全般性不安障害とは?

心配が次々に現れて、心を占領してしまいます。

好きになる精神医学  越野好文  志野靖史  講談社サイエンティフィク


(1)全般性不安障害とは?

●心配事が次々に現れて、心を占領してしまいます。

全般性不安障害も、ごく最近知られてきた病気です。日常生活では誰でも不安や心配になることがありますが、それには理由や根拠があり、なんとか耐えることができます。しかし、この「全般性不安障害」の不安はとりたてての理由もなしに、ふと、こころに浮かびます。対象を変えながら途切れることなく、次々と現れます。

また、絶えず、何か悪いことが起こるのでないか、失敗するのでないかといったような心配事に心が占領されて、気持ちのやすらぐときがありません。そしてこのとき特徴的なことは、心配事の内容が日常的な出来事で、仕事の責任、家の経済状態、家族や自分の健康などで、周囲の人からみれば“取り越し苦労”的なものが多いことです。そして、本人も心配しなくてもよいということがわかっていることが多いのです。しかし、いくら大丈夫、問題ないと自分にいいきかせても心配をコントロールできません。

いわば、“取り越し苦労”が1つ生まれると、その心配は次の心配を呼び寄せます。間断なく数珠つなぎになって心配事が現れる状態と考えてください。

取り越し苦労とはいえ、常時、心配事をかかえていることは、大変なストレスです。イライラしやすく、リラックスできません。このような状態が長期間続くと疲れやすく、物事に集申できなくなります。こころだけでなく、身体的にも筋肉が緊張して肩や首がこったり、筋緊張性頭痛、筋肉のけいれんを生じます。そのうえ寝つきが悪く、眠りが浅い睡眠障害を引き起こします。

全般性不安障害の生涯有病率は約3〜5%と非常に多い病気で、女性に多くみられます。しかしこの病気のために精神科を受診することは少なく、心配し続けた結果生じる身体の変調の治療を求めて、精神科以外の科を受診するケースが大部分です。

またパニック障害をはじめとする不安障害やうつ病などで受診した患者さんを注意深く診察すると、全般性不安障害も同時にもっていることが見つかる場合がよくあります。訴える症状の中に「不安」が含まれている患者さんの30〜40%に、全般性不安障害がみられるという報告もあります。

(2)治療

症状の中でも、身体的な緊張や不眠は抗不安薬のベンゾジアゼピンによって速やかな改善が期待できます。連鎖的に現れる不安・心配に対しては、効果が現れるまでに多少時間がかかりますが、SSRIの有効性が期待されています。

心理療法では、自分の不安・心配の受け止め方が偏っているのではないかと検討し、認知の誤りを訂正する認知療法が有効です。

全般性不安障害の患者さんは、過剰な不安や心配との長年の付き合いから、自らを“苦労性”とか“心配性”と形容し、性格的なものと思いこんで、病気の可能性に気がついていません。悪いことを予感し、それを避けるために日常行動も狭い範囲に限られ、生活の質は低下しています。病的な不安を治療するためにも、全般性不安障害の正しい知識が大切といえます。

(3)全般性不安障害の症例

典型的な例として、全子さん(女性)、29歳・会社員のケースをを紹介します。

●全子さんの例

大企業に就職後、周囲の人に気をつかい続け、失敗しないようにと常に緊張した生活を送ってきました。仕事に落ち度がないようにとか同僚に嫌われないようになど、いつも緊張していました。周りの人からは、「そんなに何でも心配しなくてもいいのに」とたびたび言われていました。

のんびり仕事をしている人が羨ましく思えて、自分でも先回りして心配することはやめようとか、実際に物事が起きてから考えようとか反省しても、実際には悲観的な考えが次々心に浮かんで離れなかったのです。

たとえば、会社では電語が鳴れば悪いことが起きたのではないかと不安になり、家へ帰っても提出した書類に間違いがあったのではないかなど、心配ばかりしていました。とうとう頭痛や肩こりも加わって病院へ行きました。

「全般性不安障害」という聞いたことはなかったけれども、潜在的には多くの人が苦しんでいる病気だと診断されました。

その後、精神科での治療によって病的な心配から解放され、心に余裕が生まれ、周囲の人からは明るくなった、性格が変化したといわれることも多くなりました。でも考えてみれば、性格が変わったのではなく、元来明るい性格だったのですが、周囲に気をつかいすぎ、本来の自分を抑えていたのです。治療により学生時代のように特に緊張することもなく、リラックスして働けるようになりました。


http://www.tvk.ne.jp/~junkamo/new_page_297.htm

http://www.tvk.ne.jp/~junkamo/new_page_361.htm

http://www.tvk.ne.jp/~junkamo/new_page_356.htm

加茂整形外科医院