ProDiscの米国市場への参入ー“可動性革命”への大手保険支払い機関の抵抗は続く ?

ProDisc Enters the U.S. Marketplace-But Will Major Payers Continue to Resist the “Motion Revolution” ? 


ProDisc-L人工椎間板(Synthes Spine社、West Chester, PA)は最近FDAの承認を受け、“おそらく”利益の上がる米国の外科市場に向けて、慢性腰痛における可動性向上のための治療選択肢として、Charité人工椎間板(Johnson & Johnson社Raynham,MA)の仲間に加わった。

“おそらく”という言葉をここで強調する必要があるのは、椎間板変性における椎間板置換術治療に対して、疑い深い保険支払い機関が、既存の科学的エビデンスに基づいて、保険金の引き受けを渋っている現在、ProDisc人工椎間板によってCharité人工椎間板よりも良い結果が得られるという確証は全くないためである。

少なくとも一部の大手保険支払い機関(保険会社からメデイケアまで含まれる)は、人工椎間板がすでに効果の立証されている権間板変性の治療法よりも優れている、 ヒトの脊椎の中で何十年にもわたり安全で耐久性がある、および他の治療法と比較して費用対効果に優れていることを示すエビデンスを期待している。

人工椎間板の開発者はこれらの基準を満たすことができるだろうか? それは無理な注文のように思われる。

一部の保険支払機関はエビデンス基準の引き上げに伴い、さらに一歩進んだ要求をする可能性がある。スペイン政府の支援を受けて行われた新規の体系的レビューでは、これまでよりずっと質の高い研究方法を用いた大規模無作為比較研究が必要であるとしている。 さらに、このレビューは、”椎間板に起因する”疼痛患者を確実に同定することが実際に可能だという明確なエビデンスを要求している。

そしてこのレビューでは、バイアスを防ぐため、椎間板置換術に関する今後の研究は企業の影響を全く受けない研究者によってデザインおよび実施されるべきであるとの言葉で締め括られている。

共著者のFrancisco Kovacs博士は、北米脊椎学会の年次総会でこのレビューを発表する際に「エビデンスがない限り、人工椎間板は賛否両論のままとなる可能性が高い」と述べている (レビューの詳細についてはUrrutia et al.,2006および2006 およびThe Backletter Vol.21,No.11,2006, p.126を参照)。

ProDiscはどの程度太刀打ちできるか?

北米脊推学会の最近の年次総会で、st.Johns HospitalのSpine Institute(力リフォルニア州サンタモニカ)のRick Delamarter博士は、承認につながったFDA管轄の研究結果を発表する際に、ProDiscを熱心に推奨した。

「ProDisc人工椎間板は固定術より優れていることが認められた、初めての可動性温存療法である」とDelamarter博士は述べた。同博士は、FDAが治験依頼者となった研究でProDiscが安全かつ有効であり、腰椎の可動性が維持されることが示されていると述べた。

Delamarter博士は、ProDiscが固定術を避けようとする大きな流れの一部分になるものと予測している。博士は「変形、重症の椎間関節炎、および脊椎の不安定性などの疾患を治療するという固定術の役割は、今後も変わらないであろう。 しかし全体の趨勢は固定術以外の技術へと移りつつある」 と付け加えた(Delamarter et al.,2006を参照)。

保険支払い機関の態度は?

しかしながら、米国でもどこでも、椎間板置換術への大幅な移行を実現するには大手保険支払い機関による保険の引き受けが必要となる。

BackLetterの以前の記事でも指摘したように、米国の脊椎手術市場に浸透するには、現在、 (1)FDAから医療機器または手技の販売または実施を許可する規制承認を得ること、(2)大手保険支払い機関(保険会社から政府 当局まで)が新しい技術の保険引き受けに同意すること、の2つの大きな障害がある。

Charité人工椎間板を開発したJohnson& Johnson/DePuy Spine社は、FDAの厳しい審査
を容易に通過したが、椎間板置換術に関する科学的エビデンス間に差が認められたため、多くの保険支払い機関からの予想外の抵抗に遭遇した (例としてBlue Cross Blue Shield Technology Evaluation Center,2005;およびCenters for Medicare & Medicaid Services, Covemge and Analysis Groupを参照)。

