腰痛にうまく対処できない患者にみられる異常な脳活動

Abnormal Brain Activity in Patients Who Cope Poorly With Back Pain 


最近の研究では、異常な疼痛行動を示す患者には腰痛およびその他の疼痛刺激に応答し
て脳活動が特徴的なパターンをとる可能性が示唆されている。

Walton Centre for Neurology and Neurosurgery(英国、リバプール)のGorddon Findlay博士らに
よると、「この研究は、慢性腰痛と疾患行動を有する患者は、皮質における疼痛処理に異常がみられる可能性があることを示している」。Findlay博士は2006年の国際腰椎研究学会(ISSLS)(ノルウェー、ベルゲン)でこの研究の結果を発表した(Findlay et al.,2006を参照)。

心理療法および/または薬物療法が疼痛刺激に対する脳機能の応答の正常化に役立つか否か、またその結果、より大きな疼痛緩和と機能改善が得られる可静性の有無については、まだ明らかになっていない。

慢性腰痛を有する30例に関する研究

Findlay博士らは、6ヵ月以上持続する慢性腰痛を有する被験者30例を対象とする研究を行った。坐骨神経痛患者および/または脊椎手術の既往を有する患者は除外した。

同博士らは、異常な疼痛行動のレベルに基づいて患者を2群に分けた。Waddell徴侯を用いて、被験者を“copers”(低レベルの異常な疼痛行動がみられWaddell徴候スコアがOまたは1)または“non-copers”(異常な疼痛行動の亢進がみられWaddell徴侯スコアが4または5)に分類した。

次に、Findlay博士らは、機能的磁気共鳴画像(fMRI)と特別設計のソフトウェアを使用して、被験者が3種類の疼痛刺激または潜在的疼痛刺激を受けている間の皮質の活動における群間差を検討した:

  1. 実験的疼痛:景初の有害性試験では、手の温熱刺激により実験的に疼痛を誘発させた。

  2. 疼痛予測:2番目の刺激として、被験者に疼痛が出現するまで下肢伸展挙上テストを行った(下肢伸展挙上テストで疼痛が発生した被験者を意図的に選択した)。被験者には疼痛
    検査前に3種類の視覚的手がかりのうちの1つを提示した:“緑”は疼痛刺激が確実に与え
    られることを示し、“赤”は疼痛刺激が確実に与えられないことを意味し、“黄”は疼痛刺激
    が与えられる場合と与えられない場合があることを示した。

  3. 臨床的腰痛:3番目の疼痛刺激として、同博士らは、被験者が報告するビジュアルアナログ疼痛尺度のスコアが1O点中7点以上(10は最大疼痛を表す)になるまで、被験者の腰椎
    に振動触覚刺激を与えることによって、通常の臨床的腰痛に類似した疼痛を誘発させた。

脳活動における特徴的な反応

この研究の被験者は、3種類の疼痛状態、または潜在的な疼痛状態に対する脳の活動におい
て、特徴的な反応を示した。

“Non-copersは、温熱刺激による実験的疼痛に曝露されると、不快刺激の活性化に応じて脳活動の亢進を示した”と、Findlay博士はISSLSでの発表の際に述べた。Non-copersでは、疼痛刺激に対する動機的・情動的反応に伴い、疼痛経路における脳の活動の亢進がみられた。

これら2群は疼痛予測に対して異なる反応を示した。Findlay博士によると、少なくとも2つの予測状態に関して、「全般的に、non-copersはcopersと比較して活動亢進を示した」。

Non-copersは、視覚的侵害受容刺激の処理に関与する領域、ならびにFindlay博士が“疾患アウトカムの否定的評価”と名づけた領域において、赤色の予測手がかり(疼痛刺激は確実に与えられないことを意味する)およぴ黄色の予測手がかり(疼痛刺激が与えられる場合と与えられない場合があることを示す)に対する皮質反応の亢進を示した。

興味深いことに、copersでは、緑色の予測手がかり(被験者に疼痛刺激が確実に与えられることを示す)に応答して、non-copersよりも大きな皮質活動が認められた。Findlay博士によれば、これは、正常レベルの疼痛行動を示す人々が疼痛行動の亢進を示す人々の使用しない対処経路を働かせていることを示唆するものと思われる。

臨床的腰痛のシミュレーションでは、copersは、疼痛認知プロセスおよび疼痛抑制に関与することが知られている脳領域の活動レベルがnon-copersよりも高かった。

まとめとして、Findlay博士らは次のように述べている。「これらの所見は、おそらく、[non-copers]にみられた異常な行動が認知抑制性疼痛経路の障害に起因することを示唆するものと思われる」。

異常な疼痛行動の亢進がみられる人々は、様々な形の臨床治療を通して腰痛とそれに付随する不安により効果的に対処する方法を学べるということが、臨床経験から示唆されている。次の段階として興味深いのは、疼痛行動の正常化が脳活動の明らかな変化につながるか、また、MRIスキャン上の脳活動のどのような変化が臨床的に重要と考えられるかを調べることである。

参考文献:

Findlay G et al., Abnormal cortical function in chronic low back pain and illness behavior: An fMRI study, presented at the annual meeting of the International Society for the Study of the Lumbar Spine, Bergen, Norway, 2006; as yet unpublished. 

The BackLetter 21(7): 75, 2006. 

加茂整形外科医院