線維筋痛症 (特集身体表現性障害)

村上正人*日本大学板橋病院心療内科科長

日医雑誌第134巻第2号2005年5月


線維筋痛症(flbromyalgia syndrome;FMS)は40〜50歳前後の女性に多く(約85〜90%は女性),両側性の僧帽筋,胸鎖乳突筋,大胸筋,大殿筋,大転子領域,膝内側など全身の激しい疼痛(飛び上がるほど痛い(jumping pain)を強く訴え,時に皮膚に触れるだけでも痛いアロデニァ症状もある。アメリカリウマチ学会(ACR)は1990年に診断基準として3か月以上持続する全身の痛みと図1のような18の圧痛点を提唱しており,このうち11以上認められれば線維筋痛症と診断できるとしている。

欧米では関節外リウマチ疾患のなかの最も高頻度にみられる疾患(リウマチ専門クリニックの14〜15%)とされているが,日本ではあまり知られていないため,2003年から厚生労働省の研究班(主任研究者:聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター西岡久寿樹教授)が実態調査を開始している。

FMSは激しい全身の痛みに微熱や全身の倦怠感などを伴っているため,関節リウマチ(RA)や膠原病が疑われてリウマチ科,整形外科専門医などを受診するケースが多いが,炎症反応,自己抗体などの臨床検査やレントゲン検査では異常が認められないため,確定的な診断名に到達できず,的確な治療がなされていないケースも多い。

症状は数年にもわたり消長を繰り返し,行動の制限も来すようにもなるため,FMS患者の苦悩は想像以上に大きい。痛み以外の身体症状として,慢性的な頭痛,易疲労性,過敏性胃腸障害,月経困難症などの不定愁訴が多く,精神・神経症状として睡眠障害,神経過敏,抑うつがある。これらの症状は不安,精神的な緊張,天候や環境の変化,肉体活動に影響を受けやすいなど,いかにも心身症としての様相を呈している[心因性リウマチ(psychogenic rheumatism)とも呼ばれる。

FMS発症の背景には身体的外傷(交通事故,手術,けがなど)や過重な負荷(肉体労働,出産など)が多く認められ,そこにさまざまな心理社会的ストレスが加わり慢性疼痛に発展したと考えられる。FMSの痛み,不定愁訴に対しては,薬剤としては通常の鎮痛薬,抗リウマチ薬ではなかなか症状が改善されないことが多く,抗うつ薬,抗不安薬,筋弛緩薬に加え,生活指導,自律訓練法,認知行動療法などの心理的治療が奏効することが多い。

文献:

1) Wolfe F, Smythe HA, Yunus MB, et al : The American College of Rheumatology 1990 Criteria for the Classification of Fibromyalgia. Arthritis Rheum 1990 ; 33 (2) : 160-172 . 

2) Wolfe F, Cathey MA : Prevalence of primary and secondary fibrositis. J Rheumatol 1983 ; 10 (6) : 965-968. 

3) Yunus MB, Masi AT, Aldag JC : Preliminary criteria for primary fibromyalgia syndrome (PFS) : multivariate analysis of a consecutive series of PFS , other pain patients , and normal subjects. Clin Exp Rheumatol 1989 ; 7 (1) : 63-69.


(加茂)

http://www.tvk.ne.jp/~junkamo/new_page_424.htm

4.慢性疲労症候群と線維筋痛症

以前,アメリカの有名ペインクリニックの看護師に会う機会があり,「まだまだ診断基準も曖昧に思える線維筋痛症という病名を,なぜあなたたちは積極的に使うのか」と尋ねた。彼女から即座に返ってきた答えは「精神疾患では保険が下りないから」であった。慢性疲労症侯群と線維筋痛症をここで取り上げるのは議論も出よう。

精神医学は身体疾患で説明されると積極的な議論を挑まない傾向があるが,両疾患とも精神
医学からみると精神疾患との合併や鑑別に関する研究が少ないわりに臨床に広まったような印
象を受ける。今後,精神医学からの厳密な検討が不可欠である。

加茂整形外科医院