ヘルニアといわれたら安心です

生理学的矛盾、統計的矛盾、臨床経過的矛盾

 

ヘルニアに関する文献はこちらから ブログ心療整形外科・ヘルニアの矛盾

 

「ヘルニアが痛みの真犯人説」にはいろいろな矛盾があることを医師は知っていますが、その矛盾に正面から答えようとしません。矛盾は医学につきものの例外としてかたづけているようです。権威ある医師の書いた医学書を唯一のバイブルとして思考が停止しているかのようです。

手術してもよくならない患者さん、再発を繰り返す患者さんとじかに接することの多い理学療法士や看護師のなかには「何かおかしい」と感じている人も多いことでしょう。

  1. 健常者の中にもかなりヘルニアがみられる。
  2. ヘルニアが圧迫している神経支配領域と痛みの場所がちがうことが多い。左右のちがいがあることもある。
  3. 神経を圧迫すると痛みがでる??,これは患者さんは疑問に思わないかもしれないが、生理学を勉強したものにとっては疑問です。ギプスなどで神経が圧迫されると麻痺が生じます。
  4. 神経根が炎症を起こすと痛みがでる??,物理的な圧迫でなくて化学的な変化で説明を試みる人もいるが、たとえそうだとしても、なぜ痛みが生じるのか。
  5. 神経の走行に沿って圧痛があるといわれているがその理由は?
  6. 保存的治療で治ることが多い。圧迫を放置すると不可逆的変化が生じると考えるのが普通です。
  7. 手術で除去しても治らないことがある。
  8. 神経根ブロックや硬膜外ブロックが効かないことがある。

これらの疑問、矛盾に明快に答えたものをみたことがありません。それなのにヘルニアを痛みの真犯人とするのは強引すぎます。激論を戦わせてもこの説は勝ち目がありません。

ヘルニアと痛みは無関係です。では手術でよくなる人がいるのはどうしてでしょうか。全身麻酔で手術した場合、麻酔による脳のリセット、筋弛緩剤による筋肉の完全リセットの効果ではないでしょうか。またカイロや整体でよくなる人がいるのと同じことで「痛みの原因を退治したという儀式」で脳が沈静化することもあるからでしょう。いろいろなタイプのヘルニアがあるのではなくていろいろなタイプの脳があるといわざるをえません。痛みの真の原因は生理学的不具合なのですからどのような方法を用いても結果的にそれが収束する可能性はあります。

思い込みや印象に基づいた医療を卒業して、痛みのメカニズムに基づいた医療を!!mechanism-based medicin

ヘルニアを摘出してすぐに痛みが取れることもあります。これは手術をすることによって、痛みの原因の真の原因である筋肉spasmがとれたためです。しかし、また痛みがぶり返すこともしばしばあります。

  • 手術という儀式的な効果

  • 全身麻酔による筋弛緩効果、脳のリセット効果

  • 術中の体位のカウンターストレイン効果

内臓の手術を受けて、ヘルニアの性だと言われていた痛みがなくなった症例です。

http://junk2004.exblog.jp/i26/

統計的矛盾  

MRIによる健常者の年齢別異常検出率  

BodenS.D.et al(J Bone Joint Surg Am 1990)

 

腰椎椎間板ヘルニア患者のなかでどの程度の患者が手術に至るか

要約:強い症状を呈するか病状が長期に及ぶ腰椎椎間板ヘルニア患者群において、手術に至るのは10〜30%程度である。 (Guide C)


椎間板ヘルニアに対して手術を受けた患者に関する各国の統計をみると、米国では10万人中45〜90人、フィンランドでは35人、スウェーデンでは20人、英国では10人と報告されている。


以上、日本整形外科学会 「腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン」より抜粋

 

