「腰痛は終わる!」を読んで


アメリカ、イギリスの腰痛治療のガイドラインの解説。

腰痛の人はもちろん医療に携わる人は読む価値のある本です。今後の腰痛治療の方向性を示しています。

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やや重箱の隅をつつく感もありますが私なりの感想を書きます。


p17 腰痛の本当の原因が解明されていない

腰、背中、肩、頚、尻、大腿、膝、下腿、上腕、肘、前腕・・・・連続しているものを細分化してもその境界線はどこなのか明確にできるわけではありません。また、腰痛と背痛のメカニズムが違うというのもおかしなことになります。つまり筋骨格系の痛みとおおざっぱにまとめるのがもっとも合理的でしょう。

腰痛の本当の原因が解明されていない=背痛の本当の原因は解明されていない=頚痛の・・・=肩痛の・・・=膝痛の・・・ということになってしまいますね。つまりある部分(腰)だけを特別扱いする根拠も必要もないのです。

実際の治療においても部位ごとに異なった観点で治療しているわけではありません。侵害受容性疼痛なのか、神経因性疼痛なのか、極めて大きく心因に関係した疼痛なのかと急性痛、慢性痛で治療法を選んでいます。

筋骨格系の痛みのほとんどは侵害受容性疼痛であるということについて異論はないと思います。侵害受容性疼痛がおきるメカニズムはかなりな程度まで解明されていると思います。痛みの本態はほとんどの場合、筋筋膜性疼痛です。

近年の生理学的知見をもう少し強調してもよいのではないでしょうか。

p17 効果的な治療法が存在しない

原因が解明されていないという立場なら、そういうことになりますね。

ほとんどの急性の腰痛については筋筋膜性疼痛(侵害受容性疼痛)でそれをを解除してやることが効果的です。慢性化するメカニズムもある程度は判明しているわけですから慢性化をいかに防ぐかも大事なポイントです。

p32 骨粗鬆症も単なる老化現象にすぎない

病的な骨粗鬆症が問題なのです。骨粗鬆症のために大腿骨頸部骨折や椎体の圧迫骨折や手首の骨折が起きないようにという目的で治療するのであって、痛みとは直接関係ありません。

p73 まず「非特異的腰痛」というのは、腰椎部、仙骨部、臀部、大腿部の痛みを訴える場合です。

特異的腰痛とは骨折、悪性腫瘍、感染症に起因する腰痛のことだと理解しています。

よって、非特異的腰痛とは骨折、悪性腫瘍、感染症以外の腰痛のことというのが一般的ではないでしょうか。

上記のような説明だとなぜ膝から下を特別扱いにするのか根拠がありません。

p73 「神経根症状」というのは、腰痛よりも下肢痛(片側)のほうが強く、膝から下あるいはつま先まで痛みが放散したり、しびれや知覚異常、筋力低下を伴う場合です。

なぜ膝から下を特別扱いしなければならないのでしょうか。ヘルニアが原因でないとすれば何が原因で「神経根症状」を呈するというのでしょうか。

「神経根症状」とは痛みなのか神経脱落症状(麻痺)なのか、その定義は?

p102 慢性腰痛に対して「抗うつ剤」が処方されることがありますが、無作為対照試験ではプラシーボより優れているという証拠は示されていません。

慢性腰痛=うつ、ではないので当然ですが、うつの症状として腰痛があるのはよく知られていることです。慢性腰痛がうつによるものかどうかを診断しなければなりません。もしうつによるものならば抗うつ薬は効果があると思います。

p135 マニピュレーションに効果はあるか   急性腰痛には一時的な効果も

何をもってマニピュレーションというのか、何をもってモビリゼーションというのか、指圧をしているのかマッサージをしているのか、いったいその行為をどういう理由でそうとらえるのかということです。たとえば評判の悪い腰椎牽引にしたって機械を用いたマニピュレーションとはいえないのか、マニプレーションは手技という意味なので矛盾しますが^^。

p142 トリガーポイント注射の効果はプラシーボか

トリガーポイント注射のテクニック、量、箇所などある程度洗練されないとその効果は望めないと思います。これは鍼にもいえることでしょう。いったいなにをもってトリガーポイント注射というのかということです。局所麻酔は極めて安全な薬剤でまた書いてあるような副作用は経験したことがありません。

我田引水の面もあるが、必要のない痛みはできるだけ早く止めるべきだという考えがあります。安全で確実な方法は活動しているポリモーダル侵害受容器を遮断してやればよい。腰痛以外の筋骨格系の痛みの治療としても、また痛みの検査として大いに活用すべきことではないかな。

p145 ただし、保存療法に反応しない神経根症状のある患者にかぎり、手術を避ける手段としてステロイド剤による硬膜外ブロックを一時的に用いてもかまわないとしています。

根症状とは?どうしてステロイドをつかうといいのか?一時的ならその後はどうしたらいいのか。このあたりはガイドラインの作者はよくわかっていないのではないかな?

p168 「非特異的腰痛」「神経根症状」「危険信号」

この分類は前記したように理解にくるしむ。非特異的腰痛の定義?、神経根症状の定義?

p169 骨盤牽引には効果がなく

牽引は機械を使ったマニプレーションということができるのではないか。このあたりは言葉遊びになってしまうが、中にはとても効くという人もいるのは事実。痛みは個人差が大きい。だから効果が無いことも少なくないの表現が適当でないでしょうか。


(加茂)

痛みの治療の評価は常に相対的な評価です。

欧米では筋筋膜痛 myofascial pain という発想そのものが極端に欠落しているのではないか。

神経生理学者、心身医学の見解がもう少し反映されるべきか。

加茂整形外科医院