繊維筋痛症候群
リウマチ疾患を診る医師として、不定な関節・筋肉痛を訴えるけれども、検査所見にもそれほど異常がなければpsycologicalなものとして片づけたくなる。しかし、こうした症状は以前は結合組織炎候fibrositis syndromeという診断が用いられたこともあるが、Yunusら(1981)によって繊維筋痛症候群fibromyalgia syndromeとして一つの疾患として唱えられるようになった。繊維筋痛症候群における圧痛点 (写真)
疫学・臨床症状
本症に相当するものは、リウマチ外来の6〜20%みられるといわれるほどで少なくはない。40〜50才代で女性に多い。臨床症状は表にみるように、筋・骨格の痛み、疲労感、睡眠障害を主徴とする。殊に、肩腕・背部のこわばりと痛みが約70〜80%にみられる。また、気候や神経的ストレスによって左右される。患者は、疲労感を一日中訴えることがあり、眠れないと訴える。他方、過敏性胃腸障害や頭痛、生理不順などを伴うこともある。慢性化することが多く、職場を変更したり、休職を余儀なくされる患者もみられる(17〜30%)。しかし、関節、筋肉、知覚、腱反射などにほとんど異常を認めない。特徴的なことは、沢山の圧痛点がみられることである。
血液検査
血液検査所見、X線検査でも異常を認めない。
診断
繊維筋痛症候群では表に示した症状があれば本症を疑うが、Yunusらによると1)広範な筋骨格痛、2)10ヶ所以上の圧痛を多少ともみること、血液検査で特に異常をみとめないとなれば85%以上の確率で本症として良いとしている。最近のACRの診断基準によれば、指の触診で18ケ所の圧痛点のうち11ケ所に疼痛を認めることとある。もちろん、多くの膠原病ばかりでなく、胸部及び腹腔内臓器からの放散痛を念頭に置いてすべきである。また、精神科的疾患、例えばうつ病なども鑑別に入れねばならない。
治療
本症の治療は診断が確定したら、患者教育(生活環境やストレスの改善など)ばかりでなく、規則的な筋肉トレーニングなどさせて、その人なりの日常生活への適応がうまくいくよう管理していくことが大切である。もちろん、痛み、睡眠障害に対しては対症療法として投薬をすることもあるが、無秩序なNSAIDsなどの長期投与はかえって胃腸障害を招き、自覚症状を増悪させる。また、圧痛点への限られた部位に局麻剤(ステロイド剤を含む)の局注は有効なこともある。他方、理学療法あるいは精神科的アプローチを導入することも一考すべきである。基礎疾患として抑うつ(うつ病)があるかを見極め、これを治療することは重要である。こうした場合、ベンゾジアゼピン系薬物よりも三環系抗うつ剤の夜間投与のほうが好ましい。患者の状況が不明瞭な場合は精神科での診察を受けさせるべきだが、大部分の患者はそうした必要がない。
予後
線維筋痛症候群はアンケート調査などによれば1〜3年間は60〜70%がなお同様の症状を抱えているといわれ、慢性化することもあるが、若い患者ほど、軽症なほど予後はよい。
「リウマチ教育研修テキスト」より
(写真は別)
繊維筋痛症
|
症状 |
平均的頻度(%) |
範囲(%) |
筋・骨格痛 |
多発性の痛み |
100 |
100 |
こわばり |
78 |
76-84 |
不快感 |
64 |
60-69 |
軟部組織腫感 |
47 |
32-64 |
筋・骨格以外 |
疲労感(一日中) |
86 |
75-92 |
朝の疲労感 |
78 |
75-80 |
睡眠障害 |
65 |
56-72 |
感覚異常 |
54 |
26-74 |
関運症状 |
不安感 |
62 |
48-72 |
頭痛 |
53 |
44-56 |
生理不順 |
43 |
40-45 |
過敏性胃腸害 |
40 |
40-53 |
うつ病 |
34 |
31-37 |
乾燥症候 |
15 |
12-18 |
Raynaud症候 |
. |
13 |
9-17 |
女性尿路症候 |
. |
12 |
(Yunus,MB,1993) |