エビデンス基準の変化によつて人工椎間板の土台が揺らぐ

Changing Evidence Standards Undermine the Artificial Disc 


椎間板置換術は、脊椎治療に革命をもたらす可能性のある”ゲームを一変させるような”技術だと、ウォールストリートやマスメディアは宣伝して
きた。しかし、人工椎間板がゲームを一変させる技術になるには、まず、大規模なゲームに参加する必要があるだろう。

もし米国の保険会社、医療システム、および費用の支払機関がそのゲームに関与してくれば、このプロセスはなかなか進まないだろう。

最近、支払機関と関連機関が複数のエビデンスの再検討を行い、Charité人工椎間板(Johnson & Johnson/Depuy Spine, Raynham,MA)を用いた椎間板置換術の有効性と安全性は少しも証明されておらず、既存のエビデンスには欠陥があるという結論を出した。

多くの(大多数という人もいる)米国の保険会社が、椎間板置換術にかかる高額の費用の保険責務を負うことを拒否している。より良い科学的エビデンスが得られるまで椎間板置換術を
“治験用の”治療に留めてはどうかと、複数の会社が提唱している。

FDA承認は保証にならない

FDAが新しい脊椎手術の最終関門だと考えている人々にとって、これは意外な事実かもしれない。もちろん、FDAは2004年10月にCharité人工椎間板を承認した(FDA,2004を参照)。脊
椎手術は“安全かつ有効”であるとFDAが判断したことによって、一時は、保険会社と支払機関が新しい治療法の費用を償還することが九分どおり保証されていた。

この流れから、ウォールストリートのアナリストは今後数年以内に数十万人の患者が椎間板置換術を選択し、機器(device)の製造業者、医療システム、および脊椎の治療医に多大な利益が流れ込むだろうと予測した。

変わりつつある、エビデンス基準

脊椎の治療医も患者も等しく椎間板置換術を前例のないほど熱心に支持していることを考えると、これは妥当な予測であるように思われた。しかし予測した人々は、椎間板置換術の大規模使用を阻むある重要な障壁を考慮に入れていなかった。それは、大手の保険会社および支払機関の脊椎分野におけるエビデンス基準が変わりつつあるということである。

近年多くの支払機関は、FDAの基準よりも厳しいエビデンス基準を作成している。そして多くの脊椎治療医よりも実質的なエビデンス基準を定めているようである。それらの機関は客観
的な基準に基づいて、Charité人工椎間板を保険の補償範剛こ含めることを拒否している。

患者の利益を守る

脊椎治療の専門医集団の中には、保険会社が実際の診療を妨害し貴重な治療選択肢を患者から奪っていると考える者もいる。

しかしUniversity of Washingtonの脊椎外科医であるSohail Mirza博士は、新しい機器(device)および手術法の評価に客観的エビデンス基準を適用するという点で、保険会社の行為は適切であると述べている。Charité人工椎間板に関して保険会社は、証明されていない手術が論争の余地のある適応(椎間板に起因する腰痛)に対して無差別に適用されるのを防止することで患者を保護している。

“たとえ保険会社が財政責任を負う企業としての役割を果たしているだけだとしても、間接的に患者の利益を代表しているのです。広範囲に使用されれば製造業者、外科医、および医療機関に利益をもたらすかもしれませんが、患者に利益をもたらすという明白なエビデンスはありません。”と、Mirza博士は述べている。

“一般的な科学的エビデンスは椎間板置換術の安全性と有効性を十分実証していない、という評価に私は同意します。最も熟練した外科医による治療を受ける理想的な患者においてさえ、有効性と安全性はせいぜい最低限のレベルに近いように思われます。”と、Mirza博士は述べている。

“手術には相当のリスクが伴うため、慎重な姿勢をとるのは当然のことです”とMirza博士は助言する。博士は、患者と医師が、更なる無作為比較研究、プロスペクティブコホート研究、および地域集団全体における人工椎間板の綿密な調査において、より良い科学的エビデンスが得られるのを待つよう提言している。

費用償還の危機が解決する可能性

一部の評論家は保険の危機は自らの力で解決すると考えている。Charité人工椎間板の治験に参加した神経外科医のFred Geisler博士は、Health-point Capitalのホームページに掲載された最近のインタビューで、現在の費用償還状況が“混乱”していることを認めた
(McCormick,2005を参照)。

しかしGeisler博士は費用償還の問題は1年以内に解決するだろうと予測した。博士は、費用償還に時間がかかれば、Charité人工椎間板が早い段階で過剰に使用されることが防止され、それによって好ましい影響を及ぼすだろうと述べた。Charité人工椎間板を保険の補償範囲に含めることを現在拒否している支払機関の数を考えると、これは楽観的な見解である。

しかし費用償還を阻む障壁が崩れる可能性は確かにある。保険会社が新しいエビデンスに対応する可能性があり、あるいは既存のエビデンスに対する見解を改める可能性もある。そして支払機関が医療専門家および一般社会からの圧力を受けてその見解を変えることが時折ある。

しかし同様に、人工椎間板の開発者が、それらが安全かつ有効であり、保存療法および他の代替治療法よりも良好な健康アウトカムにつながるという説得力のあるエビデンスを提示できるまで、保険会社が費用償還を拒み続ける可能性もある。

これはすべて金銭がらみの問題なのか

椎間板置換術の費用償還に関する論争は、すべてお金の問題だという意見もある。そして保険会杜が新しい手術の費用を支払いたくないだけだという意見もある。7月初旬のNew York Times紙の記事では、著名な脊椎外科医の次のコメントを紹介している。“保険会社は、費用を支払う必要がないという答えが出ている限り、実際は科学に関心などない”(Feder,2005を
参照)。

現在の状況を考えるとこれは厳しい評価のように思われる。確かに、大手の保険会社および他の支払機関は他の企業と同様、最終的な収益に常に注目している。しかし、過去10年間に数十億ドルにまで急増した米国における脊椎手術の費用の保険責務を負うのを嫌がってきたわけではない。

Charité人工椎間板の場合、大手保険会社は、椎間板置換術そして特にCharité人工椎間板に関する科学的エビデンスに対する長年の合理的批判に基づいて、保険の補償範囲に含めることを拒否している。そして多くの会社は、新しい手術に関するエビデンスを評価する際に客観的基準を用いている。

この議論は、費用の支払いを渋ることよりもエビデンス基準を中心に展開しているように思われる。しかし、椎間板置換術のエビデンスに関する保険会社の多数の最新レビューが自由に入手できるので、読者は自分で判断することが可能である。

次に紹介する記事はBlue Cross Blue Shield社のTechnology Evaluation Centerによる影響力のあるレビューである。

(編集者注:本号の椎間板置換術に関するすべての記事の参考文献はThe BackLetter20(7):81.2005.に掲載)


The BackLetter 20(7): 73, 78, 2005. 

加茂整形外科医院