鎮痛薬の使用量の急増が患者の福祉を脅かしている?

Is the Rampant Growth in the Use of Pain Medications Threatening the Welfare of Patients? 


さまさざまな非医学的因子が、増え続ける鎮療薬の使用を後押ししているように思われる

最近の調査によると、疼痛の愁訴の治療にOTC鎮痛薬が不合理かつ無差別に使用されているようである。

米国の成人の80%以上(1億7500万人)が、OTC鎮痛薬を多くは毎日、毎週または毎月使用しているという。腰痛と関節痛は、この調査における主要な症状の愁訴であった。

このようなOTC薬の頻用が、腰痛の治療に携わる者をジレンマに陥らせている。“米国人が膨大な量のOTC鎮痛薬を消費していることは確かであり、これらの薬剤を単独で、または他の処方薬および非処方薬と組み合わせて過剰に使用することによって、副作用が発生する可能性がある
ことを疑う余地はない”と、University of Washingtonの疼痛研究者DennisTurk博士は論評した。

処方鎮痛薬の急増

処方鎮痛薬、特に非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)およびオピオイドも、かつてないほどの量が消費されている。鎮痛薬の世界的市場は、近年爆発的な成長を遂げた。2010年までに全世界の鎮痛薬の販売量はさらに50%増加すると予測している研究者もいる。

Turk博士は最近のレビューで、米国の医師が2000年に発行した鎮痛薬の処方箋は3億1200万件を超えており、これはすべての男性、女性および小児に1枚ずつ出したことになると指摘した(Turk,2002を参照)。

IMS Healthは最近、米国の医師が2002年にオピオイドの処方箋を1億4000万件発行したと報告した(IMS Health,2002を参照)。NSAIDの処方箋の発行件数は、1990年代末には年間約7000万件であったのが、2002年には1億1000万件を超えた。

Cox-2阻害薬の処方も驚くほど増えている。米国では現在、これらの高価なNSAIDが年間約5800万件処方されている。

どの程度の割合の処方鎮痛薬が腰痛治療に用いられているかは明らかでない。しかし、さまざまな医療保険システムの断片的な様相から見て、かなりの割合であろうと推測される。

最近、Express Scriptsという薬剤給付管理会社が、32万人が加入している医療保険プランでCox-2阻害薬を新規に処方された患者の約3分の1は、腰痛と“診断”されていたと報告した(Cox, 2002を参照)。

ペンシルバニア州で25万6000人が加入している大手の健康管理機構は、最近、同社のネットワークの中で腰痛治療における1回当たりのコストが最も高いのは、麻薬性鎮痛薬であったと報告した。腰痛治療を受け薬剤費を請求した加入者の約3分の2が、麻薬を処方されていた。NSAIDを処方された患者の割合も同様であった。すべての医療保険における麻薬の総支出額の約50%が腰痛治療のためであったのに対して、癌性疼痛は21%であった(Starz。et al.,2002を参照)。

疼痛は人生において避けがたいものであり、鎮痛薬が使用される究極的な理由である。そして、ある種類の疼痛には十分な治療が行われていないことを示すエビデンスがある。

しかし、さまざまな非医学的因子が、増え続ける鎮痛薬の使用を後押ししているように思われる。例えば、現代社会における不快感に対する不耐性の増大;一般的疼痛の性質に関する誤解;広く使用されている薬剤の利点とリスクに関する非現実的な期待;および製薬企業による非常に効率的な販促活動などである。

NSAIDの重い代価

近年における鎮痛薬の使用量の増加が、腰痛患者の総合的な快適度のめざましい改善につながったというエビデンスは乏しい。そして鎮痛薬、特にNSAIDの使用が、特に高齢者および他のハイリスク集団において、有害事象(副作用+合併症)および死亡の総数に関して重い代価を要求していることを示す十分なエビデンスがある。

NSAIDを使用した低リスク集団においてさえ、潰瘍合併症のリスクはかなり大きい。“典型的な研究においてNSAIDを長期間使用した、低リスク患者におけるNSAIDによる潰瘍合併症の発現率は年間1〜5%の範囲で、通常2%前後であった”と、Daniel Y.Graham博士は最近New England Journal of Medicineの論説で述べた(Graham,2002を参照)。リスクが最も高いのは処方薬のNSAID使用患者であるが、アスピリンを含むOTC薬のNSAIDを定期的にまたは時々使用している患者においても、無視できないリスクがある。

