トリガーポイントと圧痛点・経穴の違いとはー治療効果の観点からトリガーポイントを考えるー

伊藤和憲・北小賂博司(明治鍼灸大学臨床鍼灸医学U教室)

医道の日本第730号(平成16年8月号)2004年


■はじめに

トリガーポイントは筋筋膜性疼痛症候群に特徴的な圧痛部位であり、その出現部位はツボと高い確率で一致する。そのためトリガーポイントは圧痛点やツボと同一視されやすい。しかしながらトリガーポイントは単なる圧痛点や経穴とは異なる。

トリガーポイントにおける圧痛は索状硬結上に限局して出現し、その部位を強く圧迫すると典型的な関連痛や症状の再現が見られる。また、トリガーポイントの圧迫はジャンプサインや立毛・発汗などの自律神経反応も引き起こす(表1)。一方、トリガーポイントが出現しやすい部位とツボが存在する部位は多くの場合一致するが、これは場所的な関係だけでありトリガーポイントが持つ特徴を考えると、ツボ即ちトリガーポイントと考えることはできない。このようにトリガーポイントは圧痛点やツボと共通する点も多いが、トリガーポイントにしかない特徴を有していることも理解しておかなければならない。

そこで今回はトリガーポイントの特徴をまとめるとともに、トリガーポイントに治療を行うことの臨床的意義に関して、圧痛点治療や経穴治療の効果と比較しながら原稿を書き進めていきたいと思う。

■トリガーポイントの特徴と臨床的価値

トリガーポイントは圧痛点と異なり圧痛以外に様々な特徴を有している(表1)。

表1.トリガーポイントの特徴

1.限局した圧痛部位
2.ジャンプサイン
3.痛みの再現(認知)
4.索状硬結の存在
5.典型的な関違痛パターン
6.局所単収縮反応(LTR)
7.自律神経反応(立毛・発汗など)
8.自発放電活動(SEA)

トリガーポイントの最大の特徴は圧痛点が索状硬結上に限局して存在していることであり、その部位を強く圧迫すると痛みや症状の再現が見られること、もしくは典型的な関連痛が出現することであろう。

また鍼がトリガーポイントにヒットすると筋肉が局所的に収縮する局所単収縮反応(Local response:LTR)が見られるとされており、このLTRが大きいほどトリガーポイントに近いとされていることから、LTRはトリガーポイントを確認する1つの手掛かりになる。このようにトリガーポイントは圧痛点の一部であるが、単に圧痛があるという以外に多くの特徴を有していることから、圧痛点とは別の概念として考えるべきであろう。

しかしながら、索状硬結や痛みの認知、LTRなどの特徴はトリガーポイントを検出する上で臨床的価値が高いものの、習熟するにはある程度の訓練が必要とされており、最初のうちは
どうしても理解しやすい圧痛を指標にトリガーポイントを検出しようとしてしまう(表2)。そのため正確にトリガーポイントを検出することができないと思われる。

表2.トリガーポイント検出方法の臨床的意義

+が多いほど習熟が困難であり、診断上の価値が高い

検査法 習熟の困難さ 診断上の価値
圧痛の程度 ++
ジャンプサイン
痛みの認識 ++ +++
索状硬結 +++ ++++
関連痛 +++
局所単収縮反応 ++++ +++

Simons DG, J Musculoskeletal Pain,1996

■トリガーポイントの検索方法

トリガーポイントを正確に検出するためには、表1に示したような特徴を理解しなくてはならないが、それと同時にどの筋肉にトリガーポイントが存在しているのかを把握しなくてはならない。実際、患者が痛みを訴える場所に必ずトリガーボイントが存在するのであれば非常に簡単に検出できるが、多くの場合は患者が痛みを訴える場所とは離れた場所(筋肉)にトリガーポイントは存在している。そこで我々はトリガーポイントが存在している筋を簡便に検出する方法として、次に示すような方法を用いている(図1)。

