第2章 涙の花火

ともこは彼が長岡に帰ったあと、仕事が終わると毎日ボーっとしていた。
彼のいた別室で仕事しながらも、そこにいるはずのない彼の姿を探してた。
仕事で分からないことがあると彼の会社に電話して、彼の声を聞くことだけが楽しみだった。
彼とは毎日のように夜、電話で話していたのだが・・、やっぱり会いたい。
どちらからも電話を切ることが出来ず、いつも必ず2時間以上話してた。
長距離電話なので、親にかなり怒られた。「あんたけっ、電話代!!何万かけとるんけ!」
でも、やめられないもんね・・。

長岡の花火大会・・当然行くことにしたともこは、親に「しずちゃんと行ってくるわぁ」と、ウソをつき
出かけた。
彼が帰ってしまってから2週間ほどたっていた。たった2週間だったけど、ともこにとってみれば
2年にも20年にも思えた(ちょっと大げさか・・)。
長岡まで車で2時間半ほど。
当時、北陸自動車道はまだ片側一車線の対面通行でほとんどトンネルだった。
この道の先にはユウ(彼の名前)がいるんだ・・、ともこはそればかり考えてた。
長岡のインターチェンジに到着すると彼が車で迎えに来てた。
ユウ!!いきなり抱き合い濃厚なキス・・・
と、いうこともなく「おう、久しぶり」と一般的なあいさつ・・。
とりあえず、ともこの車をどこかに置こうということで、ある店の駐車場まで移動し、そこから
彼の車に乗って、いざデートに出発。
花火大会の前日に長岡に来たということは・・とうぜんお泊まり。
(/o\)イヤーン・・(//o//)ゞデレ〜〜〜
昼はいろんなところをドライブして、お得意のゴルフのショートコースとかに行ったりして、
ともこと彼は2週間会えなかった分を全部取り戻した感じだった。
夜は万代橋を手をつないで渡り、川沿いにあるおしゃれなショットバーでおしゃれなひとときを
過ごし、ともこはホントにマジで幸せだった。
その日は新潟市内で熱い夜を・・・。(//o//)ポッ
時間よ止まれーーーっ、ともこはそう思ったのだった。

翌朝、ホテルの部屋に一本の電話。
どうやって探し当てたのか、ともこの母親だ・・「あんた、しずちゃんは?しずちゃん出してみ」
ひぇ〜〜バレてるぅぅぅ。バレてると分かっていながらも「今シャワーしてるし」とバレバレのウソ。
まぁ、彼がそのときシャワーしていたのは確かだが・・。
ともこはとりあえず電話を切り、重い空気が流れた。
彼は一言・・「花火見ないで帰る?」
「なんで?」とともこ。
彼「帰った方がいいよ。じゃないと、とも大変なことにならない?」
ともこ「それでもいい・・」
彼「でも、やっばり帰った方がいいよ」
ホテルをチェックアウトし彼の車に乗って長岡へ向かうが重い空気。
これ以上ダダをこねても彼に迷惑をかけるだけだと思ったともこは、彼の言うとおり明るいうちに
帰ることにしたのだった。

長岡に向かう車の中もかなり重い空気・・その空気にともこは耐えきれず涙がこぼれた。
彼の方も、自分にはどうしてやることも出来ないもどかしさから、イライラしているのが
ともこにも分かった。
しかし、ともこには、彼と一緒に花火を見れない悲しさよりも、彼がイライラしている方が
悲しかった。
「ねぇ、ちゃんと帰るから・・何怒ってるの?」涙声でともこは言った。
「ゴメン、オレどうしてあげることも出来ない」彼も辛そうに言った。
2人は長岡市内へ入った。
「オレ、荷物だけ家に置いてくるよ」彼は自宅近くに車を止め荷物を置きに家へ入った。
『あーあ・・、帰る場所が一緒ならな・・』ともこは彼の後ろ姿を見つめながらそう思った。

