職場が筋・骨格系障害への対処の妨げに?

Do Workplaces Impede Coping With Musculoskeletal Disorders ? 


労働者には、症状に悩まされているときに、日常業務や作業課題を変更できる柔軟性がないのかもしれない

職場における祉会的因子や組織的因子が、労働者が腰痛等の筋・骨格系愁訴に対処する妨げになるのだろうか?

これはノルウェーで行われた最新研究の結論である。SteffenTorp博士らは、職場における決定権限、社会的支援、管理側からの支援および健康に関連する支援のすべてが、労働者が筋・骨格系症状に対処する方法に影響すると示唆している。多くの労働者には、症状に悩まされているときに、日常業務や作業課題を変更できる柔軟性がないのかもしれないと、博士らは示唆している(Torp et al.,2001を参照)。

Torp博士らによると、“われわれは、管理者が、筋・骨格系症状を体験している労働者と、健康や環境に関する問題について話し合うことが重要だと考える。そうすれば、労働者が痛みがあっても仕事を継続できるよう、適切な措置をとることができる。健康および安全性に関する活動に管理者が関わらなければ、介入は成功しそうにないと、われわれは主張する”。

Torp博士らは、ノルウェー全域の自動車修理工場の労働者について調査を行った。博士らは、社会的因子や組織的因子と同様、労働者の仕事中の対処法を評価する調査票を作成した。博士らは、研究の理論的根拠としてKaresekおよびTheorellの仕事要求/制御/支援モデルを用い
た。

Torp博士は、ノルウェー全域の237ヵ所の自動車修理工場の2174名の労働者に調査票を送った。72%の労働者(1567名)から回答があった。従業員の平均年齢は34歳で、現在の職場における平均雇用期間は13年であった。自動車修理工場の労働者の大多数は男性であった。

回答した労働者の22%は、仕事中に疼痛またはこわばり感を経験したことはないと回答した。これらの症状を経験した労働者が好んだ対処法は、“同僚に手助けを頼む”“仕事の仕方を変える”“身体的な緊張を軽減するため道具を用いる”ことであった。

最も人気がなかった対処法は、“健康および安全性の担当者と話し合う”“比較的きつくない作業をする”および“休憩を頻繁に、または長くとる”ことであった。

Torp博士らは、従業員の対処法に関連すると思われた社会的および組織的な因子を同定するため、重回帰分析を行った。

分析では、3つの主な因子に焦点を当てた:(1)“決定権限”(たとえば、労働者が職場でのできごとに口を出す権利があるか?);(2)“祉会的支援”(たとえば、労働者が同僚および管理側からの支援に気づいているか?);および(3)“職場の健康、環境および安全性因子に関連する管理側の支援”(たとえば、健康および安全性に関連する問題に真剣に取り組んでいるか?管理側がこれらの問題についての約束を守っているか?健康および安全性の問題について労働者への相談があるか?)。

これは、興味深い研究であり、重要な問題を調査している。腰痛の研究に精通している人の中に、労働者が健康問題に対応する方法において、職場における社会心理学的および組織的な因子が重要な役割を演じることを否定する人はいないだろう。柔軟性があり融通のきく職場では、労働者が腰痛または活動障害の保険請求を報告することは少ないだろうと、多くの研究者は考えている。

しかしながら本研究は、さまざまな社会心理学的因子と、労働者が筋・骨格系問題に対処する態度との関連を示しているにすぎない。これらの因子間の相関関係の性質については述べていない。

Torp博士らの議論は、人間工学的仮説と絡み合っている。Torp博士らによると、“われわれの結果は、仕事中のネガティブな社会的および組織的因子によって、作業テクニックの修正、身体的緊張を低下させる道具の使用、休憩をとるなどの、`腰痛教室'で教えられる問題対応型の対策
の使用が制限されている可能性があることを示している”。

これは、ありうることである。しかしながら、良質の科学的研究では、従来の腰痛教室を支持する決定的エビデンスは得られていない。腰痛教室が組織的および社会心理学的な障害のためにうまく行かなかった可能性がある一方で、単に一部の腰痛教室での対策が効果がないだけだとい
う可能性もある。

たとえ職場における社会心理学的および組織的な有害因子を修正することにより、腰痛教室の目的の達成が促進されなくても、これらの介入は他の利点があるかもしれない。

職場における介入によって腰痛に関連する活動障害を軽減できることが、いくつかの研究で示されている。しかしながら、最適な介入が何なのかは明らかではない。社会心理学的問題、組織の問題、人間工学的問題またはこの3つの組み合わせに焦点を合わせるべきなのだろうか?これ
は、すべての脊椎研究において最も重要な問題の1つである。しかしながらその答えは依然としてとらえ所がない。

参考文献:

Torp S et al., The impact of psychosocial work factors on workers coping with musculoskeletal 
symptoms. Physical Therapy, 2001 ; 81 (7): 1 328-38. 

The BackLetter 16(9) : 99,2001.

加茂整形外科医院