James N.Weinstein博士らが実施したSpine Patient Outcomes Research Trial (SPORT)
の疼痛を有する椎間板へルニアに関する無作為比較研究(RCT) と観察コホート研究が2006年11月に発表されて以来、医学雑誌とマスメデイアではこれらの研究について広範な議論が行われてきた。本稿では研究の結果やメデイア報道を再掲載するのではなく、SPORTに対する最も一般的な批判の一部をはじめ、いくつかの重要問題について理解するための手がかりをQ&A形式で紹介する(Weinstein
et al.[a],2006;Weinstein et al.[b], 2006を参照)。
Q. SPORT研究の結果から、推間板切除術または保存療法のどちらかが疼痛性椎間板へルニア患者に対してより優れた治療法であると言えるか?
A. いいえ。RCTと観察コホート研究のいずれからも、そうした一般的な結論は得られていない。
RCTでは椎間板切除術と保存療法がほぼ同様のアウトカムを有することが明らかになった。 しかし著者らが指摘しているように、 この研究の2治療群間での切り替え率が高かったため、 この結論が正しいかどうかは疑わしい。
手術に割付けられた患者の40%が最終的には保存療法を選択した。また保存療法に割付けられた患者の45%が手術に切り替えた。そのためRCTの主要解析は失敗に終わった(Weinstein
et al.[a],2006を参照)。
一方SPORT研究の中の観察コホート研究では、手術を受けた患者は保存療法を受けた患者よりも全ての経過観察時点で優れたアウトカムを示した。しかし観察コホート研究の2 つの治療群はべースライン特性に差があり、アウトカムの差をすべて受けた治療によるものとみなすことはできない。
共著者であるRichard A.Deyo博士は「RCT では治療群間の切り替えのためにおそらく手術の利点が弱まったのであろう」と指摘している。Deyo博士は「これらの研究についての私の解釈は、RCTではこのような利点の薄まりのため手術の利点が過小評価されていると思われるのに対して、観察コホート研究では手術を選択した患者と選択しなかった患者の間にべースライン時点で明白な差があったため手術の利点が過大評価されていると思われる、というものである」と述べている。
Deyo博士によれば、「手術の利点の最良推定値はこれらの中間のどこかにある。Weber
博士の研究と同様、これは、手術は注意深く選択された患者の坐骨神経痛をより速やかに改善するが、2つの治療法のどちらを受けても患者は結局、長期的にはほとんど同じ結果になるということである、と私は考える」(Weber,1983を参照)。
Q. SPORTの著者らは被験者が実際に受けた治療法に基づくRCT解析も行った。SPORTを批判する一部の人の提案に従って、手術の優越性を示す決定的エビデンスとして“as-treated”解析を使用してはどうか?
A. 割付けられた治療を受けていない被験者が多数いる場合、as-treated解析でそうした一
般的な結論を得ることはできない。RCTの標準的な解析方法では、患者の結果を本来の治療割付けに基づいて評価する”intent-to-treat”解析を用いる。Intent-to-treat 解析では(少なくとも理想的な環境では)
それらの治療群が重要な特性に関して同等であることが保証される。
Weinstein博士らはデータのas-treated解析を行い、手術を選択した患者が全ての経過観察時点においてより良好なアウトカムを示すとの知見を得た。As-treated解析の結果は観察コホート研究の結果と同様であった。
しかしこの種の解析では無作為化の利点が失われてしまう。As-treatedのコホートはもはやべースライン特性に関して同等ではなかった。しかも観察コホート研究の場合と同様、アウトカムの差が受けた治療によるものではないという可能性がある。
一部の脊椎外科医は今後の脊推手術研究においては他の研究デザインを優先しintent-to- treat解析を断念すべきであると提案している。
「Intent-to-treat解析は手術に関する臨床研究では役に立たない」
とSpine_Universe.com のオンライン討論グループの参加者の一人が、最近述べている
(Spine-Universe.com, 2007 を参照)。
この発言は正しくない。 Intent-to-treat解析 は多くの脊椎手術研究において実際に役立っている。 現在のところRCTにおいて各治療群が同等かつ比較可能であることを保証する最良の方法である。
Intent-to-treat解析を使用した成功例を2つ挙げると、固定術と保存療法を比較した脊権手術研究であるSwedish Lumbar Spine Study、および脊柱管狭窄の手術と保存療法を比較した最近のフィンランドの研究がある
(Fritzell et al,2001;Malmivaara et al.,2007を参照)。
Q.他の臨床研究から、椎間板切除術または保存療法のいずれかを、疼痛を有する椎間板へルニアの”標準治療”とみなすべきであるという決定的なエビデンスは得られているか?
