記録的な数の腰痛および頸部痛の患者が、補完・代替医療(complementary
and alternative medicine:CAM)を選択しているようである。また、利用されるCAM治療の種類も、マッサージ療法からエネルギーヒーリングやヨガに至るまで、以前よりもはるかに幅広くなっている。
新規研究によると、1997年の米国における腰痛および頸部痛のための、CAM治療専門家の利用件数は2億件を超えたという。そして、この利用件数は、従来の治療を行う専門家への受診件数よりもはるかに多かった。
この研究をはじめとする最近の研究から考えて、腰痛や頸部痛による医療の利用状況に新しいパターンが出現しつつあるように思われる。
“腰痛および頸部痛の治療は、補完治療単独で、または補完治療と通常の治療を組み合わせて行われることが、最も多かったことが明らかになった”と、Harvard
UniversityのPeter Wolsko博士らは報告している。Wolsko博士らによると、通常の治療のみというのは、“まれな治療様式である”(Wolsko
et al.,2003を参照)。
非常に多岐にわたる補完治療
おそらく本研究における最も印象的な知見は、腰痛および頸部痛のために行われる補完治療が非常に多岐にわたっていることであろう。腰痛および頸部痛に対する補完治療は、カイロプラクテイックや従来の治療よりもはるかにうまくいっているという、主要メッセージを読み取ることができる、とRANDおよびUCLAの研究者Paul
Shekelle博士は述べている。
“[腰痛や頸部痛の患者が]カイロプラクターをかなり利用していることはすでに実証されていたが、本研究によって、ヨガ、マッサージ、エネルギーヒーリングおよびリラクゼーション術の利用に関する、新たな知識が追加された。腰痛や頸部痛の患者に対するこれらの治療の相対的な有効性、害およびコストに関する知識が不足していることを考えると、この情報は、政策立案者や研究者の指針として役立つだろう"とShekelle博士はSpineの論説で言及している(Shekelle,2003を参照)。
有用で興味深い知見
表T:12ヶ月間に腰痛または頚部痛の患者が補完治療専門家を受診した件数 |
治療の種類 |
CAM治療を受けた腰痛または頚部痛の患者の割合(%) |
平均利用回数 |
1997年の総理用回数 |
カイロプラクテイック |
18% |
8.5 |
8850(万) |
マッサージ |
9% |
5.4 |
3280(万) |
エネルギーヒーリング |
2% |
13.6 |
2080(万) |
ホメオパシー |
2% |
1 |
110(万) |
イメージトレーニング |
1.9% |
1.7 |
290(万) |
リラクゼーション術 |
1.7% |
17.4 |
2210(万) |
アロマセラピー |
1% |
1.3 |
70(万) |
食事療法 |
1% |
2.7 |
150(万) |
鐵治療 |
0.9% |
2.6 |
160(万) |
神経治療 |
0.8% |
6.6 |
400(万) |
ヨガ |
0.3% |
42.5 |
1070(万) |
その他 |
2.8% |
- |
1670(万) |
合計 |
34.1% |
- |
20300(万) |
Wolsko et al.,2003より引用 |
“新規研究は、有用で興味深い知見を提供する。さまざまな形態の補完・代替医療による相対的な寄与を視野に入れている”と、Group
Health Cooperative of Puget SoundのDan Cherkin
博士は論評する。
最も普及し広く利用されている補完治療は、依然としてカイロプラクテイックである(表Iを参照)。Wolsko博士らによると、1997年に腰痛および頸部痛の患者の約20%がカイロプラクターの治療を受けた。総合すると、腰痛または頸部痛の患者によるカイロプラクターの受診件数は8800万件以上であった。
しかし、CAM治療全体に占める相対的なシェアについて見ると、カイロプラクテイックは、他の治療にやや押され気味のようである。新規調査では、腰痛または頸部痛の患者の9%がマッサージ治療を受けており、1997年のマッサージの件数は3200万件と非常に多かったことが明らかになった。Cherkin博士は、“マッサージが実際には普及していることに注目すべきである。いわば、どこからともなく現れた存在である”と言う。
