オピオイ ドへの逆風:オピオイドは慢性腰痛の治療における一時的流行にすぎないのか?

Opioid Backlash: Are Opioids Just a Passing Fad in The Treatment of Chronic Back Pain? 

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世間で広く行われていた慢性腰痛の治療の多くは、“一時的流行”すなわちDictionary.com の定義によるところの“ある集団が特に熱狂する一時的流行”であったことが判明している。

歴史的にみると一時的に流行した腰痛治療のほとんどは、その価値についての明確なエビデンスが得られるより早く普及してしまった。そして最後には大半の治療について効果があるかないかわからない、あるいは悪影響があることが判明した。

現在、慢性腰痛の長期治療には広範囲にわたりオピオイドが使用されているが、これは一 時的な流行ではないかと推測している人々もいる。米国では、製薬会社による積極的な販促活動だけでなく疼痛専門家と疼痛関連学会による確信に満ちた勧告にも刺激され、慢性腰痛に対するオピオイドの処方は20世紀末の20年間で急増した。

オピオイドの使用を支持した人々は、強力なオピオイドが急性疼痛の治療に成功し、慢性疼痛の短期治療にも成功したことから、慢性疼痛の長期治療にも拡大適用できるものと考えた。しかし、そのような考えを支持する説得力のあるエビデンスは得られていない。

慢性腰痛のルーチン治療としてオピオイドを長期間使用するのが一時的な流行であったと判明するのは、最終的にこの治療法が支持を失うか、少なくとも人気を落とした場合のみである。米国の地域住民を対象にした最近の研究からは、プライマリケア診療におけるオピオイドの使用は1990年代後半がピークであった可能性が示唆されている(Olsen et at., 2006を参照)。

しかし21世紀初めからオキシコドン、フェンタニール、モルヒネ、およびヒドロコドンの処方が劇的に増加していることから、オピオイドの使用が再び、急増する可能性が示唆される(Kuehn,2007および今月号の36ぺージを参照)。

一部の患者はオピオイドの使用により明らかに恩恵を得ており、それなしでは快適に生活できないと考えられる。 しかし慢性腰痛の長期オピオイド治療を行っている患者の大多数では利害得失のバランスは不明瞭である。その長期的価値を証明する質の高いエビデンスは全く存在しない。そして広範なオピオイド使用に関連した重大な問題に関するエビデンスが増加しつつある。

Annals of Internal Medicineに最近掲載された体系的レビューは、慢性腰痛に対するオピオイド使用の科学的エビデンスについて冷静な見方をしている。Bridget A.Martell博士らが臨床研究および観察的研究をレビューしたところ、オピオイドが慢性腰痛の長期(16週間を超える)治療において有効であるという決定的なエビデンスは見出されなかった(Martell et at.,2007を参照)。

Martell博士らによると「オピオイド治療は慢性腰痛のルーチン治療として受け入れられているにもかかわらず、今回の体系的レビューではそうした治療においてオピオイドが有効 であるという決定的なエビデンスは得られなかった」。

このレビューでは、オピオイドが慢性腰痛の短期治療において有効であると思われるエビデンスは得られたが、完全に一貫性のあるエビデンスではなかった。

この影響力の大きな雑誌の編集委員らは、オピオイドについて次のような冷やかな意見をはっきりと述べている「オピオイドの慢性腰痛に対する効果は、あったとしても短j期的で限られたものであると思われる」。これは大きな治療動向の基盤とするには頼りないエビデンスである。

英国の疼痛専門家であるHenry McQuay博士が2001年のBMJの論説で述べた意見は、オピオイドに関する議論を引き起こした。 McQuay博士によれば「慢性の非癌性疼痛に対するオピオイドの使用は深刻な混乱状態にある」(McQuay,2001を参照)。

しかしそうした意見は、正確であるといえるだろう。副作用の発生率が高い。鎮痛薬の効果が経時的に失われることが様々な研究から実証されている。あるレビューでは最大
56%の患者が長期オピオイド治療を中止していることが明らかになった(Kalso et at.,2004 を参照)。