A.得られていない。疼痛を有する椎間板へルニアの治療における”標準治療”は確立されていない。そもそもSPORTという椎間板切除術の研究が実施された理由はここにある。
最近のSpineの論説では、”標準治療”と”治療選択肢”の間には重要な違いがあることを認めている。
Dartmouth UniversityのHilary A.Llewellyn-Thomas博士によると、「標準治療とされているものは有効性に関する強力なエビデンスに支えられており、それによる潜在的な利点は悪影響を補って余りあるという点で、患者と医師の間にしっかりとした意見の一致がある」。
「標準治療以外の介入が選択的治療である」とLlewellyn-Thomas博士は指摘している。「それらは不完全もしくは不確実なエビデンス、または相反するエビデンスに支えられているか、
その潜在的悪影響を考慮すれば各選択肢の利点がプラスになるかどうかは意見が分かれる、あるいはその両方である。選択は好みに影響されやすい」 と博士は述べている(Llewellyn-Thomas,2006を参照)。
したがって現時点では椎間板切除術と保存療法は両方とも好みに影響されやすい選択的治療である。
椎間板切除術と保存療法の長期アウトカムが同様であることを示唆する様々なエビデンスは存在する。また、少なくとも選択された患者サブグループでは椎間板切除術のほうが回復および仕事復帰の時期が早いということを示唆する様々なエビデンスも存在する。
しかし椎間板切除術と保存療法を直接比較するRCTはこれまでわずかしか行われておらず、医学論文として発表されているRCTは4 件のみである(Weinstein et al.[a],2006; esterman et
al.,2006;Buttermann,2004;Weber,1983を参照)。これまでのところ、広範な患者群で椎間板切除術が模擬手術や保存療法よりも優れていることを決定的に実証した無作為比較研究はない。
Henrik Weber博士による古典的RCTは貴重なデータを提供したが、少なくとも最新の基準に照らした場合、いくつかの方法論的な問題があり、確かな結論を出すことはできなかった(Weber,1983;Bessette
et al.,1996を参照)。
その他のRCTの結果は多様であったが、全てがいずれかの点で手術を支持していた(これまでのRCTに関する説明は表Iを参照)。
AlastairJ.N.Gibson博士らが2000年に発表 した椎間板突出(prolapse)に関するコクラン共同研究のレビユーは、現に椎間板切除術がプラセボまたは模擬手術よりも有効であると主張しているが、その根拠としているのは異なる2研究から得られたデータの間接比較である(Gibson
et al.,2000を参照)。
Gibson博士らによると「椎間板切除術が化学的髄核融解術よりも有効であること、および化学的髄核融解術がプラセボよりも有効であることを示す強力なエビデンスが存在する;ゆえに椎間板切除術はプラセボよりも有効である」。すなわちAはBより優れておりB はCより優れている、それゆえAはCより優れている、というわけである。
この主張は論理的であるが、 ほとんどのエビデンス解析者はA(椎間板切除術)がC(プラセボまたは模擬手術)より優れているという直接的エビデンスを期待している。実際に、JAMAに掲載されたSPORT研究に寄せられたDavid Flum博士の論説は、椎間板切除術を模擬手術と比較するRCTが必要であるとしている。
Flum博士は次のように指摘している。 「これらの介入には研究デザインおよび過程に制限があるため、その正確な役割および利点はまだ不明である。多くの患者がこれらの治療法のリスクに曝される可能性を考慮すれば、次の段階として有効かつ倫理的な研究は模擬手術を用いる研究に限られるかもしれない」(Flum.,2006を照)。et
al,2001;Malmivaara et al.,2007を参照)。
Q.治療群間の切り替えの問題を考えると、椎間板切除術と保存療法を比較したSPORTのRCTは一部の評論家が言うように失敗だったのではないか?