他の2つの補完治療も驚くほど普及していた。エネルギーヒーリングおよびリラクゼーション術の利用件数は、それぞれ2000万件を超えた。それとは対照的に、ここ数十年間に最も宣伝されたある種類の補完治療は、脊椎疾患の治療法としては珍しいようである。1997年に鍼治療を選択した腰痛または頸部痛の患者は、1%未満であった。
“鍼治療は、長年にわたり非常に注目を集めており、何かしらエキゾチックな感じをもっている。しかし、カイロプラクティックやマッサージと比較すると、鍼治療を腰痛または頸部痛の治療として利用する米国人は比較的少ない”とCherkin博士は論評する。これは、政策立案者にとって有用な情報である。
パターンには多少のギャップあり
確かに新規研究にはいくらかの制限がある。研究では“腰痛および頸部痛の治療のパターンと見通し”と銘打っているが、従来の医療に関しては補完療法ほど包括的な情報を提供していない。
この調査が補完治療に関する証拠を提供したのと同じように、広い範囲にわたる従来の医療(医師による治療と患者による自己治療の両方を含む)の状況を説明できるような、さらなる研究が大至急必要である。ある治療の相対的な価値を理解するには、治療/管理システムの全体像を理解することが重要である。
全国調査
研究者らは、1997年11月〜1998年2月に、米国の成人の全国代表サンプルの電話調査を実施し」た。総合すると、31%の被験者が過去12ヵ月以内に腰痛および/または頸部痛を経験したと回答した。このうち38%は腰痛のみ、16%は頸部痛または上背部痛を経験しており、46%は複数部位
に疼痛があった。
腰痛または頸部痛があったと回答した人のうち、従来の医療の専門家(医師または準医師資格者)を受診した人は36.6%、代替医療を受けた人は34.1%であった(表Uを参照)。
表U:12ヶ月間に腰痛・頚部痛のために利用した治療法 |
|
腰痛または頚部痛(患者の%) |
腰痛のみ(患者の%) |
上背部痛または頚部痛のみ(患者の%) |
従来の治療専門家
(医師または準医師資格者)を受診 |
36.6% |
31.3% |
25.4% |
何らかの補完治療を利用
(専門家を受診または自己治療) |
53.6% |
43.5% |
45.0% |
何らかの補完治療専門家を受診 |
34.1% |
20.5% |
30.6% |
Wolsko et al.,2003より引用 |
腰痛または頸部痛の治療の最も一般的なパターンは、補完治療単独か、または補完治療と従来の治療の併用か、いずれかであった。Wolsko博士らによると、“腰痛または頸部痛を経験した人のうち、補完治療のみ[専門家による治療または自己治療]を用いた人は29%、補完治療と従来の治療の両方を用いた人は25%、従来の治療のみを用いた人は12%で、過去1年間にそれらの疾患を治療するのに何も利用しなかった人は34%であった”。
腰痛または頸部痛を経験したと回答した人は、従来の治療に対する満足度に比較して、補完治療に対する満足度が高かった。研究によると、“カイロプラクテイック、マッサージおよびリラクゼーション術は、利用者から腰痛または頸部痛に`非常に有用である'(各々61%、65%、および43%)と評価されたのに対し、従来の治療を`非常に有用である'と評価した利用者は27%に過ぎなかった”。
証拠におけるブラックホール
従来の治療については、研究では、従来の治療の専門家を受診した回答者の割合を実証しただけであった。研究者らは他の情報源に基づいて推論を行ったが、受診総数を計算することはできなかった。
研究は、“従来の医療者”の範囲を、医師および準医師資格者と比較的狭い範囲に限定した。研究では、他の従来の医療供給者への受診に関する証拠は提示されなかった。たとえば、理学療法士、運動生理学者、心理学者、看護師、作業療法士、職場の健康増進教室等の利用に関する情報は得られていない。
このことは、補完治療の専門家への受診件数は、従来の医療の専門家への受診件数よりも多いという著者らの結論に関して、いくつかの疑問点を提起する。これは、研究で用いられた定義に従うならば確かに正しい。しかし、もっと広い範囲にわたる従来の医療の専門家を含めていれ
ば、この差は縮まっていただろう。
従来の治療の内容は何か?
