アイシングに関する科学的エビデンスはただ冷やすだけ


ある治療方法の適切な使用に関して、医学文献に見解の不一致がみられる場合、基礎的な科学的エビデンスが不足していると考えて、まず間違いない。

Domhnall MacAuley博士は、最近、45冊のスポーツ医学の教科書を体系的に調査し、スポーツ損傷の治療におけるアイシングの適切な使用に関する記述について調べた。それらの教科書の見解はあまり一致していなかった。

17冊の教科書には、アイシング治療の期間や頻度に関するアドバイスや皮膚の保護材の使用について、まったく記述がなかった。28冊の教科書にはアドバイスが書かれていたが、アイシング治療の重要な側面に関する見解には相違がみられた。MacAuley博士は、“この種の教科書を調べる臨床医は、具体的な治療計画を定めるのに苦労するだろう"と言及している(MacAuley,2001を参照)。博士は、正確な治療勧告を支持する科学的エビデンスが不足しているのかもしれないと述べている。

最近行われた科学文献の再調査は、MacAuley博士の疑念を強める。Ola Thorsson博士による最近の文献レビューによると、アでシングにいくらかの効果があることは科学的研究によって実証されている。アイシングは局所血流量を減らし、損傷した筋肉の代謝速度を低下させる。しかし、運動選手におけるアイシングの臨床効果に関する研究は不足している。Thorsson博士は、“軟部組織のスポーツ損傷の救急処置において有意な効果を認めた対照比較研究はない"と述べた(Thorsson,2001を参照)。

Edzard Ernst博士とVeronika Fialka博士は1994年に、疼痛緩和のための寒冷療法の使用に関する科学文献を検討した。その結果、アイシング等の寒冷療法を支持するさまざまな間接的エビデンスを見出した。“しかし、臨床試験から得られた科学的エビデンスは断片的である"と博士らは結論づけた(Ernst and Fialka,1994を参照)。残念なことに、1994年以降に実施された科学的研究でも、エビデンスの不足部分を埋めることはこきなかった。

MacAuley博士は、アイシングの潜在的有用性だけでなく、寒冷療法に関連するリスクについても、明らかなエビデンスが必要だと指摘する。どのポイントに達すると、寒冷療法が局所の組織損傷を引き起こしたり、固有受容能力を損傷したり、さらなる損傷の可能性を増大させたりするのか?

本研究はスボーツ医学に関するものだが、科学的文献が不足しているのはほぼすべての脊椎分野も同様である。

腰痛患者は、医師のアドバイスに従って、しばしば硬組織および軟部組織のアイシングを行っているが、そうした勧告を支持するエビデンスが不足していることにショックを受けるであろう。アイシング関連産業は、筋・骨格系の医療分野の中で大きな存在になっている。それにもかかわらず、その基盤は不安定である。この領域において多くの研究が必要とされている。

参考文献:

Ernst E and Fialka V, Ice freezes pain? A review of the clinical effectiveness of analgesic cold therapy, Journal of Pain 
and Symptom Management, 1994; 9(1):56-9. 
MacAuley D, Textbooks agree on their advice on ice?, Clinical Journal ofSport Medicine, 2001 ; 1 1 :67-72. 
Thorsson O, Cold therapy of athletic injuries, Lakortidningen, 2001 ; 98(13): 1512-3 . 

The BackLetter 16(10): I lO, 2001. I

加茂整形外科医院