「Synthles Spine社とProDiscも、保険支払い機関との間で同じような問題に遭遇すること
になると思う、 絶対にとは言えないが」 と、ミネアポリスにあるCcrbinand Company社の脊椎技術コンサルタントのTerry Corbin博士は述べている。

Corbin博士は「ProDiscが最低限どのようなエビデンスを示さなければならないのか、
Synthes社がどのような種類のエビデンスを提出できるのか、完全には明らかになっていない」 と述べ、 「一般的にエビデンス基準が上昇しているようなので、Synthes社は動いている的を射抜かなければならないと言える」 と付け加えた。

被験者212例における無作為比較研究

FDA管車書のProDiscを評価する無作為比較研究は、17の外科施設で治療を受けた男女
212例 (年齢18-60歳;平均年齢約4」0歳) を対象としている。被験者は慢性の1椎間の変性性椎間板疾患、慢性腰痛、および長期にわたる活動障害を有していた(参加/除外基準の詳細はFDA,2006を参照)。

全ての被験者は日常生活動作の高度の障害を有していることとした。べースラインのOswestry活動障害度(ODI)スコアは100点中40点以上(最大の活動障害を100点とする) であるものとした。被,験者の研究参加資格として、不特定の保存療法を6ヵ月以上行っても無効であることとした。

被験者を2種類の治療法に2対1の割合で無作為に割り当てた。被験者162例がProDisc人工椎間板全置換術を受け、80例が全周脊椎固定術(大腿輪の移植を行う椎体前方固定術とpedicle screwおよび腸骨移植を用いた後外側固定術を実施) を受けた。

手術の成功に関する2種類の定義

この治験医療機器の適用免除(IDE)研究では、手術の成功に関して2種類の定義が用いられた。Synthes社は成功の定義に以下の基準を提案している。

  • 24ヵ月後の時点でぺースラインと比較してODIが15%以上改善
  • ProDiscンプラントの除去もしくは修正、 癒合部位の修正、または固定インプラント の不具合の是正のための再手術なし
  • 2年後の時点でべースラインと比較して簡略型SF-36スコアが改善
  • 神経学的状態の維持または改善
  • 放射線学的問題なし(両治療に関する基準の一覧はFDA,2006を参照)
  • 非劣性の限界値12.5%

しかしFDAは、べースラインから24カ月後までの0DIスコアの15点以上の改善、わずかに異なる可動域の基準、および非劣性の限界値10%などを含む、より厳しい成功基準を課した。

興味深いことに、推間板置換術または固定術を希望する患者の主訴は一般的に腰痛であるのに、いずれの成功の定義にも疼痛は主要アウトカム評価尺度として含まれていなかった。

成功に関する2種類の定義の相違

この研究では2種類の基準に従って結果を報告している。これに対してFDAは、ProDisc 
に関する最終決定を独自のアウトカムの求め方に基づいて行っている。 

簡潔に述べると結果は次の通りである:FDAの定義によると、2年後の結果が成功とみなされた被験者の割合が全周固定術群で40.8%に対し、ProDiscを使用した被験者では53.4%にとどまった。

ProDiscを開発したSynthes社によって提唱されたより緩やかな基準によると、ProDisc群の63.5%および固定術群の45.1%が成功アウトカムを示した。

Delamarter博士とFDAでは、疼痛および活動障害のアウトカムの特性が異なっていた。 Delamarter博士は、24カ月後の疼痛スコアに関してProDisc群が固定術群よりも統計学的に有意な利点が認められたとしている。博士のスライド発表によると、ProDisc群の被験者はビジュアルアナログスケール(VAS)疼痛スコアが51%低下したのに対して、固定術群は43%の低下であり、 この差は統計学的に有意であった。

同博士はまた、proDisc群には活動障害に関して統計学的に有意な利点が認められたと述べている。ODIスコアの低下が固定術群では38%低下であったのに対して、ProDisc群の被験者では46%であった。

FDAは、比較の結果、疼痛スコアと活動障害スコアにはProDiscに統計学的に有意な利点が認められなかったと発表した。“無作為割付けしたProDisc群と対照群の24力月後の平均0DIスコアに統計学的有意差は認められなかった”という。

FDAは、“無作為割付けしたProDisc-L群と固定術群の間のVAS疼痛スコアの差はいずれの時点においても統計学的に有意ではなかった”としている。これらの不一致が生じた理由は明らかではなく、疼痛および活動障害データの予測値が異なることが一因となった可能性がある。

