青少年の腰痛:公衆衛生の危機の激化か、それとも良性の成長痛か?

Back Pain in Adolescents : Raging Public Health Crisis or Benign Growing Pains? 


マスメデイアによると、青少年の腰痛は公衆衛生の危機の激化を意味しており、若い世代に氾濫する可能性があるという。一部の健康管理機構、専門学会および政府機関も、この概念を受け入れている。

しかしこの見解は、公表されている科学的エビデンスと矛盾する。そしてエビデンスと一致しない推論が、正しいという保証がない対策につながる可能性がある。

最近、この公衆衛生の危機説に関するセンセーショナルな新聞記事やテレビの特集番組が一斉に報道された。

エジンバラのSunday Herald紙は最近の記事で、“学童の腰痛には何十億ポンドもの費用がかかる可能性がある”と推測した。この記事では、スコットランドの学童に関する最新研究を引用して、腰痛は切迫した危機になっていると主張している。スコットランドの中学生の半数が活動を妨げる腰痛に苦しんでいるという衝撃的な研究結果によって、政治家および健康専門家の間に懸念が広がった”(Bruce,2002を参照)。

別の記事も同じ文句を繰り返した。“21世紀の子供たちがこのまま成長すると将来身体に障害が現れるだろう”とウェールズのWestern Mail紙は述べている。“カウチポテトの習慣、学校生活のストレスや緊張と一体になった若者たちのデジタル娯楽文化、テレビゲームの操作盤に何時間も背中を丸めてかじりついている子供たちの姿は、多くのテイーンエイジヤーが後年、深刻な腰の障害と活動障害性腰痛に直面することを意味する”とMadeleine Brindley氏の記事は示唆した(Brindley,2002を参照)。

感知された危機

一部の政府機関と健康管理機構は、こうした危機を感知して直ちに対策を講じた。最近カリフォルニア州では、本を入れるリュックやかばんが、傷つきやすい脊椎を変形させていると確信して、教科書の重量に法定限度を定めた。

カリフォルニア州ラモナのある学校では、教科書の使用を全面的に禁止し子供たちにラップトップコンピューターを与えることを決定した。“学童の腰痛の増加によって、学校から本が追い出されている”とKSBWテレビは報じた(KSBW Channel.com,2002を参照)。

公共および民間の団体が、危機と言われる事態が悪化するのを防ごうと、姿勢、運動不足、肥満、および教室における人間工学的問題を標的にしたプログラムを作成した。

エビデンスは何を物語る?

けれども科学的エビデンスを調査してみると、エビデンスが完全とはいえないものの、危機は全く存在しない可能性があることが示唆される。腰痛の有病率が上昇している国もあれば低下している国もある。報告されたような腰痛の増加が、身体的問題のレベル、強力な社会心理的問題を反映しているのか、それとも調査回答者の腰痛に対する認識の高まりを反映しているだけなのかは明らかではない。

現在までの研究を慎重に解釈すると、この年齢層における腰痛は成長に伴う一過性のもののように思われる。頭痛や胃痛のように、腰痛はよくある症状である。大部分の学童にとって、腰痛はこうした他の一過性疾患と同様に機能的に重大な問題ではないのかもしれない。

この年齢層の小児が腰痛を重大な問題とみなしていると指摘した研究は少ししかない。12歳または16歳で腰痛を訴えた人たちの大多数は、35歳または40歳になっても活動障害性の腰痛がある、というエビデンスは少ししかない。青少年の腰痛が、主として椎間板変性または他の特定可能な病理学的異常から生じるというエビデンスはない。

科学的研究で、学童における腰痛のリスクファクターと考えられる、一連の因子が指摘されている。しかし、リスクファクターの組み合わせは研究によってかなり異なっている。小児および青少年における腰痛の原因は依然として不明である。

よかれと思って行われた対策

科学的な研究では、有効な予防法は今なお決定されていない。前述したすべての予防法は、ある程度実験的なものである。

学童向けの対策の多くは、直観的に健康を増進するだろうと思われる試みである。小児および青少年はもっと運動し、適度な体重を維持し、もっと栄養のある食事をとり、長時間無理な姿勢を続けないようにしなければならない、という考え方に異議を唱える人はほとんどいないだろう。しかし、本を入れるかばんを軽くし、学校の備品を変え、コンピューターの使用を制限し、子供向けの腰痛教室を実施すれば、腰痛に良い影響がある、という保証はない。言うまでもなく、まだ証明されていない対策の実績にはむらがある。

実際、たとえ無害のものでも、効果が証明されていない予防法が時には裏目に出ることがある。それらの対策で腰痛は防止できないかもしれないが、小児の腰痛は重篤で活動障害を引き起こす苦痛だという認識を誤って広めてしまう可能性はあるだろう。成人の腰痛が最も活動障害を引き起こすのは、腰痛があると活動が障害されると信じた場合だということを、常に銘記しておく価値がある。

参考文献:

Brindley M, 2lst century children are growing up to be cripples, Western Mail. October 14, 2002; icwales.inc.../page.cfm?objectid=12280328&method=full&siteid=5008

Bruce IS, Back pain in pupils could cost billions, Sunday Herald. October 12,2002;www.sundayherald.com/28391. 

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Hakala P et al.. Back, neck, and shoulder pain in Finnish adolescents: National cross sectional surveys, BMJ, 2002; 325:743;BMJ.com

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