提案された0SHAの人間工学的基準の方針は,臨床医および医学界を困った立場に追い込む。
医療提供者が新規の人間工学的基準に反対の意を表明すれば,反患者派,親ビジネス派にされてしまう。一方,臨床医が新規の基準を支持すると表明すれば,科学的根拠を無視したと告発され
ることになる。専門家の社会についても同じことが言える。
また,これには莫大な金銭が絡んでいる。提案された指令書は,職業上の筋・骨格系障害に対して早期の医学的介入を必要としており,労働医学専門医およびそれらの専門家集団にとっては黄金の山と見えるに違いない。
最近医学界では,仕事によっていわゆる“反復的なストレス損傷”が引き起こされることはないだろうという考えについて討論するだけで,非難を浴びている。最近のAmerican
Society for Surgery of the Hand (ASSH)の年次総会での出来事は,この問題がいかに爆発寸前の状態になったかを端的に示している。
反復的なストレス障害に関する教育コースにおいて,患者の集団が議事録に対する抗議を明らかにした。Coalition
on New Office Technology (CNOT)の女性は,キーボード関連の“反復的なストレス損傷”およびそのような障害を“改善する”と称するOSHAの規制案について報道したボストングローブ紙の記事を配布した。ビラの裏側には,CNOTからのメッセージがあった:“これらの・・セッションは,反復的なストレス損傷を有する無数の労働者が直面している疼痛や苦痛を信用できないものだとしている”。
CNOTのメンバーは,人間工学と反復的なストレス障害との相関関係について懐疑的であった演者を,自分達の窮状に対する同情心が欠けていると糾弾した。討論セッションの最中にビラを配
った女性は,「あなた方の1人が,今日,私達のことを犠牲者と呼ぶのを聞きました。私は,自分達のことを犠牲者だとは思っていないとあなた方に言いたいです……私達は、生計を立てようと頑張っています。あなた方の助けを必要としています。私は,今日ここで聞いた,忍び笑いやコメント,それに様々な話しぶりに落胆しています。それらは,私達が耐えていることに対して同情心が全くないことを示しています……」と,彼女は言った。
American Society for
Surgery of the HandのインストラクターであるMichael Vender博士は,直接これに答えることを厭わなかった数少ない演者の1人であった。Vender博士は,「我々の態度が,時々,慢性疾痛患者に対する同情心を欠いているように誤解されていると思うことがあります。手術を15回行う同僚らが同情心があると賞賛される人達のようにみえます。私は,患者さん達が15回の不必要な手術を,または16回もしくは17回目を受けなくてすむよう,十分な同情心をもっていると考えたいのです」と述べた。
CNOTの演者からのコメントが示すように,筋・骨格系障害と仕事との相関関係に関する広範囲にわたる情報は,臨床医のジレンマを引き起こした。聴衆の1人であった外科医は,患者に上肢の痛みは仕事とは関係ないと伝えることが非常に難しくなったと、自ら発言した。
パネル議長であるDean Louis博士は,臨床医は筋・骨格系障害の原因を確立することが難しいことを患者に必ず説明するよう提案した。「因果関係を特定することは,医師の責任ではありません……患者に症状があることは確かに認めることはできます。その理由は……我々の誰にもわからない何かなのです」とLouis博士は述べた。
The BackLetter No.21. June 2000.