非劣性研究と優越性研究

FDAの研究は非劣性研究としてデザインされた。すなわち、ProDiscが対照治療と大体同等である (またはかろうじて劣っていない) か否かを評価する検出能をもつ研究であった。

したがって、この研究によってProDiscが周固定術より優れていることが明らかになったというDelamarler博士の主張を聞いて驚く人が出たかもしれない。Synthes社とこの研究の著者らは副次的解析を実施し、ProDiscが単に劣っていないだけではなく2年以上の経過観察で実際に全周固定術より優れていたことを示した。

FDAもこの点には同意を示した。FDAの安全性および有効性に関する概要によると、“この研究は差を示す目的でデザインされたものではなかったが、ProDisc-L群と対照群の全体的な成功率にはFisherの直接確率片側検定により統計学的有意差が認められた”。

入院期間の短縮と失血量の減少

両研究群における合併症および有害事象のレベルは同程度であった。ProDisc群162例患者のうち3.7%が2年間の追跡調査期間中に再手術を受けたのに対して、固定術群患者では5%であった。

ProDisc群は平均入院日数(4.4日vs.3.5日)、平均手術時間(ProDisc群121分vs.全周固定術群229分)、および平均推定失血量(465cc vs.204cc)に関して優れていた。前方ProDisc 置換術を前方および後方の外科的展開および腸骨稜からの移植骨の採取を要する手術と比較したことから、 これらの差は予想外ではない。

ProDiscを用いた椎間板置換術は、固定術と比較して可動性を維持する効果があった。 Delamarter博士によると、94%の患者は24カ月後の経過観察時に指標となる椎間レベルの可動性が正常であった。

患者の満足度に関してProDisc群に統計学的に有意な利点が認められ、満足度のビジュアルアナログスケールで77点対67点の差があった(100点が最大の満足度を表す)。

もう一度治療を受けるとしたらまた同じ治療を受けたいかどうかを被験者に質問したところ、ProDisc群の患者の81%が“受けたい”と回答したのに対して、固定術群の被.験者での割合は69%であった。

椎間板置換術は不明確な病態に対して並以上の治療法か?

ProDiscとその他の人工椎間板にとって、椎間板置換術は不明確な病態に対する並程度の治療法である、という認識を脱することが最大の障壁である。ProDisc研究においてFDAの基準により求められた成功率がProDisc群53.4%および固定術群40.8%とかなり低かったことは、懐疑論者に対して良い印象を与えない。

しかしDelamarter博士は、FDAの成功基準はこれまで新しい脊椎用機器に使用されたアウトカム基準の中でも最も厳しいものであるという点を強調している。同博士の説明によれば次の10項目の総合的エンドポイントが定められた。(1)0DI活動障害度スコアの改善、(2)人工椎間板の成功、 (3)神経学的成功、(4)sF-36スコア(全般的健康状態の尺度) の改善、 (5)人工椎間板の移動なし、 (6)人工椎間板の陥没なし、 (7)X線透過性なし、(8)椎間板の高さの減少なし、 (9)可動性、および(10)骨癒合状態。

博士は「全体的な成功と判定されるには、全てのエンドポイントにおいて患者に成功が認められなければならなかった」と付け加えた。そして博士は、たとえ一過性の神経脱落症状など小さな問題であっても、それがあれば患者は「無効」のカテゴリーに分類された点を指摘した。

博士は、ProDiscに適用した成功基準がFDA管轄下でのCharité人工椎間板の研究で適用されたものより著しく厳しかったことについても言及した。Delamarter博士は、Charité人工椎間板の研究で使用された成功基準がProDiscの研究でも使用されればProDiscの成功率は67%であったと主張している。

患者の満足度の評価尺度にバイアスは生じたか?工事中

Delamarter博士は、「この研究における患者の満足度はFDAの成功判定方式よりもよく臨床的な成功を反映したものであったと思われる」と述べている。

「我々の仕事はQOLを改善することである。FDAの成功判定方式は数式によるものであり、患者が成功したかどうかを判定するものではない」 とDelamarter博士は述べた。

