新しい大規模研究によると、 腰痛は動務中の生産性の低下にはつながらない

Back Pain Doesn't Lead to Diminished Productivity at Work, According to a Large New Study


腰痛患者が“presenteeism”、すなわち健康 状態が悪いため生産性が低下した状態で働いているせいで、途方もない金額が無駄になっているのだろうか?その答えはどの研究を参考にするかによって、“Yes”になったり“No”になったりする。

 2003年に発表され広く報道された研究では、企業がpresenteeismによって金銭的な損害を被っていることが示唆された。Waiter E Stewart博士らによると、“米国の全労働人口において疼痛は極めて一般的であり活動障害の原因となっている。疼痛に関連する生産時間損失の大部分は、従業員の勤務中における能力低下という形で発生する”(Stewart et al. 2003を参照)。

自己評価に基づく生産性損失に関するこの研究において、関節炎または腰痛があると回答した従業員の生産時間損失は週5.2時間と推定された。この研究は、疼痛に関連する勤務中の能力の低下は、生産性損失の原因として疼痛に関連する欠勤よりも大きな割合を占めると結論づけた。

Stewart博士らによると、“他の研究と一致して、勤務中の能力の低下力'米国の労働人口における疼痛に関連する生産時間損失の主な発生源であった(すなわち生産時間損失の80%、および生産時間損失に関連するコストの76.6%を占めた)”。

しかし、presenteeismによる生産性損失の大きさの推定値は極めて多様である。オランダ の医療経済学者Wemer B.F.Brouwer博士は、最近アムステルダムで開催された第8回プライマリケアフォーラムでこの問題について論じた。オランダの職場に関する博士の研究では、欠動による生産'生損失は、presenteeismに関連する生産性損失の約4倍の大きさであることが明らかになった。博士の推定によると、欠勤による8時間の損失に対して、presenteeismによる損失は2時間である。

Brouwer博士は、presenteeismの関与の度合いは、会社によっても、仕事によっても、そして労働者によっても異なるように思われると述べた。Presenteeismの推定値は、使用した評価方法の種類(例えば生産性の自已評価か客観的評価か) によって左右される。そしてコストの推定値は、使用したコスト計算方法によって大きく異なる可能性がある。 

多数の因子力、個々の労働者の生産性に影響する。“どの段階で生産性が低下するか、 または欠勤するかは一おそらく様々な因子の組み合わせによって左右されるだろう。例えば、仕事の種類、疾患の種類、疾患によって影響を受ける特定の健康領域、欠勤[または生産性の低下]が他の労働者にも影響を及ぼすかどうか、欠勤または生産性の低下力1固々の従業員に金銭的な影響を及ぼすかどうかなどである”と、Brouwer博士らは、生産性および健康関連の生活の質(QoL)に関する最新の研究において言及した(Lamers et al.2005を参照)。 

米国の大規模研究で腰痛関連のpresenteeismのエビデンスは見出されず

米国の労働者に関する大規模デー夕べースの新規解析において、腰痛に関連するpresenteeismが多くの生産性損失の原因であるというエビデンスは見出されなかった。Suzanne Novak博士らは、小売業、サービス業、製造業、および金融業に従事する280,000名の従業員に関する健康および、生産性のデー夕を検討し、腰痛、頭痛、変形性関節症、および神経障害性疼痛を有する従業員における生産性損失の大部分は、欠勤によって生じたものであることを見出した。Presenteeismつまり勤務中の生産性損失は、労働力低下の重要な原因であるようには思われなかった(Novak et al,2006 を参照)。研究は米国疼痛学会の年次総会(テキサス州、サンアントニオ)で発表された。

新規研究において、Novak博士らは、大手の保険給付金管理会社であるHuman capital Management Servicesのデー夕べースに含まれる280,000名の従業員のデー夕をレトロスペクテイブに解析した。2002年または2004年に腰痛、変形性関節症、神経障害性疼痛、頭痛、および癌のために治療を受けた従業員を、ICD-9コードを用いて同定した。次に、それらの生産性を労働生産量の客観的評価単位で表したものを、疼痛疾患のために医療機関を受診していない206,277名の対照被験者と比較した。