受け入れられないレベルの合併症

NSAIDに関連する合併症のリスクは年齢が上がるにつれて着実に増大する。皮肉なことに、高齢者はNSAIDおよび他の鎮痛薬を最も頻繁に使用している人達である。

Medicare患者を対象にした最近の調査では、毎年、米国ではMedicareに加入している3800万人の高齢者において、190万件を超える薬物有害事象、および18万件を超える、生命を脅かすもしくは致命的な事象が発生していることが示唆された。これらの合併症の原因になった薬剤で3番目に多かったのは、非麻薬性鎮痛薬であった(Gurwitz et al.,2003を参照)。

NSAIDに関連する出血のために、米国では毎年1万6000人も死亡しており、10万人以上のNSAID使用者が入院していることを示唆する見積もりもある。

脊椎治療に携わる者と明らかに関係あり

処方鎮痛薬およびOTC鎮痛薬の頻繁な使用は、脊椎治療に携わる者と明らかに関係がある。彼らは、処方箋薬およびOTC薬の総合的な使用パターンについて、患者に注意深く質問すべきである。彼らは、多くの患者は処方薬および非処方薬を、薬草や栄養補助剤と複雑に組み合わせて使用すると予測すべきである。

言うまでもなく誰もが、処方鎮痛薬とOTC鎮痛薬、胃保護薬および他の一般的な薬剤をさまざまに組み合わせて使用した場合のリスクと利点に関する、だまされそうなほど複雑な医学的エビデンスを把握しておくべきであり、この知識を患者と共有すべきである。もちろん言うは易いが、15分診療でこれを実行するのは難しい。

NSAIDの妥当性を再考すべき?

腰痛治療に携わる医師は、NSAIDに対して特別な愛着があるらしい。エビデンスに基づく腰痛治療のガイドラインのほとんどが、アセトアミノフェンまたはパラセタモールを第一選択の鎮痛薬として推奨している。なぜなら、これらはNSAIDとほぼ同等の鎮痛効果が得られ、しかもほとんどの患者集団にとってより良好な安全性プロファイルをもつ。それにもかかわらず、米国のプライマリーケアにおける治療では、ほとんどの場合NSAIDが処方されているようである。医療関係者は、これらの処方箋の一部については妥当性を考え直したくなるだろう。

医師および他の医療関係者が、高齢者、消化性潰瘍疾患または上部消化管出血の既往のある患者、コルチコステロイドまたは抗凝固剤を使用している患者、さらには他のサブグループ(例えば飲酒もしくは喫煙する患者)まで含めた、合併症を発現するリスクが高い集団に仮にもNSAIDを使用するのであれば、慎重に使用すべきである。

胃を保護する薬剤はどうなのか?

多くの医師は、ハイリスク患者に対するNSAID治療の安全性を高めるために、胃を保護する薬剤、例えばプロトンポンプインヒビターを使用することを試みている。しかし、New England Journal of Medicineに掲載された最近の研究および付随する論説は、非選択的NSAIDとプロトンポンプイ
ンヒビターを併用しても、Cox-2阻害薬を使用しても、潰瘍疾患の既往のある患者における再発性出血のリスクを、受け入れられるレベルにまで下げることができなかったと示唆した(Chan et al.,2002およびGraham,2002を参照)。胃を保護する薬剤は有益な薬剤だが、NSAIDに関連する重
篤な消化器系合併症を完全に防げるわけではない。“我々は、プロトンポンプインヒビターおよびCox-2阻害薬による保護効果について間違った安心感を抱いていたが、明らかに今こそ問題を徹底的に再検討する必要がある”と、論説委員のGraham博士は述べた(Graham,2002を参照)。

Cox-2阻害薬に関する結論はまだでていない

最近、Cox-2阻害薬は、低リスク群および高リスク群における、重篤な消化器系合併症の有病率を大幅に低下させることができるという前提のもとで、米国におけるNSAID処方薬市場の約半分を占めるまでになった。そして世界中の他の市場にもかなり進出している。それにもかかわらず、これらの高価な鎮痛薬に関する結論はまだ出ていない。

