減量は腰痛の有効な治療法なのか?

Is Weight Loss an Effective Treatment for Back Pain?


本層は2部構成の記事の第2部である。

症候性の膝変形性関節症(symptomatic osteoarthritis;OA)の患者は、体重を数ポンド減らすことによって疼痛を軽減し身体機能を改善できる。症状のない体重の重い人々の場合は、体重を落とすことによって疼痛性の膝のOAを予防できる。

生体力学研究から、体重が1ポンド減ることによって、1歩踏み出す度に膝にかかる負荷はその4倍減少することが示唆されている。そしてわずかな体重減少でも、過剰な負荷のかかった膝関節に劇的な効果の累積を及ぼし得る。

では脊椎にも同じパターンがあてはまるはずだろうか?いや、そう簡単にはいかない。

The BackLetter Vo1.21No.1(本誌p.1〜P.4)に掲載された本稿の第1部で述べたように、既存の科学的エビデンスは、体重増加と脊椎の問題との関連は漠然としたものであることを示唆する。体重超過が腰痛または特異的な脊椎異常の主要な原因であるという疫学研究に基づく決定的エビデンスは存在しない。生体力学研究では、体重増加によって脊椎に病的ストレスがかかるという説得力のあるエビデンスは得られていない。

そして現代のエビデンスに基づく基準の最も基本になるもの(すなわち臨床比較研究)からは、減量によって腰痛が軽減され、または将来の脊椎疾患が予防されるというエビデンスが存在するようには思われない。

実際に、減量した患者における症状の軽減および機能の改善を実証する症例集積研究が存在する。減量が一部の腰痛の有効な治療であると立証されることはまだ可能性の領域にある。しかし、これらの症例集積研究は確かに印象が弱く、広く推奨される治療の裏づけとなるしっかりしたエビデンスではない。

体重の重いまたは肥満した患者に、減量が腰痛の緩和に役立つと説明することに害はないと主張する人もいるだろう。何と言っても、減量は体重超過の人々にとって広範囲の治療効果がある。そして常識から考えても、負荷のかかっていないよく働く脊椎の関節が痛むことはないだろう。

しかし、ないかもしれないのに腰痛に特異的な治療効果があると患者に説明することは決して賢明ではない。患者は、腰痛を軽減するためには減量すべきだと聞いた途端、根拠のないことを一足飛びに信じてしまう可能性がある。腰痛は減量しなければ治らないだろうと患者は判断するかもしれない。そして減量しなければ、将来脊椎変性と疼痛の悪循環に直面するだろうとも判断するかもしれない。

長期的な減量を達成しようとする試みはほとんどが失敗に終わるため、これらの認識が回復を妨げるやっかいな障壁になる可能性がある。

医師は肥満した慢性腰痛患者に、減量は心血管系危険因子の削減、降圧、糖尿病の回避、膝のOAの予防、および生活の質(QOL)の改善に役立つだろうと説明した方がよいのかもしれない。医師は患者に、肥満は腰痛に対処することを一層難しくすることのある一般的な併存所見だと説明することができる。そして減量は、治療のための運動、通常の活動および生産的な労働
を再開する手助けとなるだろうと説明することができる。

しかし、多分医師は、減量で腰痛が治ると示唆するのは科学的エビデンスでそれが真実だと実証されるまで思いとどまるべきであろう。

当惑するほど貧弱なエビデンス

腰痛治療としての減量に関するエビデン
スは、当惑するほど貧弱である。50年以上
もの間、研究者と医師は、肥満は腰痛の危
険因子であり減量は治療になる可能性があ
ると提唱してきた。

しかし、本稿のために行った複数の文献
調査で、腰痛に対する減量の効果に関する
臨床比較研究は同定されなかった(編集者
注1そのような研究をご存知の読者は、参
考文献を送っていただきたい)。

現在までに発表された少数の症例報告お
よび症例集積研究は解釈が難しい。その中
に主訴としての腰痛に対する減量の影響を
検討したものはない。それらはすべて他の
疾患および症状の治療に関する論文であ
り、腰痛の軽減は減量療法の結果として偶
然認められたものであった。

これらの研究の大部分は、腰痛治療には
少ししか関係しないことを考えると、詳細
に分析する価値はない。これらの研究はせ
いぜい、将来の臨床研究のための仮説を提
供するだけである。

