Blue Cross Blue Shield社が椎間板置換術に関するエビデンスを批判

Criticism of the Evidence on Disc Replacement From Blue Cross Blue Shield 


Blue Cross Blue Shield(BCBS)社のTechnology Evaluation Centerは最近、椎間板置換術に関する現在までで最も包括的なエビデンスのレビューを完成させた。これは、全米の40のBlue Cross Blue Shield保険プログラムと、医療方針の決定に関してBCBS社の分析に頼っている他の支払機関に対して、指針を提供することが目的であった。

このレビューは、米国市場におけるCharité人工椎間板の初期の見通しに打撃を与える可能性がある。レビューではCharité人工椎間板(Johnson & Johnson/Depuy Spine, Raynham,MA)に関するエビデンスを厳しく批判し、安全性と有効性を確立するためにさらに臨床試験を行うよう示唆している(Blue Cross Blue Shield,2005を参照)

レビューの要約によると、“人工椎間板の有効性を支持する現在のエビデンスは不十分である”という。

BCBS社による分析は、FDAが管理したCharité人工椎間板を評価する無作為研究の試験計画と実施に関し、特にBAKケージ(Zimmer Spine, Minneapolis, MN)を用いる固定術を対照治療に選択したことについて疑問を呈した。

BCBSのレビューによると、BAKケージ自体が厳密な無作為比較研究で目覚しい結果を残しているわけではない。

執告によると、“幅広い臨床状況と、唯一の無作為比較研究(RCT)に対する懸念を考えると、人工椎間板の使用によって健康アウトカムが改善すると結論づけるにはエビデンスが十分ではない”という。

有効性を評価する5つの基準

BCBS社のTechnology Evaluation Centerのプログラムでは、新しい治療法が有効であり保険対象に含める価値があるかどうかを決定するため、5つの基準を用いている:(1)その技術は適切な政府機関から承認されているか?(2)科学的エビデンスからアウトカムに対するその技術の効果に関する結論を導くことが可能か?(3)その技術は最終的なアウトカムを改善するか?(4)その技術は確立された代替治療と同じくらい有益か?(5)アウトカムの改善は治験以外の状況でも達成可能か?

FDAの承認はどうなのか?

BCBS社のレビューによると、人工椎間板は5つのエビデンス基準のうち最初の1つしか満たしていない。脊椎医学の関係者なら誰でも承知しているように、FDAは2004年10月にCharité人工椎間板を腰椎関節形成術に使用することを承認した。

FDAは、数百例の患者の更なる追跡調査、更なる生体力学検査、外科医の訓練プログラムを行うこと、および有害事象の報告を促進するためエビデンスとなる記録を残すことなど、いくつかの条件をつけ加えた。

しかしFDAは基本的に、不特定の保存療法を6ヵ月行って効果が得られなかった、L4〜S1領域における1椎間の疼痛性変性性椎間板疾患の患者の治療法として、椎間板置換術は“安全かつ有効”であると断定した。

結論を出せるような科学的エビデンスか?

しかし、BCBS社のレビューは、椎間板置換術は“安全かつ有効”であるというFDAの判断とは食い違っていた。レビューは2番目の基準について同意しておらず、既存の科学的エビデ
ンスではこの手術の有効性に関する確かな結論を導くことはできないと結論づけている。

FDAはJohnson & Johnson社に対して、承認を得るためにはCharité人工椎間板がBAKケージを用いた固定術よりも劣っていないことを実証するよう要求した。いわゆる“非劣性試験”にはあやうい基準を含んでおり、比較または対照治療自体の価値が証明されていれば、有効性に関する何らかのエビデンスが得られるが、証明されていない治療に“劣っていない”ことを示しても、有効性については何も言えない。

BCBS杜の分析によると、“固定術は、変性性椎間板疾患に起因する腰痛の標準手術とみなされているが、固定術を代替の保存療法と比較した臨床試験で相反する結果が認められるため、有効性に関しては疑問が残る。BAKをその他の術式の脊椎固定術または保存療法と比較した無作為比較研究は存在しないため、BAK手術をCharité人工椎間板の対照治療としたことで、問題が浮き彫りになった”。

BCBSの評価者は、Charité人工椎間板が慢性腰痛および椎間板変性に対する他の手術よりも劣っていないだけではなく優れていることを示す、RCTに基づくエビデンスを期待していると述べた。

報告書では、この機器(device)を用いた椎間板置換術に関して、改めてより厳密な臨床試験を行うことを要求した。

椎間板置換術によって健康アウトカムは改善するのか?