痛みに関係すると思われる部位の可動域を測定し、どの運動が痛みにより制限されているか確認する
測定結果から障害を受けていると思われる筋を推測し、その筋肉を注意深く触診することで索状硬結を探す
寮状硬結が検出できたら、硬結上の圧痛点を注意深く触察し、最も圧痛を生じる角度で圧痛部位を強く圧迫する
もしトリガーポイントであれば、普段感じている痛みが再現する

障害を受けている筋肉(トリガーポイントを含む筋肉)は筋肉が短くなる(短縮する)と痛みが増強するという特徴を持っている。このことを利用して、

  1. 痛みに関係すると思われる部位の可動域を他動的に測定することにより筋肉を短縮させ、どの運動で痛みが出現するのかを確認する。
  2. 可動域測定の結果から、その運動に関与している主動作筋を1つ1つ注意深く触診し、索状硬結を探す。このとき筋肉ごとに関連痛が出現しやすい部位やトリガーポイントができやすい部位が決まっているので、それらを参考にするのもよい。
  3. 索状硬結が検出できたら、硬結上の圧痛点を注意深く触察し、最も強く圧痛を生じる角度で圧痛部位を強く圧迫する。多くの場合、索状硬結を垂直に圧迫するより斜めから圧迫したほうが痛みを誘発しやすいようである。またトリガーポイントの大きさに関しても様々な意見があるが、我々は研究結果からトリガーポイントは1pを超えない程度の限局した点であると考えている。そのため、触診の段階で圧痛閾値が最も低下している部位を厳密に絞り込んでおく必要がある。
  4. もしトリガーポイントであれば、普段感じている痛み(症状)が再現するとともに、鍼を刺入したときにLTRが見られる。ただし、LTRは鍼を刺入する速度によって誘発されやすさが異なるため、痛み(症状)の再現を指標にしたほうが、検出度が高いように思われる。

ここで紹介した方法は、あくまでもトリガーポイントを簡便に検出するための1つの方法であって、当然、この方法だけですべてのトリガーポイントを正確に検出することは不可能である。しかしながら、どの筋肉から触診するかを決める方法としては有用であると考える。あくまでもトリガーポイントの正確な検出には索状硬結の触知や圧痛点を圧迫する角度など、触診技術の向上が重要であることを忘れてはならない。

■症例

■結語

トリガーポイントの有用性に関していくつかの症例を題材に紹介してきたが、トリガーポイント治療はどのような痛みに対しても有効であるわけでは決してない。トリガーポイントは原則として筋肉に原因があるような痛みに対して有効な治療法である。このことから、反射や筋力検査などの神経学的所見や血液検査などの検査所見に異常がないことを確認し、筋筋膜由来の疼痛であることを見極めることがトリガーポイント治療の第一歩となる。

一方、神経学的所見に異常がない場合、トリガーポイント治療の適応となる可能性が高いが、次に重要となるのは「原因となる筋肉の特定」と「トリガーポイントの検索」であろう。今回示した症例報告の結果からも明らかなように、原因となる筋肉を特定し、その筋に存在するトリガーポイントに的確に鍼が刺入できなくては著明な効果は得られないし、逆にそれができれば少ない本数の鍼でも短時間で十分な効果が期待できる。このことから、術者は「疼痛姿勢」や「可動域検査」などから原因筋を見極める目と、「圧痛」・「硬結」・「症状の再現」という3つのキーワードが存在する場所を選び出す触診技術を身につける必要があると考えている。

これらは決して難しいものではなく、繰り返し経験する中で得られるものであるため、日々の臨
床の中でトリガーポイントを意識しながら診察を行うことこそがトリガーポイント治療の上達への近道であると言えるだろう。

最後になるが、トリガーポイントを考える上で一番重要なのは、患者が痛みを訴えている部位に必ずしも痛みの原因となる部位があるわけではないという視点である。この視点を忘れずに治療に当たることが最も重要と考えられる。

加茂整形外科医院