価した。主要なアウトカム評価尺度は、0swestry活動障害問診票およびshuttle-walking testであった(歩行能力の厳しい評価尺度)。副次的なアウトカム評価尺度は、SF-36問診票およびEuroQuol QOL尺度であった。試験ではintention-to-treat解析を行った。試験は、0swestry活動障害インデックススコアにおける4ポイン
トの差を検出する90%の検出力を有するようにデザインされた。

平均して、両群とも試験期間中に中等度の改善カ認められた。手術患者は、0swestryスコアが平均12.3ポイント(最大活動障害を100とし、46.5から34.2に)低下し、shuttle-walking testの歩行距離が平均93メートル増加した。リハビリテーション群では手術群程ではないが若干の改善が認められた。

リハビリテーション群は、oswestryスコアが平均8.4ポイント改善し、shuttle-walking testの歩行距離が平均66メートル改善した。

統計学的に有意な差、または臨床的に意味のある差はなし

Fairbank博士は“統計学的に有意な群間差は認められなかった”と言う。同じく臨床的に意味のある群間差もなかった。研究者らは予めOswestry活動障害スコアにおける4ポイントの差を臨
床的に意味のある最小限の改善と定めた。群間平均差はその範囲に含まれた。

平均値もしくは平均的な結果を見ることで、サブグループにおける重要な結果に気づかない可能性があるのではないかという質問が、Fairbank博士に対してなされた。例えば、手術群の方が優れた結果を示した患者が多かったのではないだろうか、と。Fairbank博士は、2群における結果の散布図は極めて類似しているようであったと回答した。言い換えると、両群における著効、有効、無効の分布は同様であるように思われた。

リハビリテーションに無作為割り付けされた患者の28%(48例)が、2年間の経過観察期問内に手術を受けた。手術群の11%(15例)の患者が最終的に2回目の手術を受けた。

慢性腰痛の自然経過?

固定術群およびリハビリテーション群で認められた有意な改善を、真の治療効果によるものだと考えたくなるが、試験デザインのためそれは不可能である。Fairbank博士は、結果は特異的な
治療効果というより、むしろ慢性腰痛の自然経過を反映しているにすぎない可能性があると言及した。プラセボ対照群を設けていなかったため、非特異的効果またはプラセボ効果が関与した
可能性もあるだろう。

4つの無作為対照比較試験

これは、慢性腰痛患者における脊椎固定術を保存療法と比較した4番目の無作為対照比較試験(RCT)であり、これらの試験は様々な解釈が可能である。新規の英国の試験およびJens-Ivar
Brox博士らによるノルウェーのRCTでは、脊椎固定術が漫性腰痛患者に対する認知行動療法を取り入れた運動療法と比較され、アウトカムに関する群間差は見出されなかった。これらの試験
は、認知行動療法の要素を取り入れた運動療法プログラムを支持する、強力な裏付けとなるだろう。

しかし、それ以前に行われた2つのRCTでは、脊椎固定術がより伝統的な運動療法または理学療法プログラムと比較され、短期経過観察で脊椎固定術の顕著な利点が見出された。

Peter Fritzell博士らによるSwedish Lumbar Spine Studyでは、慢性腰痛患者に対する3種類の脊椎固定術が2年後の経過観察時に伝統的な理学療法よりも優れていたことが見出された(Fritzell et a1l.2001を参照)。しかし、保存療法を上回る固定術の利点は、より長期の5〜10年後の経過観察時には消失していた(Fritzell et al.,2004を参照)。 

Hans Moller博士およびRene Hedlund博士が行った初期のRCTでは、脊椎すべり症に関連した腰痛を有する患者において、脊椎固定術(インストルメント非併用および併用)が安定化のための運動療法と比較された。手術群は、2年後の経過観察時の疼痛および活動障害に関して有意な利点を示したが、その利点は、比較的長期の経過観察によって減少した(Moller and Hedlund,
2001;Ekman et al.,2004を参照)。

期待はずれの結果か、それとも有望な結果か?

外科医らは、英国の新規試験の結果が期待はずれであると思うかもしれない。固定術は、多くの専門家が予測したよりも効果が弱く、費用効果が悪いように思われた。少なくとも現行の診断
方法および患者選択方法を用いた場合に、固定術が活動障害性の慢性腰痛に対する万能薬でないことは明らかである。あるヨーロッパの外科医は、これらの結果を“憂鬱だ”と述べた。しかし、明るい面に目を向けると、脊椎固定術は、連続する4つのRCTにおいて疼痛および活動障害スコアにおいて軽度であるが一貫した改善を示したのであった。

患者は、おそらく新規RCTの結果が励みになることを知るだろう。この試験は、認知行動療法を取り入れたリハビリテーションプログラムは、手術よりも合併症とコストが少ないにも関わらず、同様の改善の見込みがあることを示している。それは、患者にとって魅力的な選択肢である。

ノルウェーの最近のRCTと同様、本試験は、専門医への紹介を必要とする持続的な腰痛でさえ、運動療法および認知療法の形態での更なる保存療法に対して良好な反応を示す可能性がある
ことを実証する。積極的リハビリテーションの適切なコースを実施しても改善が認められない患者には、やはり手術が選択肢となる。

重要ポイント

・英国の大規模無作為対照比較試験において、認知行動療法の手法を取り入れた積極的リハビリテーションは、慢性腰痛および関連する活動障害の軽減に関して、脊椎固定術と同程度に有効であった。

・固定術は、リハビリテーションを行った場合と比較して、2年間の経過観察期間に約2倍の費用がかかった。

・この試験は、集中的リハビリテーションおよび脊椎固定術によるアウトカムが同様であることを示す、2番目の無作為対照比較試験である。

・これらの試験に基づいて、慢性腰痛のために手術を検討している患者は積極的なリハビリテーションプログラムを考慮に入れるべきである。

・認知行動療法を取り入れたリハビリテーションプログラムは、脊椎治療の分野ではそれほど一般的でない。しかし、臨床医はそのようなプログラムを計画および実施する方法を容易に学ぶことができる。

 

参考文献:

Brox JI et al., Randomized clinical trial of lumbar instrumented fusion and cognitive intervention and exercises in patients with chronic low back pain and disc degeneration, Spine, 2003 ;28(17): 19 1 3-2 1.

Ekman P et al., The long effect of fusion in adult isthmic spondylolisthesis-a prospective randomized controlled study, presented at the annual meeting of the European Spine Society. Spine Week 2004, Porto, Portugal; as yet unpublished. 

Fairbank J et al.. A randomized controlled trial to compare surgical stabilization of the lumbar spine versus an intensive rehabilitation program on outcome in patients with chronic low back pain, presented at the annual meeting of the International Society for the Study of the Lumbar Spine, Porto, Portugal, 2004; as yet unpublished. 

Fritzell P et al., Lumbar fusion versus nonsurgical treatment for chronic low back pain: A 
multicenter randomized controlled trial from the Swedish Lumbar Spine Study Group, Spine, 2001 ;26(23): 2521-32. 

Fritzell P et al., 5-10 year follow-up in the Swedish Lumbar Spine Study, presented at the annual meeting of the International Society for the Study of the Lumbar Spine, Porto, Portugal, 2004; as yet unpublished. 

Moller H and Hedlund R, Surgery versus conservative management in adult isthmic spondylolisthesis-a prospective randomized controlled trial, Spine, 2001 ;26(5): 594-5. 


The BackLetter 19(7): 73, 80-81, 2004. 

加茂整形外科医院