肥満手術から得られたエビデンス

腰痛に対する減量の効果に関するエビデ
ンスの多くは、肥満の外科治療の研究で得
られたものである。20年もの間、胃形成術
(ステープルまたはバンドを用いて胃の容積
を縮小する手術)に関する症例集積研究に
おいて、手術後数カ月から数年で腰痛およ
び他の筋骨格系の不快感が軽減したことが
報告されてきた。

例えば最近のギリシアの研究は、減量に
よって腰痛に関連する機能的な活動障害が
軽減すると結論づけた(Melissas et al.,2005
を参照)。

その研究において、UniversityofCreteの
John Melissas博士らは、29例の病的肥満の
男女(平均年齢37.5歳)の腰痛および機能
に対する肥満手術(垂直バンド胃縮小術:vertical banded stomach reduction)の影響を
検討した。被験者は体重が非常に重く、平
均体重は291.5ポンド(132.2kg)であり、
平均BMIは45を超えていた。

すべての被験者が、手術の前は厄介な腰
痛および機能障害を訴えていた。Melissas
博士らは、被験者には日常生活の主要活動
(腰掛ける、移動する、立つ、働く)に支
障を来たすほど重症の腰痛があったと報告
した。著者らによると“この総体的症状は、
睡眠障害、性行為の制限、そして身体面お
よび情緒面の問題にもつながった"という。

それでも慢性腰痛の臨床研究の基準にあ
てはめると、被験者の疾痛および機能障害
は比較的軽度であった。例えば、手術直前
の平均ビジュアルアナログ疫痛スコアは、
10点中わずかに一.59点であった(lO点が最
大の疫痛を表す)。べ]スラインにおける平
均Oswestry活動障害インデックス(ODI)
スコアは、100点中21.22点であった(100
点が完全な活動障害を意味する)。

著しい体重減少

手術は著しい体重減少をもたらした。2
年後の経過観察時に被験者は平均203ポン
ド(92.3kg)までの体重減少を報告した。
BMIは手術前の平均47.2から、長期経過観
察時には32.9に下降した。

疾痛および活動障害のスコアは急降下し
た。平均疾痛スコアは手術前の10点中1.59
点から、2年後の経過観察時にはO.32点に
下降した。“最も悪い状態の''嬉痛は手術
前の10点中平均5.5点から、経過観察時に
は2.14点に下降した。

Roland-Morris活動障害問診表の平均ス
コアは、べ一スラインの平均24点申7.89点
(24点は最大の活動障害を表す)から、2年
後には平均1.89点に下降した。平均ODIス
コアは手術の2年後にはlOO点中わずか5.61
点にまで下降した。

言うまでもなく、外科的治療に関する非
対照比較研究は慎重に解釈しなければなら
ない。手術には特異的効果と非特異的効果
の両方がある。腰痛および活動障害の改善
は、脊椎にかかる負荷の除去および手術後
の身体活動の増大と関連する可能性があっ
た。あるいは相当な杜会的不名誉とみなさ
れる病態である病的肥満の改善による心理
学的苦痛の除去から生じた可能性があっ
た。

最も重要なことは、これらの結果および
同様の研究の結果を、より高度な腰痛のあ
る患者および腰痛を主訴とする患者にどの
程度あてはめることが可能なのかはっきり
しない点である。ODIスコアが100点中60
点の病的肥満の患者は、減量手術によって
同程度の軽減を期待できるのだろうか?そ
れらの答えは更なる研究によってのみ得ら
れるであろう。

より多くの症例集積研究

この文献をより詳しく調べたいBackLetterの読者は、肥満手術(McGoey et al.,1990を参照)、乳房縮小術(Chadbourne et al,2001を参照)、線維筋痛症に対する非外
科的減量治療(Shapiro et al.,2005を参照)、
および病的肥満に対する非外科的減量治療
(Larsson et al、,2004を参照)に関する、他
の症例集積研究およびレビューを参照されたい。同じように、心血管系疾患のための
減量に関するいくつかの対照比較研究か
ら、身体的疾痛に関する概略の経過観察情
報を得ることができる。

どの程度の減量で効果が現れるのか?

