Warnings on Spinal Fusion for Patients on Workers'
Compensation Fell on Deaf Ears
1994年にSpineに掲載された啓発的なレトロスペクテイブコホート研究は、 ワシントン州の労災補償を受けている被験者における脊椎固定術のアウトカムが非常に悪かったと結
論している。この研究では被験者の68%がアウトカム不良であった。そして固定術の2年後に活動障害が消失していた被験者は3分の1にすぎず、これらの被験者も全員が仕事に復帰できたわけではなかった (Franklin
et al., 1994を参照)。
Gary Franklin博士らの研究は、労災補償を受けている従業員の慢性腰痛に対する脊椎固定術の施行について医師へ警告を発している。また、この患者集団における固定術について明確な生物学的適応を定めるためのプロスペクティブ研究が必要であるとの提言も行っている。
しかし、それらの警告は無視された。最近発表された研究からは、ワシントン州の労災補償患者における脊椎固定術の実施率は1990 年代に急上昇したがアウトカムは改善しなかったことが明らかになった。
University of WashingtonのSham Maghout-Juratli博士らによると、新規研究において脊椎固定術を選択した (大部分は“椎間板に起因する”腰痛のため) 1,950例の活動障害のある労働者のうち、固定術の2年後に63.9% は就労できない状態にあり、22%は再手術を受け、12%は重大な術後合併症を有していた(Maghout-Juratli et
al.,2006を参照)。
技術革新はアウトカムを改善しなかった
20世紀末の20年間に固定術の技術革新が進み、1980年代半ばにはぺデイクルスクリューによるインストルメンテーション、1990年代半ばには固定ケージを用いた固定術が広く行われるようになった。これらの機器(device)
を支持する人々は、それによって固定術のアウトカムが大きく改善するものと期待した。
確かに1990年代末のワシントン州では負傷した労働者の脊椎固定術においてインストルメントの併用が広く行われた。著者らによると 「1,950例の条件に適った被験者において、ケージを併用する固定術は1996年には3.6%であったが2001年には58.1%にまで揄チした」。
しかしMaghout-Juratli博士らはインストルメントの併用が被験者のアウトカムの改善につながったというエビデンスを見出すことができなかった。著者らによると
「インストルメントを併用しない固定術と比較した場合、ケージまたはインストルメントの併用に伴って合併症のリスクが上昇し、活動障害や再手術実施率の改善は認められなかった」。
椎間板に起因する疼痛に対する脊椎固定術の使用を考え直すべき時か?
Franklin博士はワシントン州労働産業省の医学担当部長であり、1994年の研究の筆頭著者および新規研究の共者者である。
Franklin博士は、椎間板に起因する腰痛の治療法としての脊椎固定術の使用については労災補償患者に限らず考え直すべき時がきていると述べている。
「椎間板に起因する疼痛における固定術について、疑問を呈するエビデンスが集積されつつある。この固定術は、証明されていない理論と椎間板造影という主観的かつ信頼できない診断検査に基づくものである」 とFranklin博士は示唆する。
Franklin博士は次のように付け加えた。「3つの無作為比較研究から、脊椎固定術に体系的なリハビリテーションプログラム以上の効果はないことが明らかになった。[Brox et al., 2006;Fairbank et al,2005; and Brox et al.,2003 を参照]。利点を見出した唯一の無作為比較研究は、固定術を旧式の理学療法と比較したものであった」(Fritzell
et al.,2001を参照)。
Franklin博士によると「我々はぺデイクルスクリューインストルメンテーションと固定ケージという固定術の新技術の2大流行を経験したが、従来の治療法以上の利点.を示すエビデンスは得られなかった。もはや技術を疑問視する段階ではない。一体なぜこの手術法が行われているのかが問題なのである」。
博士は、変性性椎間板疾患または椎間板に起因する疼痛、あるいはこれら両方に対する脊椎固定術は、患者、外科医および費用支払い機関の間では“標準治療”に近い存在になっていると指摘する。
しかも総合的な利点に関する確かな科学的エビデンスがないまま、そのように位置づけされたのである。
「ひとたび標準治療になった治療法を見直すことは難しい」とFranklin博士は述べている。しかし博士は、これは慢性腰痛のある労働者に対する脊椎治療をより良いものにしていくために必要なステップであると信じている。
1994〜2001年に実施された固定術に関する研究
Maghout-Juratli博士らが行った新規研究はレトロスペクテイブコホート研究であった。 博士らはワシントン州の労災補償デ-タべースを用いて1994〜2001年に負傷して腰椎固定術を受けた全ての労働者を同定した。次に保険請求および/または医療費支払いのデータべースから特定の事例に関する情報を入手した。
連邦職員以外の同州の労働者の約3分の2 が労働産業省の州基金による保険に加入している。そのためこの研究にはワシントン州における該当症例のかなりの部分が含まれた。
研究者らは2,378例の患者を同定したが、そのうち428例を除外し(除外基準については研究を参照)、残りの1,950例を解析対象にした。症例の診断名は多様であり、過去の腰推手術、神経根障害、椎間板へルニア、椎間板に起因する疼痛、変性性疾患、脊椎すべり症、および脊柱管狭窄などであった。 しかしFranklin博士によれば、大多数の症例は椎間板に起因する疼痛または変性性椎間板疾患であった。
研究者らは手術実施率を算出した。さらに多重回帰分析を用いて手術の術式(インストルメントの種類を含む)
と腰椎固定術後の活動障害、再手術、および合併症のリスクとの関連を検討した。
