年1回の治療による骨粗鬆症性骨折の予防:希望か誇大な宣伝か?

A Once-per-Year Treatment to Prevent Osteoporotic Fractures: Hope or Hype? 


年1回の静脈内注入による骨減少症または骨粗機症の治療は、治療の突破ロになる可能性があるものとして医学界とマスメデイアの両方から称賛されている。ゾレドロン酸の年1回、15分間の注入治療がFDAに承認されれば、毎日、毎週、または毎月服用しなければならない骨粗鬆症の経口剤に関連する副作用の問題を克服できる可能性がある。1回の注入にかかる推定費用はおよそ1000ドルと推測され、他の骨粗鬆症薬の年間費用に比べて価格的に優位である可能性が高い。

しかし骨量減少を抑えるものの、このような大々的な報道やあからさまな“誇大な宣伝”に、この治療が値するだろうか??批判的な人々は、この薬は骨減少症や骨粗鬆症の万能薬ではなく、魔法の薬と呼ぶべきではないと提言している。

New England Journal of Medicineに掲載された無作為比較研究(RCT)と論説は、この治験段階の治療について非常に好意的な論調であった。Dennis Black博士らはHORIZON Pivotal Fracture Trialで3年間にわたり8,000例の女性について調査し、「年1回のゾレドロン酸注入を3年間行うことによって、脊椎椎体、股関節、およびその他の骨折の危険性力'有意に低下した」と結論づけた(Black et al.,2007を参照)。

「毎週忘れずに錠剤を飲む代わりに、年1回の骨粗鬆症の治療を受ける選択肢を女性が手にしたのは初めてのことである」とBlack博士はプレスリリースで述べた。「毎週あるいは毎月の服用を順守できない場合も多いため、年1回の治療であれば、患者は、致命的となる可能性のある骨折に対する有益な予防をはるかに受け易くなる」。

「HORIZON研究の有効性データは素晴らしい」と論説委員のJuliet Compston博士は述べた。「3年後の時点で、脊椎椎体骨折は70% 減少、股関節部骨折は41%減少、そして非脊椎椎体骨折は25%減少した」(Compston,2007 を参照)。

しかし、骨減少症と骨粗鬆症の治療薬としてのゾレドロン酸の将来性に熱狂的な人ばかりではない。批判的な人々は、アレンドロネートやリセドロネートのような前の世代のピスフォスフォネートも発売時には画期的な新薬として誇大宣伝されたことを指摘している。

しかし、これらの薬剤は期待に応えることができなかった。その後の研究から、これらの薬剤を処方された患者の半数以上が副作用のため、および/またはリスク・ぺネフィットのパランスを再評価するため、治療開始後1年以内に服用を中止したことが明らかになっている。

厳しい批判

新規研究を最も手厳しく批判したのはABC News.comの解説であった。リウマチ学者のNortin M.Hadler博士は次のように述べている。「この治療は老化する骨にとってすばらしいものだと確信する人力'いるかもしれない。しかし私はそうは思わない。そして私の患者をこの誇大宣伝の犠牲者にするつもりはない」。 博士はBackLetterとの電子メールのやりとりでも繰り返し懸念を述べた。

Hadler博士の考えでは、年1回のゾレドロン酸投与にも他の骨粗機症薬と共通する多くの欠点がある。同薬の利点の宣伝には、誤解を招く恐れのある統計値が用いられている。また、この治療法の危険性と不確実性がその利点によって正当化されるかどうかは明らかでない。

「競合する薬物療法に関するすべての誇大 宣伝にも同じ悪魔が潜んでいる」とHadler博士は主張している(Hadler,2007を参照)。

約8000例の女性を対象にした無作為研究

それでは、この研究から明らかになったことは何か?Black博士らは8,000例近くの女性被験者(平均年齢73歳[範囲65〜89歳])を対象として3年間にわたり毎年ゾレドロン酸の注入を行い、その効果を調べた。

脊椎椎体骨折の有無にかかわらず大腿骨頸部のTスコア(骨密度の指標)が-2.5以下の女性、またはX線検査で少なくとも1ヵ所の中等度の脊椎椎体骨折もしくは2ヵ所の軽度の脊椎椎体骨折が証明されTスコアが-1.5以下であった女性を研究への参加資格ありとした。

ゾレドロン酸5mgを研究開始時、12および24ヵ月後に注入する方法、または同じ時期にプラセボを注入する方法のいずれかに女性を無作為に割り付けた。

主要アウトカム評価尺度は、X線写真で検出された脊椎椎体骨折の総数およ理関節骨折の総数であった。

股関節骨折と脊椎椎体骨折における利点

3年後の経過観察時、ゾレドロン酸群の女性 では脊椎椎体骨折と股関節部骨折の両方に関して統計学的に有意に優れた結果が得られた。

Black博士らによると「ゾレドロン酸治療は、形態計測学的な脊椎椎体骨折の危険性をプラセボと比較して3年間で70%低下させた(プラセボ群10.9%に対しゾレドロン酸群3.3%)」。また次のように述べている。「この投与法は股関節骨折の危険性を41%低下させた(プラセボ群2.5%に対しゾレドロン酸群l.4%)」。

いくつかの気がかりな副作用が認められた。ゾレドロン酸群では不整脈および生命にかかわる可能性のある心房細動の発生率が有意に高かった。注入後に腎機能の短期的変化およびその他の急性の影響が認められた。