治療法としての減量に関する質の高い研
究が不足していることは、脊椎治療に携わ
る医師が、減量が雷者にどのような効果を
もたらすか予測できないことを意味する。
もし過剰な体重を落とすことによって腰痛
が軽減するなら、病的肥満患者の症状の軽
減にはどのくらいの減量が必要なのだろう
か?lOポンド(4.5kg)か、50ポンド
(22.5kg)か、それとも200ポンド(90kg)
だろうか?

同じ問題は軽度肥満患者にもあてはま
る。もし過剰な体重を数ポンド落とすこと
によって膝に効果が現れるなら、脊椎にも
同じ効果があるのだろうか?それは誰にも
わからない。医師および患者がはっきりし
た減量目標をもつことができれば有用であ
ろう。

顕著な腰痛がある状態での減量療法の成
功率もまた間題である。Melissas博士らは、
肥満手術は病的肥満患者の減量方法として
唯一証明済みであると示唆している。研究
で主張されたように、“病的肥満の保存療
法の失敗率は最高98%である"。

中等度の肥満患者の減量の成功率はおそ
らくこれよりも高いだろう。しかし腰痛患
者におけるこの治療の正確な成功率は不明
である。おそらくそれほど良くないだろう。

予防はどうなのか?

腰痛の予防法としての減量に関するエビ
デンスの量も、同様に貧弱である。予防法
としての減量に関する無作為比較臨床研究
またはその他の比較臨床研究はありそうに
ない。結果として、最近発表された対照比
較研究の体系的レビューにおいて減量が可
能性のある予防手段として同定されたもの
はない。

欧州における腰痛予防に関するエビデン
スの最近のレビューは、この分野について
ある洞察を行った。欧州委員会が後援した
腰痛予防に関する欧州ガイドラインの基盤
は、現在までの予防に関するエビデンスの
最も包括的なレビューの1つである。集学
的委員会が、“最良のエビデンスのレビュ
ー"を実施し、疫学研究、臨床研究、およ
び体系的レビューで得られた大量のデータ
を調査した(Burton et al.,2004を参照)。

ガイドライン作成委貝会は、一般集団、
労働者、または小児における、腰痛の一次
予防またはその結末(再発、慢性化、活動
障害その他)の予防としての減量を支持ま
たは否定する、説得力のあるエビデンスを
見出すことができなかった。“質の高いエビ
デンスは見出されなかった"と、委員長を
務めた英国のUniversity of HuddersfieldのKim Burton博士は最近述べた。

報告書は、肥満に伴う腰痛および関連す
る活動障害の発現の潜在的な危険因子の幅
広いリストが疫学研究によって同定されて
いる、と述べた。しかし委員会は、これら
の危険因子の修正に予防効果があるという
直接的エビデンスはそれほど多くないと述
べた。

ガイドラインは、運動が腰痛予防の方法
として期待できると結論付けた。肥満によ
って運動能力が損なわれる場合があること
を考えると、減量は健康的な身体活動を促
進することを通して腰痛予防効果をもたら
す可能性がある。しかしこれについては、
直接的なエビデンスが必要である(The
BackLetter Vol.21,No.2,p21,本誌p.7を参
照)。

滅量が腰療を予防するという直接的エビデンスはない

参考文献:

Burton AK et al. on behalf of COST B 1 3 Working Group 3 European Guidelines for Prevention in Low Back Pain sponsored by the European Commission, Research Directorate-General, 
department of Policy, Co-ordination and Strategy; www. backpaineurope org; 2004. 

Chadboume EB et al., Clinical out-comes in reduction mammaplasty: A systematic review and 
meta-analysis of published studies, Mayo Clinic Proceedings, 2001 ; 76:503-l0. 

Larsson UE et al., Influence ofweight loss on pain, perceived disability and observed functional 
limitations in obese women, International Journal of Obesity Research. 2004; 28: 269-77.

 McGoey BV et al , Effect of weight loss on musculoskeletal pain in the morbidly obese, Journal 
of Bone and Joint Surgery, 1990; 72-B:322-3. 

Melissas J et al., The effect of surgical weight reduction on functional status in morbidly obese 
patients with low back pain, Obesty Surgery. 2005; 15:378-81 

Shapiro JR et al., A pilot study of the effects of behavioral weight loss treatment on fibromyalgia treatment, Journal of Psychosomatic Research, 2005; 59:275-82. 

The BackLetter 21(2): 13, 20, 22, 2006. 

加茂整形外科医院