A. いいえ。RCTとしては失敗かもしれないが、観察研究としては非常に貴重なデータを提供するはずである。
Massachusetts General HospitalおよびHarvard UniversityのSteven Atlas博士は「あなたが手術または保存療法の優越性に関する簡潔な答えを探しているなら、これらの研究の中に答えは見つからない」 とコメントしている。
Atlas博士は、「しかし、 様々な特性を有する患者がどのように治療を選択するか、生活様式や価値観に基づいてどのような判断をするか、そしてその選択がどのような成り行きになるかに関心があるなら、データの情報源としてこれに勝るものはないと考える」。同博士は画期的なMaine Lumbar Spine Studyの共著者としてこの種の観察データを解析した経験がある (Atlas et at.,1996,2001,2005表II を参照)。
「通常、人はRCTから重要な答えが与えられることを期待する。しかしSPORT研究の場合には、重要なのは観察データである」 とAtlas博士は続ける。
SPORT研究の観察コホートは確かに、この先何年間も重要なデータを提供してくれるはずである。またRCTのas-treatedコホートは比較観察データの補足的情報源となる。
Q.それではなぜ、Weinstein博士らが行ったRCTの被験者の一部は割付けられた治療を遵守できずに治療を切り替えたのか?切り替えが多かったのは悪いことか?
A. RCTにおける切り替えは多少とも疑わしい目でみられることが多い。結局これらの患者は無作為に割付けられた治療法を自由意志によって受け入れたが、その後、数日または数週間以内に考えを変えた。こうしたプロトコール不遵守は重要な研究活動に混乱を招く。
脊椎手術に関する研究では、従来、治療群間の切り替えは患者が最も確実な手術による腰痛に関わる問題の解消を求めて保存療法群から手術群に移るというものであった。
実際に、米国の多くの外科医はSPORTのRCTにおいて保存療法から椎間板切除術に切り替える患者が非常に多いであろうと主張していたが、両方向への切り替えが多く発生するとは誰も予想しなかったようだ。
患者の治療に対する考え方の変更には椎間板へルニアの臨床経過の特徴が影響したほか、PORTのRCTの特別な側面も影響した可能性がある。先に述べたように、坐骨神経痛に対する手術および保存療法は両方とも長期的には同様の治療アウトカムを有する。 したがって治療選択は、実際には比較的短期の問題なのである。
SPORTに関係する教育活動も切り替えの一因となった可能性がある。SPORTは患者教育に共同意志決定の方法をはっきりと採用した最初の主要な脊椎手術研究の一つであった。
研究では解説ビデオや説明書などの注意深くデザインされた様々な教育資料を使用して、患者に治療選択肢に関する十分な説明を行い、患者が自分自身の価値観、経験およびリスク許容度に基づいて治療を決定できるようにした。
Atlas博士はFoundation for Informed Medical Decision Makingの医学編集者であり、
SPORTの全ての参加者が視聴した椎間板へルニアに関する共同意志決定のためのビデオの臨床アドバイザーを務めた。
Atlas博士は「RCTが明確な結果を出すことができなかったのは、治験管理者が、患者に治験プロトコールを違守させられなかったためと言えるかもしれない」と指摘する。
「しかし治験管理者が椎間板へルニアの性質と治療の選択肢について患者に説明したことが良いことであったのは間違いない。私の関心は自身の関わった共同意志決定にあるので、私の見方は偏っているかもしれない。しかし患者は説明を理解した上で賢い選択をしただけであって、その結果として良好なアウトカムを得たとも考えられる」。
言い換えると、患者は無作為化後に自身の状態が変化したため、この研究でそうするようにと奨励されたように、患者が価値観と好みに基づいて治療選択を変更しただけかもしれない。
RCTの共著者であるEmory University Spine CenterのScott Boden博士はHealth News
Digest.comの記事で同じような主張をした。「病状について適切な説明を受ければ患者はより良い選択をすることを我々は学んだ。疼痛が耐えられないほどひどい場合、または疼痛が自然に改善したという理由で、患者が元の割付けられた治療群以外の治療に切り替えたことは驚くべきことではなかった」と博士は述べた。Boden博士は、「こうした選択は治療アウトカムを解析する研究者にとって確かに厄介な問題を生じさせるが、これらは症状の自然経過に対する賢明な対応であった。」と示唆した(Healih
News Digest.com,2006を参照)。
しかしSPORTのRCTより以前に、脊椎に関する主要なRCTとしてこれらの問題に取り組んだ研究がなかったわけではない。英国で最近行われた脊椎固定術をリハビリテーションと比較するMRC Spine Stabilisation Trialでは、リハビリテーションに割付けられた被験者の28%が、結局は固定術を受けた一方で、固定術に割付けられた患者の4%が結局は手術ではなくリハビリテーションを選択したことが報告された(Fairbank
et al.,2005を参照)。
首席治験責任医師のJeremy Fairbank博士は、切り替え率の高さについて考えられるもう一つの解釈を示している。すなわち、臨床研究において危険性への患者の意識が高まったことで、意志決定に変化が生じた可能性があると述べている。
Fairbank博士は最近、MRC研究における経験に基づいて「臨床研究に参加する患者は標準的な臨床診療を受ける患者に比べて、より入念な同意取得過程を受けており、危険性に対する意識が高い」とコメントしている。
確かに臨床研究に参加する患者は普通の臨床診療を受ける患者と比較して、より複雑な評価、教育、インフォームド・コンセント、および意志決定過程を経験する。こうしたことが治療の選択肢および利害関係に関する認識を変える可能性があることは容易に理解できる。
Q.SPORT研究は臨床診療にどのような変化をもたらすか?
