
このような痛みやしびれを訴えている患者さんにMRIの検査をして椎間板ヘルニアがあれば、「椎間板ヘルニア」という診断になるのだが、ヘルニアがない場合の診断はどうなるのだろうか。
表1:腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会提唱の診断基準
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腰・下肢痛を有する(主に片側,ないしは片側優位)
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安静時にも症状を有する
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SLRテストは70°以下陽性(ただし高齢者では絶対条件ではない)
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MRlなど画像所見で椎間板の突出がみられ,脊柱管狭窄所見を合併していない
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症状と画像所見とが一致する
「症状と画像所見とが一致する」この症状とは神経学的所見、つまり知覚麻痺や運動麻痺のことであろうが、神経原性の知覚麻痺や運動麻痺をみることはない。
症状=痛みやしびれ、とするならば、これらが画像所見と一致するという言い方は奇妙だ。他人の痛みやしびれが画像で分かるということか?
それはさておき「症状と画像所見とが一致しない」場合の診断はどうするのだろうか?
ヘルニアがなかったとき、画像所見と一致しない(?)場合の診断はどうするのだろうか?どのような診断の可能性があるのだろうか。鑑別診断はどのようなものがあるのだろうか。

このような症状を呈する疾患は

これ以外には何があるのだろうか?あるとすればそれを鑑別診断として表記すべきだ。

このような痛みやしびれを呈する疾患は

「筋・筋膜性疼痛症候群」だと思っている。

Myofascial Pain Syndrome
(筋筋膜性疼痛症候群)の鑑別診断
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内臓疾患(虚血性心疾患、消化器潰瘍、胆嚢疾患)
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感染症(ウイルス、細菌、寄生虫)
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新生物(悪性腫瘍)
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精神疾患に伴う痛みと行動
THE
DIAGNOSIS AND TREATMENT OF FIBROMYALGIA
Michael Wolk, MD, FAADEP
筋筋膜性疼痛症候群(myofascial pain syndrome)の類似疾患「線維筋痛症」との違いは記載されている。また鑑別診断は上記のように「椎間板ヘルニア」は記載されていない。つまり、椎間板ヘルニアによるという概念そのものがないのだ。私もそう思う。
一方、ヘルニアが原因だとすると、その鑑別診断に「筋筋膜性疼痛症候群」があげられているであろうか?あまり聞いたことがない。その存在そのものを否定するのであろうか。
「神経根ブロックをして痛みが消えたから、根性疼痛だ」ということを聞くことがある。これは正しくない。筋筋膜性疼痛でも、根ブロックで消えることはある。
私は「ヘルニア」と診断された患者さんを「筋筋膜性疼痛症候群」と診断して診療してきた。
ヘルニアが原因とするなら、安静、硬膜外ブロック、神経根ブロック、MRIの頻回検査(消失を期待して)、手術などが考えられる治療手段だ。
筋筋膜性疼痛症候群が原因とするのなら、MRI不要、硬膜外や神経根ブロックに代わってトリガーポイントブロック、マッサージやストレッチ、安静に代わって認知行動療法。
経済的、心理的、副作用、治癒、再発、不安感などどちらが患者さんにとってよいだろうか。