しかし、この研究は椎間板置換術と全周固定術の満足度について公正な比較を行っていないと考えている人もいる。国際腰椎研究学会の2005年年次総会におけるこの研究についての討論の際に、複数の参加者がこの研究デザインでは満足度の公正な比較は行われないと指摘した。

そうした人々は、被験者は新しいProDiscを用いた椎間板置換術を求めてこの試験に参加したのだと指摘した。当時はこれがProDiscの手術を受けられる唯一の機会であった。全周固定術を希望した患者は臨床研究に参加する必要はなかった。この術式の固定術は臨床研究に参加しなくても自由に受けられた。

したがって、代替治療を望んでいたにもかかわらず固定術を受けることになり失望した被験者がいたとしても不思議ではなかった。 ある外科医は、2つの手術の満足度を比較する唯一の公平な方法は、人工椎間板の手術を望んで研究に参加した被験者と脊椎固定術を望んで参加を断った被験者とを比較することであったと指摘した。

そうであれば、FDA管轄の研究は、全周固定術に対する満足度ではなくProDiscに対する満足度の評価基準として適していたという可能性がある。

ProDiscが保険支払い機関と折り合うには?

先に述べた保険支払い機関力キ包く懸念を考慮すれば、ProDiscは今後、保険金償還の対象となるのかどうかは、回答が困難な問題である。

いくつかの保険支払い機関が依頼者となって行われたエビデンスのレビユーは、FDAが治験依頼者となったCharité人工椎間板の評価研究について、対照治療にBAK固定ケージを用いた固定術を選択した点を批判している。

一部のレビューでは、もはやBAK固定ケー ジが単独で固定術用の医療機器として一般的に使用されている状態ではなく、これが疼痛を伴う椎間板変性の治療法として保存療法よりも優れていることが無作為比較研究において証明されたこともないと述べられている。 したがって、Charité人工椎間板がBAK固定ケ、ージと同等であることを実証しても、有効性が証明されるわけではない。

ProDisc研究では当然ながら全周固定術(360度固定術とも言う)が、対照治療として採用された。これはBAK固定ケージを用いた固定術よりも対照治療としていくらか優っている。全周固定術は椎間板変性に対する単独の外科的治療法として一般的に使用されている。

これも当然ながら、FDA管轄の研究では実際にProDiscが、全周固定術よりも優っていることが明らかになった。

しかし一部の保険支払い機関は、全周固定術よりも優れていることを有効性のエビデン
スとは解釈しない可能性がある。なぜなら全周固定術自体が保存療法よりも優れていると無作為比較研究で証明されていないからである。
したがって、このエビデンスの捉え方には重大な差があるように思われる。

ProDiscの長期安全性および耐久性も疑問視される可能性がある。米国で行われた無作為比較研究およびコホート研究では、ProDiscを用いた椎間板置換術のアウトカムに関して短期データしか得られていない。欧州で行われたいくつかの比較的小規模の研究では、より長期の経過観察が行われているが、おそらく保険支払い機関が望む年数には満たないだろう (Tropiano et al.2005を参照)。

Delamarter博士によると、実験室レベルでの研究ではProDiscの耐久期間は40〜50年と
推測される。「しかし、30〜40年後に臨床的に何が起こるか、我々にはわからない」こと
を博士は認めている。

参考文献:

Delamarter R et at., Lumbar total discreplacement with the ProDisc-L artificial
disc versus fusion: A prospective randomized controlled multi-center Food and
Drug Administration IDE trial, presented at the annual meeting of the North American Spine Society, Seattle, 2006; as yetunpublished.

Blue Cross Blue Shield Technology Evaluation Center, Artificial vertebral disc replacement, April 2005; www.bcbs.com/tec/vo120/20-01 .html.

Centers for Medicare & Medicaid Services,Coverage Analysis Group, Decisionmemo for lumbar artificial disc replacement; www.cms.hhs.gov/MLN-MattersArticles/downloads/MM5057.pdf.

FDA, Summary of safety and effectiveness data, ProDisc-L Total Disc Replacement,
2006; see www.fda.gov/cdrh/pdf5/p050010.html for information about accessing this document.

Tropiano P et at., Lumbar total disc replace- ment: Seven to eleven-year follow-up, Journal of Bone and Joint Surgery,2005; 87-A:490-6.

The BackLetter 21(11): 121, 128-130, 2006. 

加茂整形外科医院