薬物依存症の可能性は多くの疼痛専門家が予測したよりもはるかに高いと思われる。 Martell博士らによると「腰痛のためにオピオイドを服用している患者では薬物使用障害(依存および乱用)の発生率が高い」。

デンマークの地域住民を対象にした大規模研究

最近行われたいくつかの研究では、オピオイドが疼痛緩和と生活の質(QOL)の向上という主要任務を果たしていない可能性があると述べられている。

デンマークの地域住民を対象にした大規模な横断的研究では、慢性の非癌性疼痛に対するオピオイドの使用に関連して様々な好ましくないアウトカムが得られると結論づけられた。「慢性非癌性疼痛のオピオイド治療が疼痛緩和、QOLの向上、および機能の改善という主要目標を達成しているとは思われないことは注目すべきである」とJφrgen Eriksen博士らは結論づけた(Eriksen et al.,2006を参照)。

Pain誌の論説はこの種の横断的研究では因果関係を示すことはできないとしている。 しかし疼痛専門家のJane Ballantyne博士はこの研究結果を重視すべきであると提言した。

Ballantyne博士は「全ての患者が[オピオイド治療から]恩恵を得られるわけではないというエビデンス、そしてオピオイド治療を行う最善の方法は適切な患者に注意深く体系的に行うことであるということを示唆するエビデンスは、Erikson博士の研究の他にも増加しつつある。Erikson博士の研究はオピオイドが慢性疼痛に対する万能薬ではないことを示す説得力のあるエビデンスである」と述べている(Ballantyn [a],2006を参照)。

デンマークは国民1人あたりのオピオイド処方薬の使用量が世界中で最も多い。デンマークにおけるオピオイド使用量は過去20年間で600%増加した。デンマークの人口の約3%がオピオイドを定期的に使用していることになる。

Erikson博士らは2000年のDanish Health and Morbidity Surveyを利用して、デンマークに居住する16,684人の全国無作為抽出標本における慢性疼痛に対するオピオイド使用について, 調べた。癌のためにオピオイドを使用した患者は全て研究対象から除外した。聞き取り調査と質問票に回答した10,066例の被験者が研究対象となった。

Erikson博士らは慢性疼痛があると回答した被験者をオピオイド使用者と非使用者の2群に分け、年齢、性別、疼痛強度、および抗不安薬と抗うつ薬の使用に関する補正を行った。

その上で、オピオイド使用者と非使用者における疼痛緩和、QOL、および身体機能を比較した。

オピオイドの使用に関連して、高度の疼痛、自己評価による健康状態の悪化、失業率の上昇、余暇時の身体活動不足、医療の利用増加、およびQOLの低下といった不良アウトカムが認められるようであった。

この結果について懐疑的な人々は次のように言うであろう。「しかしこれらが、まさに疼痛患者がオピオイドを使用する理由である。この研究はオピオイドを使用している人々がオピオイドを使用していない人々よりも重度の疼痛および健康問題を有することを示しているだけである」と。

Erikson博士らは、オピオイド使用者は一般的に非使用者よりも重症の疼痛愁訴を有していたことを認めている。

しかしこの研究者らは、疼痛患者が外見上は正常な生活および機能を取り戻せるようにすることがオピオイド処方の目的のひとつであると指摘した。オピオイドの使用によって疼痛患者は少なくとも相応な疼痛コントロールを達成できるようになると推定される。

オピオイドの使用によって慢性疼痛患者全員が治療目的を達成できるのではないことは明らかであった。Eriksen博士らは、「この患者群が、オピオイド治療によってオピオイドを使用していない患者または一般集団と同等の機能的状態、QOLおよび疼痛コントロールを得られるほどには改善しなかったことは明白である」と述べている。

Erikson博士らは、オピオイド使用者がこれらの強力な鎮痛薬を使用しなければ、更に悪
い状態になった可能性もあると認めている。 しかし彼らは次のようにも述べている。「もうひとつ考えられるのは、オピオイドがそれほど有用ではない、あるいは長期的には有害ですらあるということである」。

Erikson博士らは、更なる科学的研究の結果が出るまで慢性の非癌性疼痛に対するオピオイドの使用を抑制するよう、次のように提言している:「本研究の知見は、少なくとも有効性とアウトカムに関するより良いエビデンスが得られるまでは、疼痛の長期オピオイド治療には慎重になるべきであるということを強く示唆している」。

危険地帯を進む

オピオイド使用に関連した長期有効性に関するエビデンスが十分にないこと、また副作用に関するエビデンスが非常に多く得られていることを考えると、臨床医はこの危険地帯をどのようにして進んで行けばよいのだろうか?