脊椎固定術のピークは1998年
この研究によると、常勤労働者における腰椎固定術の実施率は1994年の10万人あたり14.6件からピーク時の1998年には10万人あたり23.8件にまで上昇した。その後、実施率はやや低下し2001年には常勤労働者10万人あたり19.4件の固定術が実施された。
脊椎固定術のインストルメント革命はワシントン州では劇的な影響を与えた。インストルメントを併用しない固定術の割合は1994年の37.3%から2001年には3.8%にまで低下した。前述のように、ケージを併用する固定術の割合は1996年の3.6%から2001年には58.1%にまで急上昇した。
ところが手術のアウトカムは、労災補償請求者の固定術に関する他の大規模コホート研究と同様(表Iを参照)、控えめに言っても期待はずれであった。Maghout-Juratli博士らによると 「2年後の総合的な活動障害率は63.9%、再手術実施率は22.1%であり、その他の術後合併症の発生率は11.8%であった」。
インストルメントの併用によって、認識できる好ましい影響が得られるようには思われなかった。ぺデイクルスクリューによる固定および/または固定ケージを使用した場合、インストルメントを併用しない固定術と比較して合併症が増加し、疼痛、活動障害または再手術実施率に対して有益な影響は認められないようであった。
ある種の交絡因子、すなわち手術の時点での弁護士の関与、心理学的問題および固定術以前の長期に及ぶ就労障害は、術後における活動障害悪化の予測因子であった。誘発性椎間板造影検査は固定術の適切な対象患者を同定するために使用される検査であるが、皮肉なことに、この検査の実施と再手術の危険性の上昇との関連が認められた。
エビデンスに基づく脊椎固定術のガイドライン
ワシントン州は、慢性腰痛を有する就労不能の労働者への脊椎固定術の実施に関して、エビデンスに基づく一連のガイドラインを採用している (Washington State Department of Labor and Industries,2002を参照)。興味深いことに、新規研究に含まれたほとんどの固定術は、それらのガイドラインに照らすと禁忌と考えられた。
Franklin博士は「これらは米国内で最も明確な脊椎固定術のガイドラインである。もしこれらのガイドラインが遵守されていれば、固定術の大半は実施されなかったと思われる」と述べている。
Franklin博士の指摘によれば、腰椎の手術を受けたことのない患者の場合、 このガイドラインで脊椎固定術が必要とされるのは評価可能な不安定性または骨による神経の圧追がある場合のみである (Washington State
Department of Labor and Industries,2002を参照)。
「患者がガイドラインに適合しない場合、患者と外科医はその他の明確かつ客観的な固定術の適応についての説得力のあるエビデンスを提示しなければならない」とFranklin博士は説明する。
しかし皮肉なことに、これらの症例の大半はその基準も満たしていなかった。「これらの固定術を受けたのは、画像検査でそれほど高度ではない椎間板変性が認められた若年または中年の労働者であった」とFranklin博士は述べる。「概して多椎間の変性があるが通常は重症ではない」。これらの画像のみでは、あるいはそれに加えて慢性腰痛の病歴を認めたとしても、客観的にみて固定術の適応にならないことは明らかである。
Franklin博士によると「これらの症例のほとんどは椎間板造影所見に基づいて固定術が行われた」。しかし誘発性椎間板造影検査は主観的な検査であり、特に心理社会的交絡因子を有する集団では不正確な検査となることが多い。
労災補償請求者に脊椎固定術を勧めることを検討している医師、そして患者自身は、これまでに発表または出版された労災補償請求者における脊椎固定術に関する3つの大規模コホート研究の結果を検討すべきである。それらの結果から、労災補償請求者が一般に脊推固定術により利益を受けていることを示すエビデンスは得られないことが明らかとなった。
そして医師および活動障害のある労働者の両者が、ワシントン州の固定術に関するガイドラインに記載された、エビデンスに基づく勧告に従うべきである。それらのガイドラインの指摘によれば、慢性腰痛のために脊椎固定術を受ける労働者において、仕事の復帰、疼痛の総合的緩和または総合的な改善についての見通しは決して良くない。
参考文献:
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Brox JI et at. , Randomized clinical trial of lumbar instrumenced Iusion
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Deyo RA et al. , Spinal fusion surgery: The case for restraint, New England
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Fritzell P et at.,200 1 Volvo award winner in clinical studies: Lumbar
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Maghout-Juratli S et at. , Lumbar outcontes in Washington State workers '
compensation, Spine, 2006; 31:2715-23.
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2006, as yet unpublished.
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?doc_id=4210.
The BackLetter 22(1): 4-5, 2007