広範囲に及ぶ腰痛

Diffuse Back Pain 


広範囲に及ぶ疼痛のある患者は医療サービスを頻繁に利用

腰痛および頸部痛の患者のうち、複雑で厳しい臨床経過をたどる可能'性の高い大きなサブグループが研究者らによって同定されている。しかし医療システムの中で、これらの患者をいかに対処するのが最善かという問題は未解決のままである。

Umesh T. Kadam博士らは、地域医療機関を受診した住民を対象にした3年間のプロスペクティブ研究において、べースライン時で広範囲に及ぶ慢性疼痛を訴えた一般集団の中の、個々
の患者の医療利用状況を追跡調査した。その結果、広範囲に及ぶ疼痛を有する患者は医療サービスを頻繁に利用しており、それは筋骨格系領域に限らないことが明らかになった。

Kadam博士らによると、“広範囲に及ぶ慢性疼痛を訴える人々は疼痛のない人々と比較して、その後、筋骨格系の問題だけでなく筋骨格系以外の問題のために受診する頻度も高く、それは年齢、性別、または失職には無関係であることが、我々の研究で明らかになった”(Kadam et al.,2005を参照)という。

研究者らによろと、“3年間の追跡調査期問中の筋骨格系以外のすべての疾患による受診の7.7%、およびすべての筋骨格系疾患による受診の12.6%は、べースライン時で報告された広範囲に及ぶ慢性疼痛と関連があったと推定された”という。

べースライン時で広範囲に及ぶ疼痛があった人々は、筋骨格系障害、事故、精神障害、皮膚疾患、および感染による受診率が高かった。

興味深いことに、医療サービスの利用増は、心理的苦痛だけが原因ではなかった。統計的解析において、心理的苦痛について調整した後でも、広範囲に及ぶ疼痛と医療サービス利用増の問には強い関連が認められた。

一般集団の10%には広範囲に及ぶ疼痛がある

いつの時点でも、先進国における一般集団の約10%に広範囲に及ぶ疼痛がみられる。

広範囲に及ぶ疫痛と腰痛には、はっきりと重なり合う部分がある。定義上、広範囲に及ぶ慢性疼痛には、脊椎またはその周囲における何らかの形での疼痛が含まれる。通常、広範囲に及ぶ慢性疼痛は、軸性疼痛に加えて身体の左右上下のいずれかの部分に疼痛があり、3ヵ月以上持続しているものと定義される。

その新しい研究の共著者である英国の研究者Peter Croft博士は、2004年に開催されたアルバータ国際フォーラムで、広範囲に及ぶ疼痛を有する患者の約90%にはその一部として腰痛がある、と指摘した。腰痛のために医師を受診する患者の3人に1人は、他の部位にも疼痛があると訴える。

腰痛患者に広範囲に及ぶ疼痛が存在することは、予後不良の強力な指標である。英国のマンチェスターで行われたプロスペクテイブ研究において、べースライン時で広範囲に及ぶ疼痛を訴えた患者は、翌年のうちに活動障害性の慢性腰痛を発現する危険性が6倍高かった(Thomas et al.,1999を参照)。

広範囲に及ぶ疼痛は、線維筋痛症侯群と重なり合う部分がある。しかしそれらが同一の愁訴ではないことは確かである。広範囲に及ぶ疼痛を有する患者のうち、米国リウマチ学会の線維筋痛症の定義を満たす必須の圧痛点を有する者は半分以下である。

1つに統合された病態か、それとも苦痛の連続体か?

重要なのは、広範囲に及ぶ疼痛は1つに統合された別個の病態なのか、それとも単なる苦痛の連続体なのかという問題である(Hadler and Greenhalgh,2004を参照)。Croft博士はアルバータ国際フォーラムにおいて、広範囲に及ぶ疼痛を有する患者は、共通する遺伝的、生物学的、心理社会的、および/または文化的な影響の点で、他の患者とは異なる可能性があると指摘した。“ことによると、これらの人々はいくつかの点で他の患者とは異なっているのかもしれない”と博士は推測した。しかしまた、そうではないかもしれない。

広範囲に及ぶ疼痛が、疼痛以外の医学的問題の原因および受診理由なのか、それとも、重なり合う部分のある多様な問題の集合体の中の“1つ”なのかは、明らかではない。

しかし、腰痛および他の多様な一般的臨床愁訴は、より大きな疾患形態の一部なのかもしれない。“我々の研究は、より大きな病理学的または身体上の症侯群の一部かもしれない病態間の重なり合いと関連を示す、それ以上のエビデンスを提供する”と、Kadam博士らは指摘した。

広範囲に及ぶ疫痛への対処に適さない医療システム

米国を含む多くの社会における医療システムは、広範囲に及ぶ疼痛症侯群に対処するのに極めて不向きである。Michael Von Korff博士はエドモントンフォーラムで、医療システムは各愁訴を個別に治療するように設定されており、多くの場合、より大きな臨床像には全く対処していないと指摘した。腰痛を治療する医師は脊椎の問題しか見ていないことが多く、合併している病態には全く対処していない。

医療提供者は、広範囲に及ぶ疼痛を有する患者が比較的単純な腰痛の患者よりも幅広く厄介な健康問題を抱えていることを、よくわきまえておくべきである。しかし、これらの幅広い症状の重複にどのように対処すべきなのかは明らかになっていない。

これらの患者に専門医療機関、特に線維筋痛症のクリニックを紹介すると、実際には疾患による苦しみがさらに増す可能性がある。それらの患者が、多くの線維筋痛症患者と同じように、難治性およぴ不治の病態を有すると、認識してしまう可能性があるからである。

しかし広範囲に及ぶ疼痛の自然経過は、線維筋痛症患者のそれよりも良好である。多くの疾患と同様に広範囲に及ぶ疼痛は、通常、完全に消失することはなくても強くなったり弱くなった
りする。言い換えると、広範囲に及ぶ疼痛の予後に全く希望がもてないわけではない。

参考文献:

Hadler N and Greenhalgh S, Labeling woefulness: The social construction of fibromyalgia, Spine, 2004; 30: 1-4. 

Kadam UT et al., Is chronic widespread pain a predictor of allcause morbidity? A three-year prospective population-based study in family practice, Journal of Rheumatology, 2005; 32: 1341-8. 

Thomas E et al., Predicting who develops chronic low back pain in primary care: A prospective study, BMJ, 1999; 3 1 8: 1662-7.

 The BackLettcr 20(8): 85, 94, 2005. 

加茂整形外科医院