A.スウェーデンの脊椎研究の先駆者であるAlf L.Nachemson博士は、2006年末に死去する直前、SPORTの椎間板切除術に関する研究により保存療法の役割が強化されるであろうとコメントしている。
以前の研究から椎間板切除術と保存療法の長期アウトカムが同様であることが、示唆されていたが、今回の結果は世界中のメデイアでニュースになるものと思われた。そして、手術を受けなくても多くの患者は健康と機能を完全に取り戻すことができるという事実が、新たに正しく認識されるかもしれない。
これらの研究は、保存療法が安全であり、普通は長期の神経学的な悪化を引き起こさないことを明確に示した。SPORTの首席治験責 任医師であるWeinstein博士は最近、「この研究において悪化した患者はいなかった」とコメントしている。
Eugene Carragee博士がJMAの付随論説で指摘しているように、「SPORTのデータは、重篤な障害(神経学的な悪化、馬尾症候群、または脊推不安定性の進行)の危険性が極めて小さいことを明確に示している。多くの患者と外科医が抱く、大きな椎間板へルニアを切除しなければ破減的な神経学的症状の結果を招くことになるであろうとの懸念は、全くの杞憂である」(Carragee,2006を参照)。
Carragee博士は、「手術を受けるか受けないかの選択はつまるところ患者の好みの問題になる」と述べている。「SPORT研究の多くの患者は手術を受けなくても明らかに改善した。
これらの知見から患者の好み以外には手術を強く支持する明確な理由はないと考えられる」。
一方で、SPORTの結果から手術を希望する患者の手術への信頼度が強まる可能性がある。手術結果は素晴らしく、手術コホートでは全ての経過観察時点での結果が、保存療法よりも優れていた。そして手術による有害事象の危険性は低かった。合併症が発現した患者は5%にすぎなかった。
手術を選択した患者は“failed back surgery syndrome”と並んで再手術の必要性を心配する場合も、時々ある。しかしSPORTの結果はこの点でも心強いものであった。RCTにおいて椎間板切除術を受けた患者のうち2年以内に再手術を受けた患者はわずか5%であった。 そしてこれらの症例の半数以上で、2回目の手術は全身性の慢性疼痛症候群によるものではなく同一椎間の再発性推間板へルニアによるものであった。
したがって患者は両方の治療法を信頼することができる。「SPORTは手術または保存療法に関連するリスクが非常に小さいことをはっきりと示している」と、Boden博士は最近電子メールで述べている。
Q.SPORTの結果に基づき、椎間板切除術の良い適応と考えられる患者および保存療法が妥当と考えられる患者は?