アウトカム研究に関する最近の体系的レビューによって、Cox-2阻害薬の総合的なリスクプロファイルが不確かであることが指摘された。“治験計画(スタディデザイン)、アウトカム指標の選択、使用する変数におけるバイアス、および前後関係を即因果関係ありとした誤りが、研究結果の発表・報告面での欠陥と同様に、[Cox-2阻害薬]の消化器系および全般的な安全性プロファイルに対して、重大な疑問を投げかけた”と、J.Gomez Cerezo博士らは報告している(Gomez Cerezo et al.,2003を参照)。

たとえCox-2阻害薬が支持者が言うように好ましい性質をもっているとしても、これらの利点を最適化するような方法でそれらが使用されているかどうかは明らかではない。

Express Scriptsによる最近の調査で、Cox-2阻害薬の新規使用者の50%は、OTC薬のNSAID(主としてアスピリン)も使用していることが明らかになった。アスピリン使用者の約半数は、心筋保護のために必要とされるよりも多くの用量を使用していた(Cox,2002を参照)。こうしたOTC薬のアスピリンの併用は、Cox-2阻害薬によって得られるとされる保護作用を打ち消す可能性がある。

腰痛治療に携わる医師の中には、長期的な薬物療法に頼らない対処法や疼痛緩和法を見つけるよう患者に奨励したい者もいるだろう。Vert Mooney博士は最近、鎮痛薬の頻繁な使用は、医師の側が、疼痛に対処する他の選択肢を提供できていないことの表れだと指摘した。

ドン・キホーテに似た探索の旅

薬物療法による疼痛緩和の追求は、いくつかの点でドン・キホーテに似た探索の旅である。Turk博士は最近のレビューで、鎮痛薬は痛みを緩和することはできても完全に消し去ることはできないと言及した(Turk,2002を参照)。

最近Turk博士は、製薬企業が鎮痛薬の有効性に関する非現実的な見通しを助長した点についても指摘している。製薬企業は多くの患者に、鎮痛薬を使用することによって不快感から完全に解放されるという期待を抱かせた。このことが、期待と現実の間の度重なる食い違いの原因とな
り、腰痛および他の疼痛の訴えに対して積極的に薬剤を使用する風潮を生んでいる可能性がある。疼痛の治療に携わるすべての医療関係者は、こうした食い違いを何とかしなければ'ならない。

参考文献:

Chan F et al., Celecoxib versus diclofenac and omeprazole in reducing the risk of recurrent ulcer bleeding in patients with arthritis, New England Journal of Medicine, 2002; 347(26):2104-l0. 

Cox E, Cox-2s-What you may not know, presented at the Express Scripts Outcomes Conference 2002; www.express scripts.com/other/news_views/outcomes2002/docs/recaps/recap_cox.htm.

Gomez Cerezo J et al., Outcome trials of Cox-2 selective inhibitors: Global safety evaluation doesn't promise benefits, European Journal of Clinical Pharmacology, April 16, 2003; epub in 
advance of print version. 

Graham DY, NSAIDs, Helicobacter pylori, and Pandora's box, New England Journal of Medicine, 2002; 347(26):2162-4

Gurwitz JH, Incidence and preventability of adverse drug events among older persons in the ambulatory setting, JAMA, 2003; 289(9): 1107-16. 

IMS Health, Leading 20 therapeutic classes by total dispensed prescriptions, 2002; www.imshealth.com/ims/portal/front/articleC/0,2777,6599_41551561_41587 545,00.html.

Stalz T et ai., Use of narcotics and NSAIDS for low back pain: Impact on medication costs, presented at the annual meeting of the International Society for the Study of the Lumbar Spine, Vancouver, 2003 ; abstract available at www.spine journal.com, at meeting abstracts, ISSLS; study as yet unpublished. 

Turk D, Clinical effectiveness and costeffectiveness of treatments for patients with chronic pain, Clinical Journal of Pain, 2002; 18(6):355-65. 


The BackLetter 18(5): 49, 56-57, 2003. 

加茂整形外科医院