疼痛学序説 痛みの意味を考える   Patrick Wall著 横田敏勝訳



椎間円板の役割について外科医の混乱は、突出した椎間円板を取り除く手術の割合が、国によって大きく異なることに反映されている。10年前に10万人あたり英国では100人、スウェーデンで200人、フィンランドで350人、米国で900人であった。この割合は現在下がり続けていて、神話がばらまかれて、少数の人の利益になるが多くの人の不利益になるような不名誉な時代は終わった。不利益をうけたある人たちは、手術の結果、明らかにいっそう悪くなった。

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除痛のために行なう最も大きい末梢手術は、椎間板ヘルニアの除去術である。一部の外科医たちは、椎骨の動きを制限するための骨移植を同時に行なっている。椎間板ヘルニアの手術は70年以上もの間行なわれてきた。もてはやされたこともあったが、疑問が増し続けている。ヘルニアの突出と痛みはそれぞれ独立していて、痛みの発現におけるヘルニアの突出の役割ははっきりしない。椎間板ヘルニア溶解術のプラシーボ対称試験のため、全身麻酔下に特に害のない液を注入したところ、その後の回復率が非常に高かった。ヘルニアが運動神経を切断して運動麻痺を生じることが証明されたように思われていたが、痛みがあると中枢性の効果によって筋肉が消耗するので、今では疑わしい。

以前この手術を熱烈に支持していたマイアミ大学は、今ではこの手術をやめて、厳密なリハビリテーションのプログラムを採用している。

またもや、手術が有効なのか、暗示によるものか、それとも痛みの明らかな発生源部位組織の何か非特異的な撹乱によるものか、全くはっきりしない。


腰痛の手術に対する警鐘

情報だけの治療室より

日本整形外科学会 [腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン]より

腰椎椎間板ヘルニアでは多くの症例が自然経過ないしは保存療法だけで改善を示すが、不幸にして手術に至る症例も認められる。椎間板ヘルニアに対して手術を受けた患者に関する各国の統計をみると、米国では10万人中45〜90人、フィンランドでは35人、スウェーデンでは20人、英国では10人と報告されている。しかしながら、ヘルニア患者の全体数の統計は認められないので、ヘルニア患者のなかでどの程度の患者が手術に至るのか正確にはわからない。腰椎椎間板ヘルニア患者のなかでどの程度の割合で手術が選択されることになるかを知るためには、徹底的に保存療法を行ったシリーズで手術に至った患者の割合や、RCTで保存療法に割り当てられた患者のなかで手術に至った患者の割合が参考になる。

後方手術では部分椎弓切除による椎間板ヘルニア切除(Love法と略)が最も標準的な術式として数十年間にわたり、全国の大学病院だけでも年間1万人を超す患者に施行されている。

加茂整形外科医院