Novak博士らによると、“変形性関節症、腰痛、頭痛、および癌を有する従業員は対照群の従業員と比較して、年間生産性が有意に低いことが明らかになった”。

しかし、腰痛、頭痛、変形性関節症、および神経障害性疼痛を有する従業員の勤務中の1時間あたりの生産性は、対照被験者と有意差がなかった。統計学的に有意な勤務中の生産性損失が認められたのは、癌性疼痛の患者のみであった。

腰痛およびその他の非癌性疼痛疾患は、欠勤を通して大幅な生産性損失を引き起こしているように思われた。腰痛のある従業員の病欠日数が年平均9.4日であったのに対して、変形性関節症の群は10.23日、神経障害性疼痛の群は8.87日、頭痛の群は8.29日、および癌の群は7.53日であり、一方、対照群は平均4.6日であった。疼痛群の被験者と対照群の被験者との欠勤に関する差は統計学的に有意であった。

新規研究の長所は、生産性の損失を客観的に算出したことである。これは、従業員の自己申告よりも正確に生産性損失を測定する方法であると、研究を行ったJeSTARx GroupのRichard Brook博士は指摘する。

Novak博士らは、疼痛性疾患によって生じた欠勤の増加分を評価するため、“給与の機会費用”(対照被験者と比較した生産性低下率に従業員の年間給与を乗じたもの)、給付金、および間接費を計算した。総合的に、症状を有する従業員1人あたりの1年間の生産性損失が、腰痛の場合は8,469ドルと推定されたのに対して、変形性関節症は11,460ドル、神経障害性疼痛は5,982ドル、頭痛は9,561ドル、および癌性疼痛は13,622ドルと推定された。

研究で使用した回帰モデルは、年論、在職資格、性別、配偶者の有無、人種、給与、免除状況(時給)、 フルタイム/パートタイムの別、および地理的地域を含む、様々な人口統計学的因子について調整することができた。

この研究におけるpresenteeismの推定値はなぜそれほど小さいのだろうか?その理由は不明である。この研究だけが他の研究と違っているのかもしれない。 しかしまた、そうではないかもしれない。この問題を解明できるのは、更なる研究のみであろう。

この研究で使用した方法では、問題になっている健康状態に関連した生産性損失の完全に正確な評価を行うことはできなかった可能性がある。疼痛のある従業員をICD-9コードに基づいて同定したことによって、著者らは、疼痛があったが治療を受けなかった従業員の生産性損失を考慮に入れることができなかった。ある推計によると、腰痛のある人々の50%以上が、医師の診察を受けていない。

したがって現実には、この研究の対照群の一部にも、研究期間中に腰痛およびおそらく他の疼痛疾患があった可能性があり、このことが、これら群間の比較に影響を及ぼした可能性がある。

最近のレビューでは、一般的な健康状態におけるp,esenteeismに関連したコスト推定値の尋常でない変動性が見出された。Ron Z.Goetzel博士らによると、“10種類の疾患に関してpresenteeismは全コストの18〜60%を占めた”。 Ptesenteeismによる生産性損失を評価する、より良い手段がみつかるまで、一つの研究の結果を解釈する際には慎重になるよう、博士らは忠告している。それはおそらく良い忠告だろう (Goetzel et al.,2004を参照)。

“Presenteeism”に関する工ビデンスには矛盾があり混乱を招く

参考文献

Goetze1 RZ et al., Health, absence, disability,and presenteeism cost estimates of certain physical and mental health conditions affecting U.S. employers, JOEM, 2004; 46:398.

Lamers LM et al., The relationship betweenproductivity and health-related quality oflife: An empirical exploration in persons with low back pain, Quality of Life Research, 2005; 14:805-13.

Novak S et at., Work productivity loss among those with painful conditions, presented at the annual meeting of the American Pain Society, San Antonio, TX, 2006; as yet unpublished.

Stewart WF et at., Lost productive time and cost due to common pain conditions in the US workforce, lAMA, 2003; 290:2443-54. 

The BackLetter 21(7): 78-79, 2006. 


http://www2.alc.co.jp/ejr/index.php?word_in=presenteeism&word_in2=%82%A9%82%AB%82%AD%82%AF%82%B1&word_in3=PVawEWi72JXCKoa0Je

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