固定術の実施率が上昇

Fusion Rate Climbs


Exponcent,Inc.社のKevin L.Ong博士らの研究によると、米国で実施された脊椎固定術の初回手術の件数は2004年まで増加を続けた。そして固定術の再手術の件数もそれに比例して増加している。この研究はシカゴで開催された2006年米国整形外科学会年次総会で発表された(Ong et al.,2006を参照)。

一般的適応に対する有効性を示すより良いエビデンスが得られるまで脊椎固定術の使用を制限するようにとの要請によって、外科医または患者がこの手術に寄せる過度の期待が冷めた様子はない。いくつかの保険会社および第三者費用支払機関が脊椎固定術の爆発的増加に制限を設けると表明しているが、それらの機関は、増加し続ける腰椎およぴ頸椎の固定術の保険責務を負っている。

全国医療機関退院調査に基づくデータ解析によると、“2004年には、全ての椎間での固定術の初回手術が297,400件および再手術が16,400件実施されており、これは1990年と比較して各々145%および144%の増加である”(編集者注:固定術の“初回手術”とは、特定の椎間に初めて行われる脊椎固定術を指す)。

固定術の初回手術および再手術の実施率(全ての椎間での人口10万人あたりの手術件数)も上昇を続けており、1990〜2004年までに2倍以上に上昇した。固定術の初回手術の実施率は人口10万人あたり48.2件からl04.3件に上昇した。固定術の再手術の実施率は人口10万人あたり2.7件から5.7件に上昇した。

脊椎固定術の初回手術の実施率が最も急上昇しているのは高齢者

腰椎固定術の不釣合いな増加

研究者らは、腰椎固定術の実施件数が急増したことを見出した。件数は1990年には50,500件であったが、2004年には146,200件となり、190%の増加であった。

多くの人が最も一般的に実施される固定術は腰椎固定術だと考えているが、それは事実ではない。本研究で15年間に行われた腰椎固定術の初回手術は、全ての固定術の初回手術の43%にすぎず、頸椎固定術の急増を反映していた。

高齢者における固定術の急増

他の最近の研究と同様、Ong博士らの研究でも脊椎固定術の初回手術の実施率が最も急上昇しているのは高齢者であることが明らかになった。固定術の実施件数は65〜69歳では1O年間で1O万人あたり116.6件、70〜74歳では10年間で10万人あたり78.6件であった。これに対して、全ての年齢の成人における固定術の初回手術の実施率は、10年間で10万人あたり48.2件であった。

最近行われた他の研究でも、高齢者における固定術実施率の上昇が実証された。2005年の論文でRichard A.Deyo博士らは、変性性疾患に対する腰椎固定術の実施率が最も急上昇したのは1980年代、1990年代共に、60歳以上の人々であったことを指摘した。Deyo博土らによると、“1988〜2001年の、この高齢者群における腰椎固定術の実施率が230%の増加を示したのに対して、40〜59歳の成人では180%の増加、20〜39歳の成人では120%の増加であった"(Deyo et al.,2005を参照)(編集者法:Ong博士らの研究とDeyo博士らの研究では、研究対象となった固定
術のサブグループ[例えば、全ての適応に対する全ての椎間の固定術か、それとも変性性疾患に対する腰椎固定術か]、および被験者の年齢群に差があった。このことが、2つの研究において引用された固定術実施率に差があることの一因と考えられる)。

女性は男惟よりも固定術で失敗することが多い

Ong博士らによる研究では、意外な知見が明らかになった。女性では男性より固定術の再手術が必要になる可能性が高いようである。固定術の初回手術の実施率は女性よりも男性の方がわずかに高く、その差は6%であった。全ての椎間での固定術の再手術実施率は女性の方が高く、その差は24%であった。

なぜ女性の方が再手術の実施率が高いのか、その理由は明らかではない。Ong博士は“もしかすると骨の質の問題なのかもしれない。これは推論であるが、疼痛耐性または疼痛知覚の問題である可能性もある。我々は、再手術の大部分が高齢女性に行われているのかどうかを調べるため、データをさらに詳細に分析している。そうであれば骨の質の問題である可能性が高いだろう”と、最近Eーメールで述べている。

再予術の平均割合

“再手術の平均割合(mean revision burden)”という概念が最近普及し始めている。この統計値は、再手術の実施件数を全ての固定術の実施件数で割ったものである。Ong博士らの研究によると、1990〜2004年の全ての椎間での脊椎固定術に占める、全ての再手術の割合は5.5%であった。これに対して、人工膝関節全置換術(1990〜2002年)における再手術の割合は8.2%であり、同じ期間の人工股関節全置換術における再手術の割合は17.5%である。

腰椎固定術に占める再手術の割合は、全ての固定術における再手術の割合よりも高いようであった。しかし、腰椎固定術の再手術に関する特定のICD-9コードが2001年後半までは設定されていなかったため、Ong博士らは、2002〜2004年分の腰椎固定術における再手術の割合しか計算できなかった。その期間の腰椎固定術に占める再手術の割合は合計7.6%であり、これは人工膝関節全置換術に非常に近い。

再手術実施率の計算は微妙

全国的なデータベースが予測のつかない変化をしたことを考えると、固定術の再手術の件数、実施率、普及率の試算は微妙な問題である。この研究の全ての固定術に占める再手術の割合を正確に示せるかどうかは、固定術の再手術の時期に多少とも依存するだろう。

脊椎固定術の再手術における最も標準的な実施時期は、初回手術の1年後、2年後、1O年後、それとも15年後なのか、という点は明らかではない。再手術の最終的な実施時期の傾向によって、全体的な再手術率は上昇または下降する可能性がある。

地域によって再手術率にどのような差があるかという点も明らかではない。米国における固定術の初回手術の実施率は地域によって、さらには都市によっても、大きく変化する。固定術の再手術の実施率も地域によって著しく変化するのかどうか調べることは興味深いだろう。

全国登録はどうなのか?

Ong博士らがこの研究や他の研究で検討している問題の1つは、脊椎手術のアウトカムの全国登録の潜在的価値である。米国における脊椎治療に関する技術および機器(device)の市販後調査は、始まったばかりである。全国登録によって、特定の処置〔例えば術式、機器(device)、移植骨など〕、の利害得失に関して、新たな洞察が得られる可能性があることは確かである。

Ong博士らによると“全国登録は、これらの新しい技術に関する臨床研究データを登録し利用可能なべースラインデータと比較することによって、新しい技術の開発および評価に役立つだろう”。

しかし、米国におけるそのような登録の設立には難しい障害がある。“管理費用、責任問題、保険の問題、およびデータ解釈の[潜在的な1誤りのため、それは複雑な問題である”とOng博士は意見を述べ、さらに、“登録が存在すれば、将来の手術および医療設備に関する方針の作成および計画立案に役立つだろう"と付け加えた。

よい例として、博士らは、Swedish National Hip Arthroplasty Registryが同国における股関節置換術の再手術の顕著な減少につながったと述べている。

参考文献:

Deyo RA et al., United States trends in lumbar fusion surgery for degenerative conditions, Spine, 2005; 30: 1441-5. 

Ong KL et al., Age and gender prevalence of revision spine fusion rates in the United States from 1 990 to 2004, presented at the annual meeting of the American Academy of Orthopaedic Surgeons, Chicago, 2006; as yet unpublished. 

The BackLetter 21(5): 49, 58, 59, 2006.

加茂整形外科医院