正常人における腰椎MRIの異常所見の頻度

その結果、98人中52%に少なくとも1椎間以上の椎間板膨隆が見られ、27%に椎間板突出が、1%に椎間板脱出が見られた。

無痛性胸部椎間板ヘルニア

以前の研究で、Wood医師らは無痛性椎間板ヘルニアが極めて一般的な所見であることを明らかにしている。平均年齢40歳の無症状の被験者60人のうち、37%に明らかな椎間板ヘルニア、53%に椎間板膨隆、58%に線維輸断裂を認めた。同様に症状を伴わない脊髄の変形も29%と驚くほど多くの被験者に認められた(Journal of Bone and Joint Surgery,1995;77-A(11):1631-1638を参照)。

従来の説明

腰痛と坐骨神経痛ー最近の基礎的・臨床的知見ー

神経根・後根神経節の異所性発火の亢進

坐骨神経痛に代表される神経根性疼痛は、椎間板ヘルニアなどにより神経根が刺激されることにより生じる。ただし、正常な神経根を圧迫しても疼痛は発生せず、炎症などによる障害神経根あるいは後根神経節(DRG)の圧迫により痛みを引き起こす。このような痛みの発生機序を異所性発火(ectopicfiring)と呼ぶ。異所性発火は、先に述べた椎間板由来の発痛物質により惹起される。また、交感神経が後根神経節の周囲に枝を仲ばし(sympatheticsprouting)、交感神経活動が疼痛を誘発することも持続性の異所性発火に関与している。

異所性発火では、下肢などにできる圧痛点を説明できません。

「神経が押さえられているから痛い、又は、神経が炎症を起こしているから痛い」これは生理学上正しくはありません。間違いなのです。「神経が押さえられると麻痺が生じる」なら、正しい表現ですが、ヘルニアによって下肢に麻痺が生じた人は見たこと、聞いたことがありません。  

臨床医の痛みのメカニズム 横田敏勝 著 (南江堂)

神経痛の発作に、末梢機序と中枢機序の両方が関与する。末梢機序の第1は、異所性のインパルス発生である。痛覚線維の生理的興奮は、その末哨の自由終末にある痛覚受容器(侵害受容器)が刺激されたときにみられる。自由終末と脊髄を継ぐ部分からインパルスが発生することはめったにない。痛覚受容器を介さずに神経線維からインパルスが発生することを異所性興奮という。異所性異奮を生じる可能性が高いのは、脱髄部および傷害された末梢神経の側芽と神経腫である。これらについてすでに説明した。損傷された神経線維の再生が始まると、神経線維から側芽が伸びる。側芽は自発的に興奮する。軽い圧迫に反応してインパルスの発生が増加する。四肢の末梢神経で再生が進行しているとき、神経の走行に沿って打診すると、四肢の末梢部にジンジンビリビリ感があったり、針で刺されたように感じるTinel症候(Tinel.1918)もこれで説明できる。また、交感伸経節後線維から放出されるノルアドレナリンにも反応する。同様な性質は、側芽を出す一次感覚ニューロンの細胞体でも認められる(Wall and Devor、 1983;Study and Kral.1996)。

ヘルニアのせいと言われている痛みの本態は何なのか?

痛みは、侵害性疼痛、癌性疼痛、神経因牲疼痛および心因性疼痛に分けることが出来る。

痛み特に難治性の痛みとその対策

神経因性疼痛とは神経繊維そのものが損傷しているために起きる痛みで極めて難治で、消炎鎮痛剤は効かない。帯状疱疹後神経痛、幻視痛、カウザルギーなど限られたものです。

ヘルニアのせいと言われている痛みは侵害受容性疼痛です。

腰椎椎間板ヘルニアにおける神経根性下肢痛の本質

痛覚受容器(ポリモーダル受容器)にブラジキニンと言う発痛物質が作用すると「痛覚過敏」状態になるといわれています。

ブラジキニンが産生遊離されるメカニズムは交感神経の緊張と関係があるといわれています。(痛みとはの花岡氏の図、痛みの悪循環のサイクル図を見てください)

交感神経の緊張がなぜ起きるのかということですが、構造的異常や神経の圧迫で交感神経が緊張するという生理学がないのです。痛みなどのストレスと関係しているといわれています。これらはもはや医学的にじゅうぶん認められたことになっています。

