職場における身体的ストレスを軽減したことが裏目に出た?

Has Reducing Physical Stresses in the Workplace Backfirea?


過去半世紀にわたり、先進工業諸国の雇用者は、腰痛および関連する就労障害を防ぐために、職場における肉体的重労働を次第に減らしてきた。

この取り組みがいくつかの点で裏目に出た可能性がある。職場における過酷な肉体労働が減ったことが、従業員の腰のためになったことはうまく説明できる。しかし、中程度の肉体労働が減ったことが、報告された腰痛または就労障害に関係する経費の減少と相関したという決定的証拠はほとんどない。実際、過去50年間、腰痛に関連する就労障害率はおおむね上昇の一途をたどってきた。身体的ストレスと腰痛との相関関係は謎のままである。

けれども皮肉なことに、職場における肉体労働が減ったことがより大きなダメージを与え、高くつく別の健康問題に拍車をかけた可能性がある。すなわち肥満の増加傾向である。ほとんどの先進工業国と多くの開発途上国では肥満が蔓延している。最近Scienceに掲載された記事では、
世界中で10億人以上の成人が体重超過、3億人が肥満症だと指摘している。

現在、米国の成人の約65%が体重超過(肥満指数「BMI]が25以上)である(Hill et al.,2003を参照)。
米国における肥満症(BMIが30以上)の有病率は1991年の23.3%が現在では30.9%と、ここ10年間で3分の1も増加した(Friedman,2003を参照)。これは、この1O年間で成人の平均体重が約7〜10ポンド(3.2〜4.5kg)増加した計算になる。他の多くの国の人々にも同程度の肥満の急増がみられる。

肥満症は疾患という重荷をもたらす。コロラド大学のJames Hill博士らによると、“最近、RAND研究所は、肥満症は、貧困、喫煙または飲酒よりも、慢性疾患と密接な関係があると報告した”(Hill et al.,2003を参照)。

肥満症は、心疾患、2型糖尿病および各種の腫瘍をはじめとする、さまざまな疾患のリスクを上昇させる。“肥満症は総医療費の5.5〜7.8%を占め、毎年3920万日以上の病欠につながっていると推定されている”と博士は付け加えた。

最近Hill博士は別の論文で、肥満症は、職場における肉体労働の減少を含めた昨今のさまざまな傾向と、強い関連があると主張した。“我々は本能的に食べようとする。過去にはそのことが生き残るために大きな価値をもっていた。なぜなら、次にいつ飢饉がやって来るかわからなかった
からである。同様に、いつエネルギーが必要になるかもわからないので、我々はエネルギーを節約するため本能的に休もうとする”とHill博士は述べた。

“あまり身体を動かさなくてすむ世の中になったため、我々が体重を維持する力には限界がある。仕事で肉体労働をする人はいなくなり、座ったまま本やTV、ビデオゲームを簡単に楽しむことができる。同時に、我々の環境の中には高カロリーの摂取に拍車をかけるものが多数ある。
これでは肥満になるのは無理がない”。

労働者が毎日16トンの石炭を掘り出したり、200ポンド(90kg)の荷物を背負って運んだりした時代に戻るべきだと提唱しているわけではない。しかし、肥満症の蔓延を抑えようとするなら、摂取カロリーを減らし、消費エネルギーを増やすことが必要だろう。

現代的な職場では身体活動をすっかりなくしているという最近の傾向に逆行することになっても、職場でのカロリー消費量を増やすことが問題解決のための一つの手段になるかもしれない。

幸いなことに、西洋諾国における食物摂取量とエネルギー消費量の格差はそれほど大きくない。米国の成人は平均すると、活動で消費する量よりも約100カロリー多く摂取している。

ほんの少し活動的になるだけで、すなわち1マイル(1.6km)を20分のぺースで毎日あと1マイル余計に歩く程度で、このエネルギー格差は消失し、それ以上体重が増加すろのを防ぐことができる可能性がある。もちろん肥満者は、より困難な課題に直面している。しかし、太りすぎの人達は、少し減量するか、またはフィットネスを少し増進するだけでも、重篤な疾患のリスクを減らすことが
できる。

参考文献:

Friedman JM, A war on obesity, not the obese, Science, 2003; 299(7):856-8. 

Hill JO et al., Obesity and the environment: Where do we go from here, Science, 2003 ; 299 (7):853-5. 


The BackLetter 18(4):42, 2003. 

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