A.「症状が非常に重い患者、症状に非常に悩まされている患者および仕事、生活様式または生活上のその他の問題のため症状が治まるまで待てない患者にとって、手術は非常に良い選択肢のように思われる」とAtlas博士は述べている。
「一方、症状にそれほど悩まされていない患者、症状に対処する能力が高いか、または対処する時間的余裕のある患者の場合、保存療法は長期的には同等のアウトカムにつながると思われる」と同博士は語る。
Weinstein博士は2006年11月にこの研究が発表されたときに同じ意見を述べている。
「我々の所見では、重症の腰痛や下肢痛のため我々の病院を受診し手術を受ける患者にとって、手術後1、2年間の全体的な評価という点においては手術に利点がある」とWeinstein博士はDartmouth Universityが発表した文書で述べた。
しかし疼痛に対する忍容性が比較的高い患者は保存療法によって良い経過が得られた。
「こうした症例では、手術を受けずに理学療法、一般用医薬品の鎮痛薬、およびその他の保存療法による対症療法を行うことで十分な改善が認められ、報告された生活の質(QOL)
は手術患者が手術の1年後に報告したものに近かった。この新しい情報により、医師がアウトカムを患者に説明し、手術を受けるかどうかについて患者にインフォームド・チョイスをさせることが可能になるはずである」と博士は付言した。
Q.患者が手術を選択する場合、どの術式の椎間板切除術を選択すべきか?一部の評論家は、SPORTでは低侵襲的椎間板切除術を含む最新の手術法を採用していないと批判している。
A.
エビデンスに基づくレビューによると、椎間板手術における2つのgold standardは観血的椎間板切除術と顕微鏡視下椎間板切除術(手術用顕微鏡を用いた観血的椎間板切除術) である。したがってSPORTの著者らがこの研究における標準手術として観血的椎間板切除術を選択したことは全く正しい選択であった。 現在までのエビデンスに基づき、2研究における選択肢に低侵襲的椎間板手術を含める理由はなかった。
Q.患者が保存療法の方を選ぶ場合、最良の治療法は何か?
A.それは誰にも分からない。坐骨神経痛の保存療法における標準治療は存在しないため、SPORTでは椎間板切除術と1種類の保存療法との比較は行われていない。その代わりSPORTでは、椎間板切除術を地域医療機関で実際に行われている様々な保存療法(鎮痛薬、運動、硬膜外ステロイド注射を含む)と比較している。教育資料では積極的な患者アプローチを奨励したが治療選択については特定していない。したがって保存療法群の患者の疾患経過を特定の治療の結果であると考えることはできない。
Q.SPORTの観察コホート患者の治療アウト・カムはどのようなものか?
A.椎間板切除術群は疼痛および活動障害に関して全ての時点で利点を示したが、この利点は2年後までに縮小した。手術群は1年後の時点では仕事に関するアウトカムが良好であったが、この利点は2年後の経過観察では消失した。
活動障害に関しては、手術群は研究開始時の修正Oswestry活動障害度(0DI)の平均スコアが56.7であり、保存療法群の平均べースラインスコア35.9と比較して高かった(0-100、100は活動障害度が最大であることを示す)。
3ヶ月後には平均0DIスコア力事術群では平均36.1ポイント改善したのに対して、保存療法群では20.9ポイント改善した。1年後にはODIスコアが手術群で平均37.7ポイント改善したのに対して、保存療法群では22.4ポイント改善した。2年後には活動障害が手術群で平均37.6改善したのに対して、保存療法群では24.2改善した。
手術群は研究開始時のSF-36身体疼痛尺度(0-100、0は最大疼痛を表す)の平均疼痛スコアが21.2であった。保存療法群は研究開始時の疼痛が有意に小さく、平均スコアは36.2であった。
手術群では3ヵ月後に平均40.9ポイント改善したのに対して保存療法群は26ポイント改善した。1年後に手術群は平均42.8ポイント改善し、保存療法群は32ポイント改善した。2年後に手術群は平均42.6ポイント改善し、保存療法群は32.4ポイント改善した。
Q.RCTのas-treated解析において手術群と保存療法群はどのよつな治療経過を示したか?
A.RCTのas-treated解析の詳細な比較データは発表されていない。しかしWeinstein博士らによると、RCTのas-treated群の結果は観察コホート研究の結果と同様であった。
Q.SPORTにおいて2年間の経過観察期間中に十分な改善がみられなかった患者の割合は?
A. 著者らはRCTのas-treated群に関する詳細な結果を報告していない。 しかし観察コホート研究では、疾患経過に関する患者の主観的評価によると、手術を受けた患者の約25%、および保存療法を受けた患者の42%で研究期間中に際だった改善は認められなかった。
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