夕刊フジ2019.10.26




ガマンは禁物


急性痛と慢性痛
痛みの種類で適応する薬は違う!

痛みをなんとかしたいときに、多くの人がまず頼るのが、痛み止めの市販薬だ。ロキソニンやバファリンなどが有名だが、痛み止め薬にお世話になったことのない人は少ないくらいだろう。

しかし、痛みは他の体の不調、病気に比べて軽視されがちだ。「このくらいの痛みならがまんしよう」「なるべく薬を使わないようにしよう」と考える人は、一般の人ばかりでなく医療従事者にもいる。

慢性痛への誤解にいち早く警鐘を鳴らしてきた、加茂整形外科医院(石川県小松市)の加茂淳院長は、痛みが出たら長引く前に、適切な薬をしっかり飲むことが大切だと説く。

「悪性腫瘍(がん)、感染症、リウマチ、痛風。これら4疾患以外の痛みであれば、痛みが初期のうち、つまり急性期のうちに薬をしっかり服用して、慢性痛になるのを防ぐことが大切です」(加茂院長)

急性痛と慢性痛では、治療薬が違う。急性痛は、先ほど述べた、いわゆる痛み止めの薬、解熱鎮痛薬やNSAIDs(エヌセイズ=非ステロイド性消炎鎮痛剤)と呼ばれているものが効く。これらの薬は、炎症を抑えることによって、炎症に伴う痛みを軽減することができるためだ。

慢性痛は、炎症性の痛みではなく、簡単に言うと、神経の痛覚と、その信号を受信する脳が過敏になってしまった状態だ。そのため、ちょっとした刺激でも痛みとして過敏に反応してしまう。加茂院長いわく、壊れて過剰反応する火災報知機のようなものだ。

同じ部位に3カ月以上痛みがある状態が慢性痛と定義されるが、急性痛と慢性痛の重なった痛みもある。そのような場合は、「患者さんを診ただけでは判断できないので、どの薬が効くかどうかで判断します」。
慢性痛に処方されるのは、トラマドール(商品名トラムセット)やプレガバリン(同リリカ)など、神経細胞の過剰興奮を抑制するような作用を持つものだ。

ただし、正しく服用するためには、長期連用は避けるべきで、漫然と飲み続けてはいけない。横浜市立大学附属市民総合医療センター・ペインクリニックの北原雅樹診療教授は話す。

「例えばロキソニンという鎮痛薬であれば、長期服用で胃潰瘍や腎機能障害を起こす可能性があります。あくまでも炎症を伴う痛みに対して、炎症を抑えることで痛みをなくす作用ですので、必ずしも長期投与を想定していないのです」
痛みに苦しんでいるときは、睡眠もままならず、痛み止めとともに睡眠薬も処方されることが少なくない。これも長期の服用は想定されておらず、漫然と飲み続けると問題が起こりやすい。
「痛くて目が覚めるのと、目が覚めたら痛いというのは全く違います。目が覚めたら痛いのは、睡眠に対処すべきで、睡眠薬を一時的に処方するのも一つの方法でしょう。しかし、痛くて目が覚めるのであれば、痛みをとってあげなければいけないのです」(北原医師)

慢性痛の治療には、筋弛緩薬を使う病院もある。北原医師によると、この薬は直接的に筋肉を緩めるわけではなく、中枢系(脳と脊髄)の神経に働きかけて、簡単に言うと頭をボーッとさせることによって、間接的に筋を弛緩させるものだ。そのため、ふらついたり眠くなったりして、車の運転が危うくなったり、高齢者が昼間に飲むとボーッとしてしまったりするそうだ


対症療法を講じつつ「痛み」の根本原因を根気よく探そう!

  

痛みとは、体の「警告」で、生命維持に必須の機能だ。しかし、その機能が過剰になると、痛み自体がヒトに危害を及ぼすことになる。痛みのメカニズムを簡単に説明すると、急性痛はもちろん慢性痛でも、どんなに検査をしても体の問題が見つからない痛みでも、その始まりは、ケガや同じ姿勢などの外からの力から来ている。
         

外から力がかかり、体に問題が起こると、そこから痛みを起こす物質が分泌される。それを受容器細胞が受け取り、電気信号に換える。電気信号は神経を伝って、脳に送られる。脳はそれを受信し、痛みを感じる。痛みを感じると、筋肉に司令を出す交感神経が緊張し、筋肉が反射的に緊張する。

この一連のメカニズムが短時間あるいは数回程度で終われば、痛みは慢性化することはない。しかし、痛みが長引いて、受容器や脳が過敏になったり、交感神経がストレスなどで常に緊張していたりすると、通常なら痛みと感じないような刺激でも、痛みと感じてしまうことが頻発。

そして、痛みの悪循環、つまり慢性化が起こる。また、痛みが元の部位から広がってしまうこともある。このような慢性痛が筋肉で起こっている状態を、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)という。加茂整形外科医院(石川県小松市)の加茂淳院長によると、多くの慢性痛はMPSが関係しているという。

「痛みが肩で起こると五十肩、腰で起こると腰椎すべり症や腰椎椎間板ヘルニアや脊柱菅狭窄症、腰からお尻までにしびれがあると坐骨神経痛、膝の軟骨が減って痛いというと、変形性膝関節症、という名前がつきます。しかしこれらの本態は、筋肉の痛みであるMPSであったり、MPSの痛みが混在していたりすることがほとんどです」

横浜市立大学附属市民総合医療センター・ペインクリニックの北原雅樹診療教授も、MPSについてこう話す。
「筋肉に対する過剰な負担と、十分な休息をとっていないことによって起こる筋肉の異常な痛みです。多くの人が研究していますが、いまだによくわかっていません。本当に筋膜で問題が起こっているかどうかすら実はわかっていないのです」
MPSの治療法についても、現在多くの研究がなされている。しかし「トリガーポイント」「圧痛点」と言われる、痛みの元となっていると考えられる部位に対して物理的な刺激を加えると痛みが緩和することは、実は古代から知られていることだ。

その部位を刺激するのに、鍼でも指圧でもマッサージでも温熱でもよい。加茂院長は長年の経験から、圧痛点に麻酔薬を注射する「トリガーポイントブロック療法」を行っている。北原医師も、必要と診断した患者に鍼を打つ「筋肉内刺激法」を行うことがある。さらに近年は、「筋膜」に注目し、そこに存在するとするトリガーポイントに注射をしたり、固まってしまった筋膜を体操で伸ばしたりすることで「リリース」するという治療法や体操が出てきている。これらのどの治療法でも、目利きの医療者が施術すれば効果はあると両医師は言う。

しかし、これらはどんなに効果があっても対症療法だ。痛みを慢性化させないためには、痛みを取るあらゆる手立て、つまり対症療法を講じつつ、一人一人に合った根本の治療法を地道に探す必要がある。食事療法をして体重を減らしたり、運動をして筋力をつけたりすることも、実は大切な治療だ。また、人まかせにせず勉強をし、自ら病院、医師を選ぶことでも、根治に近づいてほしい。(石井悦子)


加茂整形外科医院