慢性腰痛の治療の調整に対する障壁

Barriers to Care Coordination for Chronic Back Pain


慢性腰痛がしばしば複数の疾患に関係する複雑な長期疾患であることを考えると、誰が臨床治療の指揮をとるべきなのだろうか。おそらく、治療にあたるいずれの医療関係者でもこの役割を果たせるだろう。しかし幅広い医学知識が要求され、患者との関係が長期にわたることを考えると、プライマリケア医が適任者だろう。

複雑な慢性腰痛の治療の調整は簡単な仕事ではないかもしれない。複数疾患の総合的治療の再検討、専門医への紹介、専門医による治療結果のモニタリング、治療勧告の遵守率の向上、および数カ月〜数年にわたるこれらの疾患の悪化と改善のモニタリングが必要になるだろう。

効果的な治療の調整を妨げる様々な障壁が存在する。2004年に行われた米国のプライマリケア医の全国的な代表標本の調査によって、慢性疾患の治療の調整を妨げる最も重要な障壁は、(1)治療の調整サービスの費用の補償に関する懸念、(2)法的責任の増大に対する恐れ、の2つであることが明らかになった(Anderson et al.,2003を参照)。

法的責任の問題に取り組んだ最近のレビューで、いくつかの心強い情報が得られている。Wake Forest Universityの法律および公衆衛生学の教授であるMark J. Hall博士らは、文献レビューならびに医療過誤保険、リスク管理、および責任訴訟の専門家へのインタビューを通じて、治療の調整に関連する法的責任について検討した(Hall et al.,2005を参照)。

プライマリケア医の懸念が全くの見当違いというわけではない。確かにプライマリケア医が治療の調整に関わる訴訟の当事者になることが、時折ある。Physician Insurers Association of Americanの15年間の請求データを再検討したところ、プライマリケアでの過失による医療過誤の
理由として多かったのは、“治療の監督または監視を怠ったこと”と、“専門医への紹介を怠った/遅れたこと”の2つであった(Philips et al.,2004を参照)。

しかし総合的に、Hall博士らは、治療の調整のために高度の責任が問われることはおそらくないだろうと結論付けた。博士らがレビューで述べたように、“これらのリスクの程度は、プライマリケアにおけるその他のリスクとほぼ等しいようである”。Hall博士は、治療の調整は努力する価値がある作業だと考えている。“複数の慢性疾患を有する人々が、治療の調整が不十分なために、複雑で効率の悪い治療システムに直面することがしばしばあります”とHall博士は最近述べた。

このような統制なく個々に行われている治療が、防止可能な医療過誤、回避可能な合併症、および必要以上に高い入院率につながることがある。“治療の調整を改善することによって、実質的に健康上のアウトカムを改善し費用を減らすことが可能です”とHall博士は述べた。

このレビューでは腰痛治療のコーデイネートに関連する責任リスクを具体的に調査していない点に注意すべきである。長期の治療の調整は現在のところ、慢性腰痛の治療において一般的ではない。したがって、これが臨床治療においてより一般的になれば、責任問題の様相が変化する可能性があるだろう。

参考文献:

Anderson GF, Physician, public, and policymaker perspectives on chronic conditions, Archives of Internal Medicine, 2003; 163: 437-42.

 Hall MA et al., Liability implications of physician-directed care coordination, Annals of Family Medicine, 2005; 3: 115-21.

Philips JL et al., Learning about malpractice claims about negligent, adverse events in primary care in the United States, Quality and Safety in Healthcare, 2004; 13: 121-6. 

The BackLetter 20(4): 38, 2005. 

加茂整形外科医院