しかし、RCTは重篤な危険性の可能性については重視しなかった。「安全性プロファイルは良好であった」と著者らは結論づけた。

Hadler博士による批判

Hadler博士の批判は広範囲に影響の及ぶ。博士は、骨粗鬆症や加齢に伴う骨の菲薄化の本来の性質、骨粗鬆症性骨折の直接原因を疑問視するとともに、HORIZON研究には骨折発生率に関する研究群間の小さな差を正確に検出する能力があったのかということまで疑問視した。

批判の多くを本稿ではすべて紹介できない。 しかし、BackLetterの読者はネット上ですべての記事を検討すべきである。読者がHadler 博士に同意するかしないかに関わらず、博士の取り上げている問題は非常に重要であり、患者はそれを認識しておくべきである。

股関節骨折を免れた女性は36例のみ

Hadler博士は論説の中で、相対リスクの減少という統計値を用いてゾレドロン酸の効呆を表したことを非難している。確かに、脊椎骨折の相対リスクが70%低下し股関節骨折の相対リスクが41%低下したという報告からは、この薬剤が魔法の薬であるような印象を受ける。

Hadler博士は、骨折の絶対発生数で表した場合、この治験段階の薬剤の影響はずっと目立たないものになると指摘する。

約4,000例の女性がゾレドロン酸の年1回注入を3年間受けた。全体でゾレドロン酸群の52 例の女性すなわち1.4%が研究期間中に股関節骨折を経験した。そして対照群では88例の女性すなわち2.5%が股関節骨折を経験した。

言い換えると、ゾレドロン酸群の36例の女性が股関節部骨折を免れたことになる。股関節部骨折の頻度における2群間の絶対的な差にすれば約1%である。これはメデイアをそれほど興奮させるような続計値ではないとHadler 博士は述べている。 

「もしわずか1例の患者において重要な臨床的利点を得るために100例の患者を3年間治療しなければならないとしたら、私はその治療は効果がないとみなす」とHadler博士は述べている。「2%の絶対的な差があれば確信をもち始める臨床の学者もいる。私は5%の差がなければ確信できない」。

したがって股関節骨折の予防に関するゾレドロン酸の利点は、最低限のレベルに近いように思われる。

脊椎椎体骨折についてはどうか?

しかし脊椎椎体骨折についてはどうであろうか?脊椎椎体骨折の頻度に関してゾレドロン酸群と対照群の間には7%を超える絶対的な差が認められた。脊椎椎体骨折を1例予防するために治療しなければならない女性の数は、一股関節骨折を1例減らすために治療しなければならない数よりもずっと少ないと思われる。ゾレドロン酸はこの分野においてより大きな利点をもたらすのではないか?

Hadler博士は最近の電子メールで異なる意見を述べている。「[ビスフォスフォネートおよび他の骨粗鬆症薬に関する]HORIZONを含むほぼすべての研究において、脊椎の脆弱性骨折は形態計測学的に椎体の高さの20%以上の減少と定義されている。臨床的に意味のあるアウトカムとの相関は、せいぜい弱い相関という程度で、全般的にははっきりとしない」。

これらの骨折は、疼痛、機能障害、または治療の必要性には密接に関係しないことも多い。実際、この研究において形態計測学的な、骨折のうち臨床的に重要なものは少数にすぎなかった(プラセボ群2.6%に対しゾレドロン酸群0.5%)。

多くの患者および医師は形態計測学的な脊椎骨折や少数の臨床骨折を主要な治療の対象にはしないと思われるし、それを避けるために潜在的な危険性を伴う長期療法を受けることを正当と評価することもないと思われる。

しかしながら、これは異論の多い領域であり、骨量減少や加齢による脊椎骨折の重要性、そして骨減少症患者における薬物療法の必要性に関しては多様な見解がある。

この話題について幾分異なる見方を知るため、読者には2007年5月31日号のNew England Journal of Medicine のClinical Practiceの欄に掲載された「Osteopenia」というタイトルの最新の論説を参考にすることを勧める(Khosla and Melton.,2007を参照)。

Hadler博士の論説とSundeep Khosla博士、Joseph Melton V博士の臨床論説のいずれも、骨減少症の薬物療法には不明な点が多くあることを指摘している。選択肢の中から特定の治療を選択する前に、まず、このヒトの加齡の一般的な特徴に対する様々な治療法の長所と短所を十分な時間をかけて議論すべきである。言い換えると、患者も医師も、最新かつ著しく誇大な宣伝の治療法に直ちに飛びつくことのないようにすべきである。

参考文献:

Black D et at. , Once-yearly zoledromic acid for treatment of postmenopausal osteoporosis ,
New England Journal of Medicine, 2007;356: 1809-20.

Compston J, Treatments for osteoporosis-looking beyond the HORIZON, New England Journal of Medicine, 2007; 356:1878-80.

Hadler N, Osteoporosis: Is aging a disease?,ABC News, May 8, 2007; see
http://abcnews.go.comhlealth/ActiveAging/story?id=3 153023&page=1 or go to ABC news.com and enter "Hadler" intothe search engine.

Khosla S and Melton LJ 3rd, Climica1 practice: Osteopenia, New England Journal of Medicine, 2007; 356:2293-2300.

The BackLetter 22(6): 61, 68, 71, 2007. 

加茂整形外科医院