腰痛にアイシング:興ざめなエビデンス不足の実態

Ice for Back Pain: A Chilling Lack of Evidence


腰療に対するアイシングなどの、冷却療法の効果を検証した研究はほとんどない

アイシングなどの冷却療法が、腰痛、特に腰痛発生後早期の治療法として医療の場で広く推奨されている。症状の軽減を求めて冷凍庫のドアを開けた患者は数十万人にも及ぶだろう。

一例を挙げると、Spine-Health.comの記事にはアイシングに治療効果があることが示唆されている。Stephen Hochschuler博士らによると、“複雑な医療の世界の中で、単純なアイスマッサージは、未だ腰痛・頸部痛治療の証明済みの効果的な方法の1つであるだろう”という(Hochschuler,2003を参照)。

記事では、この種の治療の理論的根拠としてよく引用されるものをいくつか挙げている:(1)アイシングによって炎症および腫脹の進行を遅らせる;(2)痛みのある組織の感覚をなくす;(3)神経伝達の速度を遅らせ、痙攣を遮断させる;(4)組織損傷を軽減する。これらの理論的根拠は妥当であるように思われる。しかし、腰痛の冷却療法を支持する幅広い勧告には、適切に計画された臨床試験における裏づけがない。実際には、腰痛に対するアイシングなどの冷却療法の影響を検証した研究はほとんどないのである。

新たに発表されたCochrane共同研究の身体表面の温熱療法および冷却療法の評価に関するレビューにおいて、Simon French博士らは2005年10月までの文献を徹底的に調査したが、アイシング湘要痛の有効な治療であるという質の高いエビデンスは見つからなかった(French et al.を参照)。

温熱パックをアイスマッサージと比較した質の低い非無作為研究が2報見つかった。アイスマッサージと経皮電気的神経刺激を比較した質の低いクロスオーバー非無作為研究が1報見つかった。腰痛治療におけるアイシングとその他の治療またはプラセボを比較した無作為比較研究(RTC)は見つからなかった。

アイシングを行う最大の理論的根拠は、急性腰部損傷の早期段階にあるようであった。したがって、“急性腰痛に対して冷却療法を実施した研究が見つからなかった”ことは驚きだとFrench博士らは報告している。

急性、亜急性、または慢性の腰痛に対するアイシングおよびその他の冷却療法の評価こつい
て、結局何がわかったのだろうか?French博士らによると“腰痛に対する冷却療法の使用に関する結論を出すことはできない”という。

筋骨格系医学のその他の分野においては、アイシングの利点に関する豊富なエビデンスが存在するとの意見もあるだろう。そして、足首、膝、肘、およぴ肩の治療に関するエビデンスを用いて、腰痛の治療に冷却療法を使用することを正当化するのは理にかなうという意見もあるだろう。

残念ながら、軟部組織の損傷または疼痛の治療におけるアイシングの利点に関するエビデンスは驚くほど少ない。2004年のChris Bleakley博士らによる体系的レビューでは、軟部組織損傷の治療におけるアイシングについて評価したRCTは22報しかなかった。これらの研究の方法論の質を示す平均スコアは1O点満点中わずか3.4点であった(1O点は最良の質を意味する;詳細は論文を参照)。

Bleakley博士らは、足首の捻挫後にアイシングが温熱療法よりも有効であったことを示唆する研究を1報のみ見出すことができた。軽度の膝の損傷の治療において、アイシングを行った場合の方がアイシングなしの場合よりも効果があったことを示すエビデンスが見つかった。しかし、軟部組織損傷の治療においてアイスマッサージと圧迫の併用が圧迫単独よりも優れているというエビデンスはほとんどなかった。そして捻挫の治療におけるアイシングの使用に関するRCTはなかった(Bleakley et al.を参照)。

Bleakley博士らによると、“閉鎖性軟部組織損傷に対するアイシングの有効性を評価した研究は少なく、最適な治療方法または治療期間に関するエビデンスはなかった”という。

多様な基礎実験において、アイシングおよび冷却療法がヒトの組織に対して効果を示すことが示唆されている。アイシングによって動物およびヒトの深部組織温度を下げることができる。組織の代謝が阻害され、低酸素性の損傷および浮腫が最小限に抑えられる。損傷によっては、冷やすことで治療のために早期に動かすことが容易になる場合もある。

しかし医学の常道に従えば、基礎実験と臨床試験において同じ方向性をもつ結果が得られなければならない。そして、これが真実かどうかを調べるため、より良い研究が切実に必要とされている。

“急性軟部組織損傷の治療における[アイシングについての]エビデンスに基づくガイドラインを作成するには、多くの質の高い研究が必要である”と、Bleakley博士らは結論づけた。そしてBleakley博士らによるレビューが示しているように、腰痛治療におけるアイシングなどの冷却療法の使用についても同じことが言える。

編集者注:BackLetter Vol.21No.3で、身体表面を温める温熱療法に関するエビデンスを検証する予定である。

参考文献:

Bleakley C et al., The use of ice in the treatment of acute sofi-tis-sue injury: A systematic review of randomized controlled trials, American Journal of Sports Medicine. 2004; 32:25 1-61 . 

French SH, et al, Superficial heat or cold for low back pain, Cochrane Database Systematic 
Reviews. 2006; Jan 25(100):CD004750. 

Hochschuler SH, Allh...ice massage therapy for back pain relief, Spine-Health,com, accessed 
January 27, 2006;www.spine-health com/topics/conserv/ice/ice02.html.

The BackLetter 21(2): 17, 2006. 

加茂整形外科医院