構造的異常や神経の圧迫で交感神経が緊張するという仮説をたてるのなら、それを証明しなくてはなりません。それが真実なら、「花岡氏の図」や、「痛みの悪循環のサイクル」にそのことが記されていなくてはなりませんが、そういうことはありません。

交感神経の緊張はストレスやパターン化と関係しています。だからどのような治療をしても結果的に治ったり治らなかったりするのでしょう。様子をみましょうとはそういうことですよ。

痛みは脳が認知して脳が反応しているという事実は疑う余地はありません。この世界は個人差が大きく奥の深い世界です。脳の認知と反応をクリアカットに論じることはできません。

[軸索反射][神経性炎症]

 ほとんどのヘルニアは無害(馬尾症候群は除く)

神経に対する圧迫は運動線維、触線維およぴ圧線維の伝導をしゃ断させるが痛覚はこれを比較的侵すこと少なく,あとまで残す。圧迫に対して影響を受けやすいのは

運動神経、触覚、圧覚神経 > 痛覚神経

神経を圧迫すると運神神経麻痺や触覚、圧覚神経麻痺は早期に起きるが痛覚神経は麻痺しにくい。痛覚神経が麻痺してしまうと末梢からの痛み刺激は遮断されて痛みを感じなくなってしまう。(医科生理学展望)


「ヘルニアによって神経が圧迫されて痛む」と主張するならば上記の生理学的常識とヘルニアの場合はなぜ違うのかを明確に説明しなければならないのだが納得できる説明がされていない。近年、物理的圧迫よりも化学物質による神経感作が問題になっているがいまだ定説とはなっていない。     

ヘルニアによって運動神経麻痺、触覚、圧覚神経麻痺をきたした症例はあるのか?拇指の背屈力の低下は運動神経麻痺ではなく筋痛による筋力低下である。しびれは触覚神経麻痺ではない。ほとんどの場合麻痺症状はない。

「ヘルニアに悩んでいる人」は麻痺症状を呈してはいないが、なぜかこのことも説明されていない。医師はただ単に、ヘルニア=痛み、という生理学に反する先入観、思いこみから診断しているのではないか。だから説明や治療に論理的に納得いく一貫性がなく疑問を感じている人も少なくないことと思われる。

牽引、神経根ブロック、消炎鎮痛剤、安静、ストレッチ、コルセット、手術・・・いったいこの疾患の本質は?見えてくるものがありますか?

 

ヘルニアと神経の関係のイメージ(黄色の神経のケーブルの中に運動神経、触覚神経、圧覚神経、痛覚神経、交感神経などがが通っています。)

微構造上、神経と根との間に差を認め難い。(図説 人体組織学  本陣良平 著)

 

臨床経過

要はいかに繰り返される交感神経の緊張を主とした脳の反応をストップさせるかということです。

症例

131432)、243656152655(Hさん)57586067697173 

ブログより

は他医にてMRIをとった結果、ヘルニアを指摘された後、私が治療した症例です。その他にもいくつかあります。

以下はある掲示板から本人の了解をえてとってきたものです。

2002年7月4日

はじめまして、こんにちは。私もヘルニアと闘っています。同時に三個所ヘルニアになり、すでに手術を二回し、一時は順調に回復してるかに思えたのですが、半年後の今痛みが再発しています。いろいろ治療をしましたが効果なく、検査の結果、三個所すべて固定するしか有効と思われる方法がないという結果になりました。それでも痛みが取れるかわからないとの事です。最初の摘出手術の時、押されていた神経は変色しもう少し遅ければ足は完全に動かなくなっていたと言われてはいましたが、結局その時点でもう手後れだったようです。そこで、次にあげる事に付いて、もし詳しく知っている人がいらっしゃいましたら、どうか教えて下さい。
@腰の骨を三個所固定すると、相当腰が動かなくなるとの事ですが、はたしてどのくらい動かないものなのか?
A障害等級表の障害等級11級の、『せき柱に奇形を残すもの』とは、具体的にどのような事をさしているのか?
B労災について
もしどれか一つでも詳しくご存知の方、ぜひアドバイスお願いいたします。

