狭窄手術の頻度が急増

Rate of Stenosis Surgery Soars


1979年、米国で脊柱管狭窄症で手術を受けた人は、65歳以上の高齢者10万人あたり7.9人であった。わずか15年後には、高齢者10万人あたり61.4人が同じ疾患の治療に手術を選択している。これは、脊椎疾患の治療における驚くべき変化である。

腰痛治療成績評価チーム(Back Pain Outcome Assessment Team)の最新研究によると、手術を選択する高齢の脊柱管狭窄症患者は記録的な数にのぼっている。Marcia A. Ciol博士らによると、「65歳以上の患者における脊柱管狭窄症の手術件数は、1979〜1992年にかけて8倍に増加しており、米国内では約5倍の地域較差が生じました(Journal of the American Geriatric Society 1996;44:285-290.を参照)」。

現在のところ、手術選択率の増加が好ましいか否かを判断する手立てはない。共著者のRichard A..Deyo医師は、「手術と保存療法の有効性に関する無作為比較試験がまだ行われていません」と指摘する。「適切に選択された脊柱管狭窄症患者では、手術の方が有効だと示唆するグループ研究なら、我々の研究も含めていくつか報告されています[編者注:Deyo医師が触れたグループ研究については、1996年中にSpineに掲載予定]」。

手術の高リスク群

「言葉を変えて言えば、高齢者は手術の高リスク群といえます」とDeyo医師は言う。「彼らは高齢で体力がなく、合併疾患がある場合が多いでしょう。術後合併症は、特に80歳以上の患者では
かなり多くみられます」。

これらの結果は、脊柱管狭窄症の治療法の選択に関してより厳密な研究が必要であると指摘している。現在、患者と主治医は予想される手術結果に関する十分な情報がないまま、脊柱管狭
窄症に対して生死にかかわる治療法の選択をせざるをえない状況にある。

Ciol博士らは、MedicareおよびNational Hospital Discharge Survey (NHDS)の2つのデータベースによる情報を基に今回の研究を行った。彼らは、1985年あるいは1989年に脊柱管狭窄症のために腰椎の手術を受けたMedicare受給者28,000人以上に関するデータを検討した。さらに、NHDSデータを利用して、1979〜1992年までの手術件数と傾向について年齢と診断名別に算出した。

米国の高齢者では手術が急増

NHDSのデータによると、高齢患者では脊椎手術件数が急増していたのに対し、若年患者ではそれほど急激な増加はなかった。Ciol博士らによると、「1979〜1992年までの65歳未満における腰椎手術件数の増加率は、年齢と性別を調整すると40%でした(10万人あたり113人から、152人へと増加)」。しかしながら、65歳以上の患者では脊椎手術件数は全体でほぼ4倍の、すなわち10万人あたり51人から、188人へと増加した。高齢者群についてさらに詳しく調べると、手術数の増加は、主として脊柱管狭窄症の手術の増加に起因することが明らかになった。

地域による明らかな較差

地域による較差が著しいことも明らかになり、米国内でも太平洋岸と山間地域は他の地域に比べて手術件数が非常に多かった。1985年、New York州で腰部脊柱管狭窄症の手術を受けた患者数はMedicare受給者10万人あたり17人であったのに対し、Idaho州では10万人あたり81人であった。1989年、Rhode Island州で腰部脊柱管狭窄症の手術を受けた患者数はMedicare受給者10万人あたり30人であったのに対し、Utah州では10万人あたり132人であった。

術後合併症は、年齢と合併疾患と関連する

Ciol博士らは死亡率と合併症の発現率が年齢によって異なることを明らかにした。入院中、あるいは退院後6週間以内の死亡率は、75歳未満の患者で0.8%未満であったが、80歳以上の患者
では1.1%を超えていた。80歳以上の患者の術後合併症の発現率は70歳未満の患者の2倍に達した。

また、合併症の発現率はその他の合併疾患の有無によっても差がみられた。筆者によると、「術後合併症の発現率は、合併疾患が記載されていない患者では2.4%でしたが、合併疾患スコアが3以上の患者では4.1%にのぼりました」。手術を受けるリスクを算出する際には、合併疾患の有無が年齢と同じくらい重要であると考えられる。

脊椎固定術後の合併症

脊椎固定術は、除圧手術に比べて術後合併症を引き起こすことが多かった。Ciol博士らは、「脊椎固定術を受けた患者では、除圧術のみの患者の1.7倍の術後合併症が出現していました」と述べている。しかしながら、これらのデータからは、脊椎固定術を受けた患者が除圧術を受けた患者よりも病状が複雑だったのか、術後合併症の発現率が手術法そのものと関連していたのかどうかははっきりしない。

最近行われた他の研究と同じく、Ciol博士らも、脊柱管狭窄症の手術を受けた患者では再手術率がかなり高いことを見出した。興味深いことに、統計解析の結果、1985年の狭窄症患者のグループ集団よりも、1989年のグループ集団の方が再手術のリスクがわずかに高いことがわかった。

手術件数の急増の理由

手術件数が急増した理由は不明であるが、いくつかの因子が寄与していると考えられる。

画像技術の進歩:非侵襲的な特殊画像技術(例えば、MRIやCTスキャン)の進歩により検出力が向上している。残念ながら、特殊画像技術は両刃の刀である。なぜならば、特殊画像によって臨床上重要な病理所見が正確に視覚化されても、同時に臨床上関連のない多くの無症候性の異常も強調されるからである。

・外科的技術の変化:外科的技術の変化により、外科医は以前に比べて、高齢患者に対して複雑な除圧手術や固定術を行う自信が増したのかもしれない。

・米国集団人口の高齢化:米国の65歳以上の人口は膨張し続けている。この年齢層は前の世代の人々ほど脊椎の障害を我慢できず、手術で症状を改善しようとする傾向が強い。

・脊柱管狭窄症の有病率:脊柱管狭窄症の有病率が上昇していると考えられるが、その決定的な証拠はない。さもなければーこちらの方が可能性は高そうだがー、脊柱管狭窄症の手術の技術が進歩したように、脊柱管狭窄症を検出する技術も進歩したのであろう。

振り返る時がきた?

Deyo医師は留意することが必要であると考えている。「ここ10年間に手術件数は急激に増加しすぎました。私は、ここでひとまず立ちどまり、手術件数の増加が良いことだったのかどうかを考えるべきだと思います。それを知る一番の方法は、質の高い無作為試験をいくつか行って、患者をサブグループに分類して、手術により確かに恩恵を受けているサブグループと、そうではないサブグループかあるかどうかを見極めることでしょう。このような研究を行えば、手術の適応患者をより選択的に見つけだす何らかの方法を見い出せるかどうかがわかるでしょう」。

The BackLetter,11(8):85,89.1996.

加茂整形外科医院