レビューでは、3番目と4番目の基準について一括して扱っている。レビューによると、“人工椎間板の使用によって最終的なアウトカムが改善するかどうか、またはそれらが、確立されて
いる代替療法と同様に有用かどうかを決定するには、エビデンスが不足している
”という。

この結論は、FDAが管理した治験用医療機器の適用免除試験に対するBCBS社の批判から必然的に得られるものである。椎間板置換術がBAKケージを用いた固定術より劣っていなか
ったことを実証しても、新しい手術によってアウトカムが改善することが証明されるわけではない。

FDAは、Charité人工椎間板を使用した患者は疼痛スコアおよびOswestry活動障害度のスコアが改善したと結論づけたが、BCBS社の評価者は、試験計画および実施面における変則性のた
め、アウトカムデータの解釈は困難であると言及した。

報告書では、予め定められた解析計画が不足していたこと、すべての患者が試験を完了する前にデータベースが打ち切られたことについての説明がないこと、および正確な包括解析(intent-to-treat analysis)が行われていないことを挙げている。

FDAが管理した試験の結果を額面通り受け取ったとしても、椎間板置換術の成功率は決してすばらしいようには思われなかった。BCBS社のレビューによると、“[Charité群の患者における]
63%という成功率は、人工椎間板が非常に成功率の高い治療法であることを示すものではない”という。

治験以外の状況でも結果は達成可能か?

“アウトカムの改善は治験以外の状況でも達成可能か?"という最後の基準は、いかなる新治療法の評価においても重要な考察事項である。無作為比較研究は、大規模な研究施設における
厳密にコントロールされた条件下で、選抜された患者集団を対象に実施される。これらの状況での成功が、必ずしも地域医療機関の脊椎治療における成功へと形を変えるわけではない。

BCBS社のレビューはこの最後の基準について簡潔に触れている。“人工椎間板の使用によってアウトカムが改善するかどうかは、臨床研究において証明されていない”と結論づけた。結果として、治験以外の状況においても間違いなく確立されていない。

他の支払機関によるレビュー

ここ数ヶ月間に、他の複数の支払機関および関連機関からも、椎間板置換術に対して懐疑的なレビューが発表された。2005年2月の報告書で、Califonia Technology Assessment Forum (CTAF)は、BCBS杜のTechnology Evaluation Centerのレビューと同様に多くの批判を行った(Tice,2005を参照)。

FDAが管理した無作為研究のデザインおよび実施面での欠陥が明らかになった。椎間板置換術を支持する他の臨床的エビデンスは、症例集積研究で得られた、“最も信懸性の低いエビデン
ス”であることに言及した。

CTAFの報告書は、FDAが管理したRCTは椎間板置換術の重要な理論的根拠のひとつ、すなわち人工椎間板が隣接椎間板の変性を防止できるという説を、まったく支持しないと述べている。
たった1つの厳密な臨床試験でない20年以上にわたる臨床使用は、椎間板置換術が隣接椎間の破壊を防止することを示している。保険会社が最近行った他の複数のレビューと同様CTAFの報告書では、Charité人工椎間板の長期耐久性は不明であると述べている。

“発表された文献の質の低さ、および人工椎間板を脊椎固定術と比較した相対的利害の不確実性を考えると、Charité人工椎間板がCTAFの基準を満たすかどうかを決定するには、さらなるデータが必要である”と、報告書は結論づけた。

読者は、この他にも、Harvard Pilgrim Health Care, Regence Group、およびHayesのグループが行ったCharité人工椎間板に関するエビデンスの最新の批判的分析を参照されたい(Harvard Pilgrim Health Care,2005;The Regence Group, 2005; WinifredS.Hayes, Inc.,2005を参照)。

Aenta社による肯定的レビュー

Aetna社、Kaiser Permanente社、およびBlue Cross BIue Shield of New Jersey社を含む複数の保険会社が、既存のエビデンスに基づいてCharité人工椎間板を保険対象に含めることを決定した。

Aetna社は最近、科学的エビデンスについて多少寛大すぎるレビューを行った後、Charité人工椎間板を“治験用”から“医学的に必要”に格上げした(Aetna Insurance Company,2005を参照)。

“Aetna社は、6ヵ月以上保存療法を行っても効果がなかったL4〜S1の1椎間に変性性椎間板疾患を有する、骨格の成熟した患者の脊椎形成術にとって、Charité人工椎間板は医学的に必要
だと考える”と、2005年3月の会報0591で述べている。

レビューの著者らは、重要なFDA試験の結果を額面通り受入れ、BCBSのレビューで強調された研究デザインの欠陥を批判しなかった。

Aetna社は、Charité人工椎間板がBAKケージを用いた固定術よりも劣っていないことを示す信頼できるエビデンスがあると納得している。同社は対照治療にBAK手術を選択したことについては疑問を提起しておらず、BAKケージ自体がRCTにおいて適切に裏付けられていないことにも言及していない。

Aetna社のレビューは、Charité人工椎間板の長期耐久性については疑問を提起し、2年から3年を過ぎての臨床的アウトカムに関するエビデンスがほとんどないことに言及している。

どこへ向かうのか?

今後数年間の椎間板置換術に関する費用償還方針の変化を見守ることは興味深いだろう。大手保険会社およびその他の支払機関は、引き続き客観的エビデンスの基準およびエビデンスに基づくレビューの結果を支持するのだろうか?あるいは、企業、医療従事者、および患者からの圧力に基づいて方針を転換するのだろうか?保険会社が、新しい医療技術の開発を妨げることがないよう、合理的な一貫した費用償還基準を作成することが重要である。(編集者の注:本号の椎間板置換術に関するすべての記事の参考文献はThe BackLetter 20(7):81.2005.に掲載)

The BackLetter 20(7): 78-80, 2005. 

加茂整形外科医院