2002年8月6日

おはようございます。本日より、早朝マラソンを始めました。マラソンといっても、まだまだウォーキング&散歩&ちょっとだけマラソンって感じなんですけどね。走ったのは7年ぶりぐらい!ずーと慢性腰痛で走れないとおもっていたから。
あの時はまた走れるようになるとは思ってもいなかったのに、走れるようになるなんて、感激です。社会復帰に向け少しずづ走れる距離を伸ばしていきたいと思います。スタミナ、筋力を回復せねば!あっ!あと入院&自宅療養中に10Kg太った体も元にもどさねば!

ヘルニアの鑑別診断は?

このような痛みやしびれを訴えている患者さんにMRIの検査をして椎間板ヘルニアがあれば、「椎間板ヘルニア」という診断になるのだが、ヘルニアがない場合の診断はどうなるのだろうか。

表1:腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会提唱の診断基準

  1. 腰・下肢痛を有する(主に片側,ないしは片側優位)

  2. 安静時にも症状を有する

  3. SLRテストは70°以下陽性(ただし高齢者では絶対条件ではない)

  4. MRlなど画像所見で椎間板の突出がみられ,脊柱管狭窄所見を合併していない

  5. 症状と画像所見とが一致する

「症状と画像所見とが一致する」この症状とは神経学的所見、つまり知覚麻痺や運動麻痺のことであろうが、神経原性の知覚麻痺や運動麻痺をみることはない。

症状=痛みやしびれ、とするならば、これらが画像所見と一致するという言い方は奇妙だ。他人の痛みやしびれが画像で分かるということか?

それはさておき「症状と画像所見とが一致しない」場合の診断はどうするのだろうか?

ヘルニアがなかったとき、画像所見と一致しない(?)場合の診断はどうするのだろうか?どのような診断の可能性があるのだろうか。鑑別診断はどのようなものがあるのだろうか。


このような症状を呈する疾患は

これ以外には何があるのだろうか?あるとすればそれを鑑別診断として表記すべきだ。

このような痛みやしびれを呈する疾患は

img12.jpg (34922 バイト)

「筋・筋膜性疼痛症候群」だと思っている。

Myofascial Pain Syndrome (筋筋膜性疼痛症候群)の鑑別診断

  • 内臓疾患(虚血性心疾患、消化器潰瘍、胆嚢疾患)

  • 感染症(ウイルス、細菌、寄生虫)

  • 新生物(悪性腫瘍)

  • 精神疾患に伴う痛みと行動

THE DIAGNOSIS AND TREATMENT OF FIBROMYALGIA

Michael Wolk, MD, FAADEP


筋筋膜性疼痛症候群(myofascial pain syndrome)の類似疾患「線維筋痛症」との違いは記載されている。また鑑別診断は上記のように「椎間板ヘルニア」は記載されていない。つまり、椎間板ヘルニアによるという概念そのものがないのだ。私もそう思う。

一方、ヘルニアが原因だとすると、その鑑別診断に「筋筋膜性疼痛症候群」があげられているであろうか?あまり聞いたことがない。その存在そのものを否定するのであろうか。

「神経根ブロックをして痛みが消えたから、根性疼痛だ」ということを聞くことがある。これは正しくない。筋筋膜性疼痛でも、根ブロックで消えることはある。

私は「ヘルニア」と診断された患者さんを「筋筋膜性疼痛症候群」と診断して診療してきた。

ヘルニアが原因とするなら、安静、硬膜外ブロック、神経根ブロック、MRIの頻回検査(消失を期待して)、手術などが考えられる治療手段だ。

筋筋膜性疼痛症候群が原因とするのなら、MRI不要、硬膜外や神経根ブロックに代わってトリガーポイントブロック、マッサージやストレッチ、安静に代わって認知行動療法。

経済的、心理的、副作用、治癒、再発、不安感などどちらが患者さんにとってよいだろうか。

加茂整形外科医院