オピオイド使用の危機に促されて、慢性疼痛への長期オピオイドの処方にあたっては様々な慎重な方法がとられるようになった。 最近カナダの研究者らは、オピオイド依存症が予測不能であることを認めた上で、臨床医が危険性を認識し事前の対策を講じて長期のオピオイド使用を管理できるような鎮痛薬における“普遍的予防措置(universal precautions)”を求めた。

疼痛専門家のDouglas L.Gourlay博士とHoward Holt博士は、慢性疼痛のためにオピオイドを使用する全ての患者について10段階の手順を踏むべきであると提唱した:

  1. 適切な診断を行い、可能であれは併存疾患、薬物使用障害および、精神疾患を
    同定する。
  2. 依存症のリスクを含む心理学的評価を実施する。
  3. インフォームドコンセントを取得する。
  4. 詳細な治療に関する合意書を作成する。
  5. 治療前後に疼痛および身体機能の評価を行う。
  6. オピオイド治療に補助治療を併用した場合としない場合に関する適切な研究を実施する。 
  7. 疼痛および身体機能の定期的な再評価を行う。
  8. 鎮痛薬、活動度、 副作用および異常行動を定期的に再評価する。
  9. 疼痛診断、併存疾患および依存症を定期的に再評価する。
  10. これらの全ての手順について完全な文書による記録を残す。

Gourlay博士とHolt博士によると、 「全ての慢性疼痛患者の管理に普遍的予防措置を導入することによって、症状が軽減し患者の治療が改善され総合的な危険性は抑制される」 という (Gourlay and Heit,2005を参照)。

Ballantyne博士はSouthern Medical Journalに掲載された最近のレビューにおいて、 いくつかの賢明な“オピオイド治療の原則” を示した。博士はオピオイドに身体機能優先型の積極的リハビリテーションプログラムを組み合わせることを提唱した。博士はオピオイド治療が単独治療として成功することはまれであると指摘している (Ballantyne[b],2006を参照)。

博士は、治療期間、治療中止条件および予想される利害得失の明確な説明を記載した合意文書または契約書を作成するよう提言している。 また、 定期的な経過観察を行うとともに、 薬学データべース、 錠剤数の計数および/または尿検査に基づいたオピオイド使用状況を注意深くモニタリングすることを支持している。

そして最終的には、 治療目標が達成されなければオピオイド治療を中止するよう推獎している (詳細な情報は論文を参照)。

残念ながらこれらの種類の注意深い継続的評価を実施することが実際的かどうかについてのエビデンスはごくわずかしかない。それらは確かに専門治療の場においては可能である。 しかし多忙なプライマリケア診療のスタッフとスケジユールには重い負担となる可能性がある。

もちろん、長期オピオイド治療を完全に止めるという道もある。 これらの薬剤が効果的に疼痛を緩和しQOLを改善する可能性があるならば、患者に長期オピオイド治療を受けさせないことは倫理に反すると主張する人々もいる。 これに対して懐疑的立場の人々は、 長期オピオイドの有効性はまだ不明であり、有効性が証明されていない治療を患者に受けさせないことは倫理に反しないと主張している。

Martell博士らによる最近の体系的レビューでは、医師に対して慢性腰痛に対するオピオイド以外の治療に注目するよう奨励されている。「このレビューの知見から、 臨床医はオピオイ ドによる慢性腰痛の治療について考え直し、同様の効果が得られつつも長期副作用の少ない他の治療を検討すべきであるということが示唆される」。

参考文献:

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see www.nida.nih.gov/Infofacls/HSY-outhlrcnds.html.

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加茂整形外科医院