この調査は、腰痛に対する従来の治療法を1つ残らず把握できるように設計されてはいなかった。たとえば、従来の治療の診察時に施された治療法に関する説明はない。
しかしCherkin博士は、この情報が研究で得られていたとしても、それほどの差は生じなかっただろうと考えている。“研究者が、医師によって提供された従来の治療についてもっと多くのデータを集めていたとしても、それほど多くのことがわかったとは思わない”と博士は示唆している。
頸部痛の治療の性質に関する証拠は少ないが、腰痛治療については医学文献にさまざまな情報が記載されている。
Cherkin博士は、“我々は、米国および他の諸国の、プライマリーケアにおける腰痛の治療標準についてかなりよく知っている。プライマリーケア医を受診する米国の患者は、一般的にせいぜい2,3回の診察を受ける。およそ20〜40%の患者は、理学療法士を紹介される”。
Cherkin博士によると、“実証可能な治療の面では、およそ3分の2の患者が非ステロイド性消炎鎮痛薬を処方される。これらの半数には筋弛緩薬も処方される”。特殊な治療を受ける確率は診療環境によって異なるが、治療の基礎的な組み合わせはかなり似ているように思われる。患者はこれらの診察時にアドバイスとカウンセリングを受けるが、その内容を実証するのは難しい。“患者は活動的な状態を維持するように指示されることを望む”とCherkin博士は言う。
従来の自己治療はどうなのか?
新規の調査は、補完的な自已治療の技術については良い全体像を提供したが、その一方で、運動療法から祈りや0TC薬の使用まで含まれる従来型の自己治療についても、同様の情報が得られるようにはデザインされていなかった。
筆頭著者のWolsko博士は、“この点について調査していれば、非常に興味深かっただろう。これは、患者が腰痛や頸部痛をどのように治療しているかという実態を知るために、必要な種類のデータである”と述べている。
症状の影響はどうなのか?
新規の研究では腰痛と頸部痛に関する幅広い定義を用いており、症状の影響についての包括的情報は収集しなかった。
調査では、治療を受けようとする行為を、症状の重症度、慢性度および関連する活動障害によって分類しなかった。このため、さまざまな治療および治療方法の有用性を直接比較することは難しい。たとえば、従来の治療専門家を受診する患者は、マッサージの専門家を受診する患者
とは、疼痛および苦痛の閾値が異なっていた可能性がある。ヨガスタジオに通った人は、カイロプラクターを受診した人とは、愁訴の内容が異なっていた可能性があるだろう。そうではない可能性もあるが。
Shekelle博士は、これらの治療について患者本人が評価した有効性のデータは、治療の臨床的価値に関する結論を導くのには役立たないと考えている。博士は、“有効性に関する有用なデータは、うまく設計された無作為臨床研究からしか得られない”と主張する。
見事な研究
1回きりの調査では、腰痛と頸部痛の治療の全体像に関する包括的な証拠を集めることはできない。
総合的に、Wolsko博士らは、CAM治療の範囲と性質を実証する見事な研究を成し遂げた。そして彼らは通常の治療に関するさらなる研究を行うための良いモデルを提供した。
治療の状況を詳細に描写することによって、本研究は脊椎研究の文献に、時宜を得た有用な情報を追加した。それによって、治療および管理パターンの重要な変化が実証されたように思われる。そして、将来の研究で検討すべき事項の一覧表を作成するのに役立つだろう。
参考文献:
Shekelle P, Point of View, Spine, 2003; 28(3):298.
Wolsko PM et al., Patterns and perceptions of care for treatment of back and neck
pain: Results of a national survey, Spine, 2003; 28(3)292-8.
The BackLetter 18(3) :25,32- 33, 2003.