彼が車に戻り、再び車を走らせた。
しばらくして小高い丘の上まで来たところで・・
「とも、ここがオレの住んでるところだよ」と彼。
窓の外を見ると彼の住んでいる町が一望できた。
「ともこに一度見せたかったんだ・・・オレのこと忘れないで」
「えっ、何でそんなこと言うの?忘れるわけないっ。忘れられるわけないっ」ともこの目からは
また涙がこぼれた。「もう会えないの?これで終わりなの?」
「そうじゃないけど・・」と彼。「ともこ・・愛してるよ」
彼は、ともこをしっかりと抱きしめた。

だんだん日も傾きはじめ、
「じゃ、行こうか」彼は、車を走らせた。
ともこの車を止めてあった駐車場に到着。
彼は「オレ、上越まで送っていくよ。そこから電車で帰るから・・一緒に行こう」
上越は長岡と富山のほぼ中間地点である。
2人はともこの車に乗り、彼が運転して上越へ向かった。その車の中でも、ともこは泣き疲れ
放心状態に近かった。
上越に到着したとき、彼は何を思ったか、またすぐにUターンして高速に乗った。
「え・・どーしたの?」彼の横顔を見つめるともこ。
「やっぱり、ともこと一緒に花火見たいから・・長岡もどる・・いいか?」
「あ・・うん。ユウの方こそ大丈夫なの?」
「オレはぜんぜん平気」
ともこの顔に笑みが戻った。
「間に合うかな・・」

長岡のインターはだいぶ手前から渋滞していた。
ドカーン・・(花火の音)
「あ・・始まっちゃった。やーんせっかく戻って来たのにぃぃ」
何とか花火をやってる間にインターを過ぎ、花火が終わったらそのまま帰れるように
彼と運転を交代し、橋の上の一番よく見える場所に来た。
彼の顔越しに花火が見える。
ともこは、ホントは花火なんてどーでも良かったのだ。彼と少しでも長く一緒にいたかっただけ。
この花火が終わると彼はこの車を降りる・・そう考えると涙が止めどなくあふれた。
「とも・・見えてる?」
「見えるわけないよ・・涙、止まらない」
「ほら」彼は指でともこの涙を拭い、「これ見るために戻ったんだろ〜」
それでも、ともこの涙は止まらなかった。
午後9時、花火終了
「終わったね・・オレ行くよ。気を付けて帰れよ」
「いやーん!行っちゃイヤッ」無駄な抵抗だったが、言わずにはいられなかった。
「また電話するよ」今度は、ともこの涙を彼の唇が拭った。
彼が車を降り、ドアを閉める。渋滞の列の中にいたから、ともこはこのまま帰るしかなかった。
長岡インターまで500mほどのところにいたのに、インターについたのが午後11時。2時間も
かかってやっと高速に乗れた。
2時間も渋滞でノロノロしてたら、涙もさすがに出なくなり、高速に乗ったら人が変わって
しまうともこ。普段、2時間半かかるのに1時間50分で家に到着。
途中、「この車、何キロまで出るんだろ・・」と思い、180キロほどで走っていたのだ。
『うーん、今までの最高速度だわ』などとバカなことを思う余裕さえあった。

家に入ったのが、2時近かったのでみんな寝ていた。泣きはらした顔を見られることもなくベットに
潜り込んだともこ。翌朝、よりいっそう目が腫れてかなりブサイクな顔になっていた。
出勤時間が遅かったので、ともこが起きる頃にはみんな出かけていて、その顔も見られることは
なかったのだか・・。
職場で、「またフラレたんですか」とドキッとする一言をもらったのだ。

それからまた、ともこにはいつもの生活が戻った。
何となく仕事をし、家に帰り家族と食事をし、部屋で彼からの電話を待つ・・・。
そんな普通の生活。しかし、ともこの心の中は普通ではいられるはずもなかった。
会いたい・・ユウに会いたい。頭の中も心の中もそれでいっぱいだった。

             

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